第4話 清楚美人と日常を
尾上さんにお説教をされた翌朝、俺はいつもより遅めに登校していた。理由は簡単だ。
俺は寝坊したのである。
昨日、尾上さんと中城先輩の2人に言われた事を考え過ぎて全然寝れなかったのだ。
考えに考えたその結果が寝坊である。まぁ遅刻する程ではないのが不幸中の幸いだ。
むしろ今日の事を考えれば遅めの登校の方が都合が良いしな。そう言い聞かせながら俺は学校に向かっていた。
校舎に入るとすでに多くの生徒が登校しておりザワザワと騒がしい。
入学して少し経った頃に、この騒がしい廊下を歩くのが急に嫌になってしまい、俺は毎朝早めに登校するようになった。特に何かあったわけではない。本当に何となくなのだ。そう思ってしまったのだから仕方がない。
毎朝人の少ない廊下を歩いて、人の少ない教室で本を読むのが俺の日常になっていた。
一番最初でない辺りが実に自分らしなと思う。
でも今日はその騒がしい廊下を歩いても何も気にならない。何をあんなに嫌がっていたんだろうな。そんな事を考えていると教室に着いた。
俺は扉を開けて中に入る。扉の音に反応して何人かがこちらを見るがすぐに視線を戻す。
教室の中を見ても俺を気にする人間なんかいな1人もいない。まぁそんなもんだよな。
自分の席を見るとすでに登校していた彼女が目に入った。いるな俺の事を気にする1人が。
なんて考えながら俺は自分の席に向かう。
席の横に立つ俺を見た彼女は明らかにソワソワしている。俺は何だか笑ってしまった。
笑われた彼女は明らかに不満顔で俺を睨む。
それを見て俺はまた笑ってしまう。
彼女は不満顔を誤魔化すように咳払いをして、いつものすまし顔になると口を開いた。
「おはようございます、黒澤くん。今日はいつもより遅かったですね」
「ちょっと寝坊したんだよ。おはよう、杏奈」
杏奈は目を見開いて固まってしまった。それを見て何も言わずに自分の席につく。
俺はやけになった訳でも、からかった訳でもないのだ。
「どうした?もう先生くるぞ」
「い、いま!」
ましてや何かをしてやろうなんて、だいそれた事を思った訳でもない。
「ほら杏奈、前向いてないと」
そう言うと彼女は何かに納得した顔をした。
「そうですね。ありがとうございます大輝くん」
俺達は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
そう、俺はただ周りを気にする事をやめただけなのである。
ただそれだけの事だけど、それでもこうして彼女が笑ってくれるならやめて良かったなと思うのだった。




