第22話 春休み明け初日は波乱がつきもの
春休みも終わり今日から新学期である。
何だかんだ楽しかった春休みが終わったのだ。学校に行くのが少し憂鬱になる。自然と足取りも重くなってしまうのは長期休暇明けの宿命みたいなものだ。
ただ家から学校まで徒歩圏内なのはありがたい。電車通学などめんどくさすぎる。
ほどなくして、学校に着くと下駄箱の前に人だかりが出来ていた。
そういえば今日から新しいクラスになるのか。
取り敢えずクラス表が貼り出されている所に近づき自分のクラスを確認する。
1組から順に見ていくと、あった。どうやら3組になったようだ。
自分以外の名前など確認せずにさっさと教室に向かう。自分以外の名前を確認したとろで誰か分からない人の方が多いのだ。1年の時のクラスメイトの名前があっても多分気付けない。
教室に入るとまだ人はまばらであったが全体的にソワソワしている感じがあった。まぁ新学期だもんな。どんなクラスメイトがいるのか気になるよね。なんて他人事のように感じながら、
黒板に貼り出されている座席表を確認する。
おお!窓側の1番後ろじゃないか!何て幸先が良いんだろうか!
ここにきて俺のテンションはようやく上がった。早速自分の席に向かい椅子に座る。
いいねぇ!この席はめっちゃいい!
すでに登校時の憂鬱な気分など吹き飛んでいた。俺ってばなんてチョロいんだろう。
教室を見た感じ知り合いはいなさそうなので、俺はカバンから本を出して読み始めたがすぐに読む事が出来なくなってしまった。なぜなら少し離れた所にいる男子の集団が大声で何やら騒ぎだしたからだ。
「クラス表見た?」
「見た見た!このクラスめっちゃいいじゃん」
「女子に可愛い子多いよな」
「まじかよ!」
まだ人が少ないとはいえ大声で話すことでもないだろう。もうちょい声のボリュームを絞って欲しい。
「俺、姫川さんの近くだった」
「あのちっちゃくて可愛い子だろ?」
「そうその子!」
「可愛くて明るいんだよなぁ」
彼らはおかまいなしに何やら女子の話で盛り上がっている。もはや本に集中することは不可能になっていた。
「俺は西蓮寺さんの隣だぜ」
「まじかよ!あのクールなのがいいよな」
「身長高くてスタイルもいいしな!」
「俺は久慈川さんの近くになりたかった」
「お前ギャル好きだもんな」
「うっせぇ!黙れよ」
お前が黙れよ!てか全員黙れよ!
思わず心の中で突っ込んでしまった。
声のでかい彼らのせいで知りたくもない女子の情報がどんどん入ってくる。
というかバリエーション豊かだなこのクラスの女子達は。何か逆に興味でてきたわ。
大声男子達はその後も何人かの女子の名前を出しては盛り上がっている。クラス替えであれだけ盛り上がれるのはある意味幸せだろう。というか可愛い子が多いから何だというんだ。
彼らは俺の内心などお構い無しに話し続けている。
「でもやっぱ白瀬さんだよな」
「めっちゃ清楚な子だろ?」
「そうそう!めっちゃ美人なんだよ!」
「しかもめっちゃ金持ちらしいよ」
「お嬢様じゃん」
「俺ら誰も席近くないんだよな」
「まじかよ」
よかったね白瀬さん!彼らの近くにはならなかったようだよ!これで静かにすごせるね。
俺は見知らぬ彼女をお祝いしてあげた。
ついでに俺も彼らの近くじゃないので、クラス割を決めた教師に感謝を伝えたい。
てか清楚美人なんて良いもんじゃないのにな。
俺は清楚美人の皮を被ったやべぇ人を思い浮かべながら、すでに手に持っているだけとなった本に目を落とすのだった。
しばらくすると大声で騒いでいた彼らの声が聞こえなくなっていた。ようやく静かにしてくれたのかと安堵していると、椅子を引く音が聞こえた。どうやら隣の席に人が座ったようだ。
どんな人物か気にはなるが今確認しなくてもそのうち分かる事なので、俺は気にせず本を読み続けた。すると不意に声が聞こえた。
「あの?」
俺に話しかけているなどと思っていないので俺はその声を無視したが
「すみません。聞こえていますか?」
はっきりとそう言われたので、さすがの俺も自分に話しかけているのだと思い、本を机に置いて顔を上げ隣を見た。
「よかった。ようやくこちらを見てくれましたね」
そう言って微笑む顔が目に入り俺は固まってしまったのだ。
真っ黒で長い髪は綺麗なストレートで、ツヤツヤしていて黒というより少し紫っぽく見える。
目鼻立ちは整っており、切れ長で大きな目は少しタレ気味で長いまつ毛も合わさっておっとりとした印象である。肌は透き通るように白い。
まさに清楚美人である。大和撫子だ。
その清楚美人に俺は戸惑いが隠せなかった。
「な、なんで?」
「なんでと言われましたら、同じクラスで隣の席になりましたのでご挨拶をと思いまして」
小首をかしげ、微笑みながらそんな事を言う彼女は話し方もまさに清楚である。話し方も言葉遣いも丁寧で似ても似つかないはずなのに、俺はある人物と彼女を重ね合わせていた。
そんな困惑している俺を見て彼女は微笑みながらこう言うのだ。
「せっかく同じクラスになりましたので、これからも宜しくお願いしますね。黒澤大輝くん」
俺は目の前の現実が信じられなかった。
夢でも見ているのだろうか?もしかして幻覚?
そんな俺の事などお構いなしに彼女は続ける。
「私の名前は杏奈です。白瀬杏奈です。大輝くんはすでにご存じかと思いますが念のためにお伝えしておきますね」
彼女は否が応にも事実を突きつけてくる。
俺は目の前で起きている事がようやく事実だと理解した。理解するしかなかった。本当は最初から気付いていたが単に脳が理解を拒んでいただけのようだ。いや理解したくなかったのだ。
そして俺はようやく声を出すことができた
「ギャルがいる」
俺の呟きを聞いた彼女はまるでイタズラが成功した様な笑顔になりこう言うのだ。
「第一声がそれですか?」
信じられるだろうか?俺は信じられない。
本当に意味が分からない。
ギャルとコインランドリーで仲良くなったら
清楚美人になって隣の席に座っていたのである。
俺は現実逃避するようにしばらく彼女を見つめ続ける事しかできなかった。




