第21話 ギャルと春休み最後の夜(後編)
俺達はしばらく雑談をしていた。こういうのも悪くないななんて思っているとギャルが突然
「そういえば、今日で春休みも終わりだね」
と思い出した様に言うのだ。
あれ?俺、今日で春休みが終わりだって言ったかな?でも断定してるって事はたぶん言ったんだろうな。うん言った気がするな!
特に気にせず俺は話にのっかる。
「ですね!今日で終わりです。まぁ俺は毎日バイトしてたんですけどね」
「毎日ってことは12連勤?」
ギャルは指折り数えながら日数を確認する。
「正解です!今日で12連勤でした」
「めっちゃ頑張るじゃん」
「めっちゃ頑張りました」
ギャルに労ってもらえて素直に嬉しい。
尾上さんも中城先輩も労ってくれなかったからな。それどころか、まじかこいつ?みたいな顔で見てくるだけだしね。
そんな事を考えているとギャルは何かを決意したような顔をした後、
「頑張った少年にご褒美をあげよう」
そう言ってスマホを取り出したのだ。
俺は訳がわからず首をかしげる。なんでご褒美でスマホ?なんか写真でも見せてくれるのか?
疑問だらけの俺にギャルはあっさり答えを教えてくれた。
「私の連絡先、教えてあげる」
ギャルはスマホを振りながら俺に笑いかけるのだった。突然過ぎて意味が分からなかった。
「連絡先ですか?」
「そっ!連絡先!なに?欲しくないの?」
ギャルは唇を突き出して不満をアピールする。
「あざとい!!」
俺は思わず叫んでしまった。
いかんいかん!思ってたより混乱していたようだ。恥ずかしさを誤魔化すために咳払いをする。
「すみません。取り乱しました」
「ビックリした。急に大声たすじゃん。
んで、いるの?いらないの?」
ギャルは挑発的な笑みを浮かべながら問いかけてくる。
「いります!教えて下さい」
ギャルの問いに俺は即答していた。
自分でもビックリした。誰かの連絡先を教えて欲しいなんて初めてだった。
でも不思議と恥ずかしさはなかった。
「そんなに欲しいなら教えてあげよう!」
俺の答えを聞いたギャルは嬉しそうに笑う。
こうして俺はギャルとメッセージアプリのIDと電話番号を交換した。
メッセージアプリにはギャルの名前が表示されている。
「杏奈」
俺は気付かないうちにその名前を呟いていた。
何だろう名前までギャルっぽいなと思ってしまった。
俺の呟きを聞いたギャルは得意気に自分の名前を告げる。
「そっ!私の名前は杏奈です」
「何かお姉さんぽくていい名前ですね」
「なにそれ。でも私も自分の名前好きなんだよね。だからこれからはお姉さんじゃなくて杏奈って名前で呼んでね」
その表情から本当に自分の名前が好きなんだなと分かる。確かに耳障りもよくていい名前だと思う。めっちゃ馴染んでいる。
まぁ名前で呼ぶかどうかは分からんけどね。
そんな失礼な事を考えながら俺は電話帳にも『杏奈』と打ち込んで登録した。
「大輝もいい名前じゃん」
「へ?」
突然の事にすっとんきょうな声が出る。
「少年の名前でしょ?大輝くん」
「そうですけど何で?」
「さぁ?何でだろうね?」
ギャルは意味深に言いながらスマホを振っている。あっ!メッセージアプリか!
俺がそうだったようにギャルも表示された名前を見たのだ。突然過ぎて頭から抜けてしまっていた。そんな俺を見てギャルはケラケラ笑っている。
「そんなビックリする事ないじゃん」
「いや突然、名前呼ばれたらビックリしますよ」
「少年も私の名前呼んだじゃん」
「そうですけど。あんまり名前で呼ばれる事ないので驚いたんです!」
「なるほどね。ならこれからは私が名前で呼んであげるからさ」
ギャルは人差し指を俺の胸に当てて思わず見惚れる様な笑顔で続けるのだ
「大輝も私のこと名前でよんでね」
俺に選択肢などなく、ただ頷く事しか出来なかった。それを見てギャルもとい杏奈さんは満足そうに笑うのだった。
あの後、名前を呼ぶ度に言い淀む俺を杏奈さんはさんざんからかってきた。そのおかげで言い淀む事はなくなった。引き換えに俺は死ぬほど恥ずかしい思いをしたのだが。
今はコインランドリーを出て杏奈さんを家まで送っているところである。
「今日も送ってくれてありがとね」
「大丈夫ですよ。夜は危ないですし」
「優しいじゃん。それもポイント高いよ」
「でた謎ポイント!」
「別に謎じゃないと思うんだけど」
そんな話をしているうちに杏奈さんのマンションに到着していた。やっぱりすごいなこのマンション!なんで尾上さんには伝わらなかったんだろうか?いつかちゃんと伝えたいものだ。
「無事に着きましたね」
「大輝が送ってくれたからね」
「付いて来ただけですけど」
「それが嬉しいんじゃん」
今日も無事に役目を終えて一安心である。
役目も終えたので帰ろうとした時、
「大輝は明日から大変だと思うけど、学校がんばってね」
杏奈さんがそんな事を言うのだ。
急にどうした?何を頑張るのだ?
「そんな大変ではないと思いますけど、そこそこ頑張ります」
「そこはしっかり頑張って欲しいな」
俺の答えに杏奈さんは少し呆れている。
そんな頑張る事なんてないと思うんだけどな。
「まぁいいや。それとこれからはメッセージ送るからちゃんと返事してね」
「わかりました。ちゃんと返事します」
「よろしい!約束だよ」
「はい!約束します」
メッセージとかあんまり得意でないけどここまで言われたのだ。なるべく返事しよう。
「春休み最後に大輝に会えてよかった」
「俺もです。じゃあそろそろ帰りますね」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、またね。黒澤大輝くん」
「はい!杏奈さんもまた」
俺は自宅に向けて歩き出した。
何だかフワフワする。春休み最後の夜だからだろうか?それとも杏奈さんに会ったからだろうか?どっちでも良いか。良い気分だしね!
こうして俺の春休みは終わりを迎えたのである。




