第11話 清楚美人とギャルと遊園地①
「早くー!こっちこっち〜!」
楽しそうに行き交う人たちの向こうからもっと楽しそうな笑顔で久慈川が手を振っている。
俺にはそれが地獄への誘いに見えてしまう。
正直行きたくない。
「何をしているんですか?行きますよ」
隣にいた杏奈にそう言われて俺は渋々歩き出したのだ。今日はGWが始まって3日目、俺達は遊園地に来ているのである。
結局俺達は、久慈川の提案を断ることが出来なかったのだ。やつがウキウキだったのもあるが1番の原因は杏奈が行くと言い出したからだ。最初は難色を示していたのに久慈川に呼ばれて2人で何やらコソコソ密談したとたんに了承したのである。何を言われたんだよ!気になって聞いてみたが「秘密です!」と言われて教えてもらえなかった。
結果2対1となり、遊園地に行くことがあっさり決定したのである。
俺は有名テーマパークに行くものだと思っていたのだが、久慈川から
「そんなとこ人いっぱいで大変じゃん!」
と正論を返されてしまい、地元の人しか来ないような文字通り遊園地に来ているのだ。そして全員の予定を合わせたら今日になったと言うわけだ。
まぁ来てしまったものは仕方がない。若干の不安はあるが楽しむか。
「それにしても意外と人いるな」
俺が周りを見ながそう言うと
「人そこまで多くないし、安い割に意外と楽しいから学生とか家族連れ多いんだよね」
久慈川が得意気に答えてくれた。
「へぇ意外と人気なんだな」
「大輝くんはここへ来るのは久しぶりなんですか?」
俺が感心していると隣にいた杏奈が覗き込みながら聞いてきた。
「久しぶりだな。前に来たのは幼稚園の頃だったかな。杏奈はどうなんだ?」
「私もそれくらいに来たのが最後ですね」
どうやら俺達はほぼ初心者というわけだ。
それにしても杏奈が幼稚園以来なのは意外だったな。友達と来てそうなのに。
そんな話をしているとウキウキの久慈川が
「私は結構来てるからね。今日は任せてよ!」
ウィンクしながら親指を立てて前に差し出す。
いちいちリアクションが大きいやつだな。
「まっ今日は頼りにしてるよ」
くやしいが実際に頼りになっているのだ。
電車の時間からチケットの手配に集合時間など全て久慈川が主導してくれたのだ。
全部人任せにするかと思っていたから意外だった。案外面倒見よかったりするのかもな。
そんな俺達は園内に入ってすぐに揉めた。
仲良くなるために来たはずなのにソッコーで
揉めているのだ。
「最初はメリーゴーランドだろ!」
「何言ってんの!ジェットコースターに決まってんじゃん」
「ジェットコースターは中盤だろ!」
「メリーゴーランドこそ中盤じゃん!」
「私はお化け屋敷に行きたいです」
「お化け屋敷こそ最初に行くもんじゃねぇよ」
そう、どのアトラクションに乗るかで揉めているのである。俺はメリーゴーランド、久慈川はジェットコースター、そして杏奈がお化け屋敷。見事三者三様分かれているのだ。
百歩譲ってジェットコースターは分かる。だがお化け屋敷はまじでわからん!絶対最初にするチョイスじゃねぇだろ!
「杏奈、お化け屋敷はもうちょい待とうよ」
「そうですか?最初に行った方がいいと思ったのですが」
「杏奈ちょっとおいで」
そう言って2人で俺から離れてコソコソ話出した。また密談である。ここに来ることもこの密談で決まったのだ。嫌な予感がする。
「ジェットコースターにしましょう」
戻ってきたら杏奈はあっさり鞍替えした。
「まじでその密談何なの?何話してんの?」
「別に何もないですよ。ジェットコースターが良いなと思っただけです」
「ほら!杏奈もこう言ってるしジェットコースターで決まりね!」
まじ何なの?何か怖いんですけど!密談する度に俺の主張が退けられるんだが?
杏奈は何言われてんの?弱み握られてんの?
まぁ決まってしまったものは仕方がない。
「分かった。ジェットコースターでいいよ。
でも1人あぶれるし俺が残るから2人で行っておいで」
俺は2人で行ってくるように促す。
杏奈と久慈川は顔を見合わせて頷いたあと提案してきた。
「2回乗ればいいじゃん」
「いや待ってるよ。手間だしさ」
「大輝くんが2回乗ればいいと思います」
2人は俺を見ながらそんな提案をして来る。
俺は思わず目を逸らしてしまう。
「いや大丈夫だから。ほんと大丈夫だから」
「怖がらなくても大丈夫ですよ」
杏奈が小首をかしげなが微笑んでいる。微笑んでいるが絶対その裏でニヤニヤしている。
久慈川はあからさまにニヤニヤしている。
こいつら気付いているのだ!俺が高いところが苦手なことを!何でバレた!
「そんなあからさまにしてたらバレるに決まってるじゃん」
久慈川は俺の肩を叩きながら爆笑している。
杏奈も肩を震わせて笑っている。
「じゃ行こーか!」
こうして俺は無理やりジェットコースターに乗せられたのだ。まじで2回も乗せられた。
結果、俺はベンチでぐったりしている。
そんな俺を見て久慈川は爆笑している。
笑ってくれ!高校生にもなってジェットコースターでぐったりしている男をな!
誰だよこんな頭のおかしい乗り物作ったやつ!
「大丈夫ですか?よかったらこれを」
そう言って杏奈はペットボトルのお茶を差し出してくれた。ほんと優しいよな。でもその優しさを俺がジェットコースターに乗る前に発揮して欲しかったよ。優しさってなんだろうな?
俺はお礼を言ってお茶を受け取った。
「んじゃ次は何のろっか?」
ウキウキの久慈川に俺と杏奈は連れ回された。
園内は連休中にも関わらずそこまで人は多くなかった。そのためアトラクションに乗るために並ぶ事がほとんどなかったのだ。そうすると何が起こるのか。そう休みなくアトラクションに乗ることになるのである。久慈川は休む暇さえ与えてくれなかったのだ。たまに並ぶ事もあったがこれが良い休憩になるのだ。結果、久慈川の体力が回復してしまいまた連れ回される。
楽しさが限界突破した久慈川が止まる事はなかった。こいつ元気過ぎるだろ!
こうして俺達の午前中はアトラクションを満喫して終わったのだ。
まぁ何だかんだと楽しんだ俺達は昼休憩を取る前にトイレに寄ることに。俺が高い系のアトラクションに乗る度に水分を大量摂取したからである。
「ほんじゃちょっと行ってくるわ」
「それでは私もご一緒しますね」
「じゃあ私ここでまってるから!」
ついでに杏奈も行くみたいだ。そういや女子と連れ立ってトイレに行くのとか初めてだ、なんてまじでどうでも良いことを考えてしまった。
トイレに向かっていると杏奈が話しかけてきた。
「遊園地に来たのは幼稚園以来ですけど楽しいですね」
「だいぶ連れ回されたけどな」
「ふふっ絵里は元気ですからね」
「あれは元気過ぎるだろ」
「高いところいまだに駄目なんですね」
「駄目っていうか好き好んで高い所に行く意味が分からん」
「またそいう事を言うんですから」
「こればっかりは治るもんでもないしな」
そんな会話をしているとトイレに着いた。女子の方には長めの列が出来てい杏奈は待たなくていいと言ってくれた。スッキリしてトイレから出ると女子の方は相変わらず列になっていたが、杏奈の姿は見えなかったのですぐ出てくるだろうと思い待つことにした。まぁ久慈川の待ってる場所もそんなに離れてないしな、なんて思って久慈川の方を見ると何やら知らない男達に絡まれていた。
それを見た瞬間、俺はまたベタなと思ってしまった。だって少し離れた間に男に絡まれているのである。これをベタと言わず何というのだ!
