第3話 尾上さんとお説教
「俺はどう思ったんだろうなぁ?」
バイト終わりの休憩室で俺は思わず呟いた。
あのあと杏奈は「この話はもうおしまい!」と言って、この話題には一切触れてこなかった。
それは家に送っていく間も変わらなかった。
何も無かったかのようにいつも通りだったのだ。いつも通り過ぎて逆に俺が意識し過ぎたくらいだ。彼女には死ぬほど笑われたけど。
そして今朝である。杏奈は苗字呼びに戻したのだ。俺はまた名前呼びされると思い、身構えていたので拍子抜けしてしまった。そして、それ以降とくに絡んでくることもなく帰り際に
「それでは黒澤くんまた明日」
と言って帰っていったのだ。昨日との落差が大き過ぎて俺は逆に受け止められず昨日より悶々としてしまった。昨日から振り回されまくっている。これも彼女は見越していたのだろうか。
何となくそうなんじゃないかと思う。
こうして今日も悶々とした俺はバイト終わりに休憩室でグダグダしているというわけだ。
「何?またギャルとなんかあったのか?」
そんな俺を見て中城先輩が話しかけてきた。
中城先輩は相変わらずタバコを吸っている。
「ギャルっていうか、清楚美人ですね今回は」
「は?ギャルだけじゃねぇの?お前、刺されるなよ」
中城先輩は何やら勘違いをしている様である。てか刺されるって誰にだよ!
俺は面倒くさいなと思いながらもこのままにしておく方が面倒だと判断して訂正する。
こういう所が頼りになるのに尊敬できない要因なんだよなと心の中でため息をついた。
「いつものギャルですよ。清楚美人と同一人物です。前に話したでしょ?」
「あぁ、学校行ったらギャルが清楚美人になってたやつか」
「それです」
「ならギャルと何かあったんじゃねぇか」
「だから清楚美人の方ですって」
「はぁ?清楚美人はギャルなんだろ?」
「ギャルが清楚美人なんですよ」
俺と中城先輩のやり取りを聞いていた尾上さんが呆れた様に話に入ってきた。
「2人とも何わけわかんない事いってんのよ」
尾上さんは見た目は清楚美人であるが中身が残念極まりない人なのだ。清楚美人の皮を被ったサディスティックなおっさんだと思っている。
そうだ!尾上さんがいるじゃないか!
見た目は清楚美人で中身はまるで違う第一人者ではないか!俺は相談する事を決め、事の経緯を話し始めた。
「あんたほんと何やってんのよ」
話を聞き終えた尾上さんの第一声である。
ついでに残念な子を見る目で俺を見くるのも忘れていない。
「やっぱこいつ何にも分かってねぇな」
ついでに話を聞いていただけの中城先輩まで、残念な子をみる目で見てくる。
何で2人ともその目で見てくるかな。俺は不思議で仕方がない。
「その子が何でそんな事しだしたのか分かってんの?」
「俺と学校でも話たいからですよね?」
「それだけじゃないでしょ?」
「学校でも仲良くしたいとは言ってました」
「なら何でそうしないのよ?」
俺は尾上さんの質問に答えられなかった。
そんな俺を見て尾上さんは額に手を当ててため息をついたあと、
「ほんと信じらんない!何にもわかってない」
そう吐き捨てる様に言いながら珍しく俺を睨んできた。俺は思わず姿勢を正した。なぜか中城先輩も姿勢を正していた。
「学校で話しかけられて何か問題あるの?」
「問題というか俺に話しかけると、むこうが何言われるかわからないし」
「ならあんたは何言われても問題ないはずよね?」
俺は黙ってしまった。
「どうせあんたが周りに何か言われるのを気にして話してないだけでしょ!何その子のせいにして逃げてんのよ」
尾上さんは真剣な顔で俺を見てくる。
「ギャルとは仲良くなったんでしょ?」
「そうですね。一緒に洗濯するくらいには」
「なら何で学校でもそうしないのよ?」
「いや学校だと清楚美人だし」
「清楚美人もギャルも一緒でしょ?何見た目ばっかり気にしてんのよ」
俺はまた黙ってしまった。
「ギャルだ清楚美人だとか言い訳して、学校で仲良くしないのは、あんたが周りにビビってるだけじゃない」
「でも学校で俺と仲良くして何か言われたら嫌だろうし」
「それ、その子がそう言ったの?そもそも仲良くしたいって言ったのは誰なの?」
「杏奈です」
「ならあんたが勝手に決めんな!」
尾上さんは怒っていた。こんな尾上さんは初めて見た。
「周りの目を気にして話さないのもあんた!
周りにビビって仲良くしないのもあんた!
見た目を言い訳にしてんのもあんた!全部あんたなの!他人のせいにしてんじゃないわよ」
俺は何も言えなかった。言える事がないくらい全部言われてしまったのだ。俺は自分が情けなくなって俯いてしまった。いつの間にか色んなものを見て見ぬふりをしていたのだ。
「誰に何言われても平気なんでしょ?
なら今度も平気なはずよ。だから周りなんてどうでもいいものを気にせず、ちゃんとその子の事を考えてあげな」
さっきまでの怒っていた声色とは一転して、俺に言い聞かせる様に優しく話しかけてくれる。
「あと何で今になって周りの目が気になったのかもちゃんと考えなさいよ。それは大輝のためなんだからね」
俺は顔を上げる事ができなくなっていた。
「お説教はこれでおしまい」
「ありがとうございます」
「いくつになっても世話がかかるんだから」
そういって俺の頭を少し乱暴に撫でてくれる。
しばらく撫でたあと尾上さんはタバコを吸いに行った。それと入れ替わるように
「お前、ちゃんとその子に謝っとけよ」
中城先輩が俺にそんな事を言ってきた。
「ただし謝る前に何が悪かったかちゃんと考えてから謝れよ」
「わかりました」
俺は素直にその助言を受け入れた。
そんな俺達のやり取り聞いていた尾上さんが
「何を偉そうに言ってんだか」
そう言いながらタバコの煙を吐き出していた。
「たまにはいいだろ?」
「カッコつけてんじゃないわよ」
「別にカッコつけたわけじゃないから」
「どうだか」
「ひどくない?」
そんな2人のやり取りを見ながら思わず笑みがこぼれてしまう。やっぱりこの2人達には敵わないな。
ちゃんと色んな事を考えないとな。2人に言われた事をかみしめなが、俺はそう心に決めるのだった。




