第12話 ギャルと浮気男
俺の必死の弁明によりギャルは何とか機嫌を直してくれた。
最後まで疑惑の目を向けたままであったが。
ほんとよかったです。まじでよかった。
だってギャルめっちゃ怖かったんだから。
それからは先ほどの不穏な空気など無かったように、いつも通り楽しくおしゃべりできた。
やっぱりギャルとの会話は楽しいし、ギャルは笑っている方がいいなぁなんて思っていた。
そう楽しかったのだ、ギャルがあんな事を言い出すまでは。
俺の試練はまだ終わっていなかった。
そして、その時は突然に訪れたのである。
本日2度目の尋問タイムが開始されたのだ。
「少年はいつも本を読んでるよねぇ?どんな本を読んでんの?」
不意にそんな事を言い出したのだ。
俺のカバンの上にある本を覗き込みながら。
それ自体はごく当たり前の疑問である。
確かにギャルに会うとき毎回、俺は本を読んでいた。
しかも初遭遇の時は話しかけられていることに気づかないほどに集中して読んでいたのだ。
であれば、どんな本を読んでいるのか気になっても不思議ではないだろう。
しかしその質問をされた俺は今まで生きてきた中で一番の緊張感に包まれていた。
自分でも体が強張るのがわかる。
もし最初に会った時に、この質問をされたのであれば何の問題もなく本のタイトルを伝えて、なんなら本を手渡すまでしていただろう。
だが今日は違うのだ。
それは駄目だ!その質問だけは駄目なのである。
なぜ今日に限ってそんな質問をしてきたのだ。
この本を持っている今日に限って!
俺はこの本をギャルに見られる事を、絶対に避けなければならい!絶対見られてはいけない!俺はとてつもない緊張感に包まれていた。
心地よかった暖かく少し乾燥した空気が、今はただただ息苦しさを増加させる要因に感じる。
大好きなコインランドリーというこの空間が、急に閉鎖された監獄の様に感じてしまう。
大丈夫だ。ブックカバーはしてある。
見ただけではどんな本か分からないはずだ。
俺は何とか取り繕い
「色々ですかね。本は割と何でも読みます。
恋愛物からホラー、感動系とか。あんまりこだわりとかはないです。勧められれたら何でも読みますよ。雑食ってやつですね。」
そんな返答をしていた。
どこか変なところはなかっただろうか?
すました顔をしているが内心は冷や汗でダラダラだ。というか実際に背中が汗でびっちょりだ。そんな俺の返答を聞いたギャルは
「へぇそうなんだ」
と一言だけ言葉を発した。
その瞬間、俺の緊張はより高まった。
その声色が今までとは明らかに違うからだ。
俺の発言に明らかに疑いを向けている。
声色だけでなくギャルの目も何だかこちらを
見透かしているようで落ち着かない。
おそらくギャルは感じ取ったのだ。
本の話が出た瞬間、俺が動揺した事を。
俺が何かを誤魔化そうといている事を。
ギャルセンサーの凄さを改めて見せられた。
俺には目の前のギャルがさっきまでの、楽しくおしゃべりをしていたギャルと同じ人物だとは
思えなかった。まるで別人ではないか。
大丈夫、何も怖がることはないはずだ。
この緊張感も気の所為にちがいない。
俺が勝手に疑心暗鬼になっているだけだ。
そんな事を考えていると、ギャルの口から
突然の死刑宣告が放たれた。
「その本ちょっと見せてよ。
どんなの読んでるのかめっちゃ気になるし」
俺は喉の奥でヒュッと音がなるのを初めて聞いたのである。上手く呼吸ができない。
駄目だ!ここで動揺してはいけない。
上手く息をすることができない俺は、怪しまれないためにも何とか声を絞り出した。
「そんな面白い本じゃないですよ。ただの学園青春ものです。これも知り合いから押し付けられたから読んでるだけなんですよ」
俺は今、上手く喋れているだろうか?
愛想笑いは上手く出来ただろうか?
たぶん上手く喋れていないし、笑えていないんだろうな。何故そう思うのか。
答えは簡単だ。
ギャルの笑顔である。
笑顔なのだ。とてもいい笑顔なのだ。
しかし目が笑っていないのである。
そんな笑顔で見られているのだ。
俺は冷静ではいられなかった。
上手く喋れるはずがなかった。
笑顔も引き攣っていたに違いない。
そんな俺にギャルは追撃の手を緩めない。
「へぇ?それってさっき言ってたバイトの先輩から?」
目が笑っていない笑顔で、なぜそんな事を聞いてくるのだろうか?
この本を尾上さんから借りていたら何か問題があるのか?
というかやっぱり尾上さんの事、納得してなかったんじゃないか!
そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていく。
「借りたのはバイトの先輩ではないです。
学校の知り合いから借りました。」
俺は事実を伝えているはずのに、なぜか声が震えていた。
あの目でみられているからだろうか?
事実なのに、俺は自信を持って答える事ができなかった。
そんな俺をギャルはじって見つめてくる。
笑っていない目で、瞬きもせず、じっと見てくるのだ。
何これめっちゃ怖いんですけど!
そんな目で見られていると、何故か俺は浮気を疑われている彼氏の気分になってくる。
これまで浮気などしたことがない、というか男女交際自体経験がないのだ。
にも関わらず俺は今、浮気を問い詰められているのだ。
自分でもおかしな事を言っているのはわかっている。
しかし目の前のギャルから、付き合ってすらいない、なんなら名前も知らない、コインランドリーで会うだけのギャルから浮気を問い詰められているのだ。
実際は違うのだが、そのような雰囲気を感じているのだ。
おかしい。さっきまで楽しくおしゃべりをしていたのに。気が付けば浮気を疑わられて問い詰められているのである。
ただ本をギャルに見せたくなかっただけなのに。
あのときなぜ俺はこの本を選んでしまったのか?
どうして今日もこの本を読んでしまったのか?
今さら後悔してももう遅い。
もうどうする事もできないのだ。
何とか隠し通すことができないだろうか?
この窮地を乗り越えるために俺の脳はフル回転している。
しかし、そんな俺の事などお見通しだと言わんばかりにギャルは首をかしげながらもう一度俺に告げるのだ。より明確な死刑宣告を。
「なら貸して?さっき読んでた本を」
また喉の奥でヒュッとなる音が聞こえてきた。
1日に2度もこの音を聞くことになるとは思わなかった。
これはギャルから明確な意思の乗った死刑宣告である。
首をかしげながら放たれたその言葉は、
一見お願いのようであるが、その実まったく違うのだ。
言葉の裏に込められた本当の意味はこうに違いない。
「良いから早く見せなさい」
やっぱりギャルは気づいていたのだ。
俺が何かを隠そうとしていることを。
俺の考えなどお見通しなのだ。
最初の返答を聞いた時から俺を疑っていたのだ。
だから浮気男を問い詰めるような迫力を醸し出しているのだ。
やましいことが無いのなら隠す必死ないよね?
だったら私に見せれるはずだと。
おかしい。本来なら名前も知らない、コインランドリーで会うだけのギャルにこんな圧力をかけられるなどおかしいのだ。
なぜ問い詰められなければいけないのか?
ギャルには関係ないことだと言っても問題ないはずなのだ。本など渡さなくてもよいはずだ。
だがそれが出来ない。
何故かそれをしてはいけないと、俺の頭の中で警報が大音量で鳴り響いているのだ。
目の前のギャルに逆らってはいけないと。
ギャルは目が笑っていない笑顔で、首をかしげながらさらに言葉を紡いだ。それはたったの
一言であったが、いまだに抵抗しようとする
俺の心を折るには十分な一言だった。
「早く」
そう言われた俺は隠したかったはずの本を
震えながらギャルに手渡してしまったのだ。
初投稿になります。
完結目指して頑張ります。
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