あいつなら上手くやり過ごせるとは思ったが、何やらしつこく食い下がっていそうだったので俺は大きなため息をついて歩き出した。
「いいじゃん!一緒に遊ぼうよ」
「だから友達と来てるんだって!あっち行ってよ!」
「じゃあその友達も一緒にどうよ?」
「しつこい!」
近づくとまじでベタベタな会話をしていた。
すげぇな!まじでこんなナンパあるんだと感心して思わずまじまじと見てしまった。
あまりに見すぎていたのかナンパ男の1人が俺に気付いてしまった。
「何見てんだよ!」
そこまでテンプレなのかよ!なにこれ?
もしかしてこいつら役者で練習かなんかしてんのか?いや!ドッキリか!俺は思わず周りをキョロキョロして撮影隊を探してしまう。
「お前だよ!つか誰だよお前!」
何かさっきより怒っている。
仕方ないので俺は口を開いた
「誰と言われても初対面の人に名乗るわけないだろ?今のご時世個人情報は大事だよ」
「そんな事聞いてんじゃねぇよ!」
「なめてんのか!関係ないなら出てくんな」
めっちゃ怒ってんな。カルシウム不足か?
「関係あるかないかと聞かれればあるかな」
「何だよ彼氏か?」
「彼氏ではありません!そいつの。。。何なんだろうな?」
俺は首をひねってしまう。俺と久慈川って何なんだろうか?
「友達でしょ!」
久慈川が叫んだ。
「友達か?話だしたの最近じゃん」
「何でそんな事いうの?めっちゃしゃべってるじゃん!てか今日も一緒に遊んでんじゃん!」
なるほど久慈川は俺の事を友達と認識しているのか。うーん、友達かぁ。。。
「何めんどそうにしてんの!友達じゃん!何でそんな嫌そうなの!まじありえない!」
「分かった分かった。友達だからそんな大きな声だすなって」
ナンパ男2人は俺達のやり取りにポカンとしていたが我に返ったようでまた凄んできた。
まだ凄めるのかよ。メンタル強いな。
「何俺ら無視して話してんだよ!」
「ごめんよ。でもその子は俺の友達なので、そろそろどっか行ってくれませんかね?」
「なんだとコラ!」
「周り見なよ。すごい注目されてる」
さっき久慈川が大声出した時からめっちゃ注目されているのだ。まじ勘弁して欲しい。
「ここは遊園地で楽しく遊ぶ場所でしょ?
家族連れも多いしお子様の教育にもよくないので俺達から離れた方がいいよ。じゃないとSNSとかで拡散されるんじゃない?俺も拡散されたくないからさ」
何人かスマホを構えている。まぁ俺達を撮っているのかは知らないけどね。
ただ彼らには効果が抜群だったようで
「ちっシラケたわ」
「調子のんなよ!」
何ていうベタベタな捨て台詞を吐いて俺達の前から消えて行った。
「凄かったな。あんだけベタベタなナンパも無いと思うんだよな」
久慈川に話しかけると
「友達じゃないって思ってたの?」
唇を突き出して不機嫌そうにまったくナンパに
関係無い事を言い出した。
「ごめんって。俺、友達少ないからさ。今はちゃんと友達だと思ってるから」
「ほんとに?」
「ほんとなんで機嫌直して下さい」
俺がそう言うと久慈川は鼻をならす。
「許す!」
許してもらえたようだ。これで不機嫌な久慈川と昼ご飯を食べることは回避された。
「あと、助けてくれてありがと」
久慈川は俯いてもじもじしながらそんな事を言うのだ。俺はあざといなぁ何て思いながら
「まぁ何も無くてよかったよ」
そう言いって久慈川から視線を外してしまう。決して照れたのではないと思いたい。
視線の先にはトイレがあったので、杏奈はまだ戻ってこないのか気になって視線を外しただけだと自分に言い聞かせた。




