尾上千代の思い出
『大輝と付き合う事になったから』
杏奈からのメッセージを見た私は思わず笑みが溢れてしまう。だって小さい頃から杏奈が大輝の事を好きなのを知っていたのだ。妹みたいに可愛がっている従兄弟が初恋を実らせたのだから嬉しくもなる。
ただ杏奈が好きな男の子が大輝だと知ったのはつい最近のことだけど。それを知った時は驚きよりも面白いさの方が勝ってしまってついからかってしまった。だって大輝から杏奈が何をしていたのか全部聞いていたのだから、からかいたくもなるというものだ。
それにしても杏奈は思っていたよりだいぶ拗らせていたみたいね。まさか自分が幼馴染だということを隠しているとは思わなかった。
「ほんと何やってんだか」
私は大輝から聞いた話を思い出して思わず笑ってしまう。まぁでも話に聞いていたギャルが杏奈だと分かった時にはギャルがいきなり距離を詰めて来たのにも納得できる。
それにしても大輝も大輝で気付かないとかほんと相変わらずね。らしいと言えばらしいけど。
なんせあれだけ一緒に過ごした私にすら気づかなかった男なのだ。10年ぶりに会う杏奈に気付かないのも仕方がないのかも。
そう杏奈と同じ様に私は大輝のことも小さい頃から知っている。というか一緒に過ごした時間であれば杏奈より大輝の方が圧倒的に長い。
なんせ家が隣だった事もあってあの頃は顔を合わせていない日の方が珍しかったくらいだ。
それに私も本当の弟のように可愛がっていた。
当時の私はひとりっ子ということもあって兄弟や姉妹に憧れていたのだ。そんな時にちょっと生意気な年下の男の子が引っ越してきたら構い倒したくなるのも仕方がない。
「私、弟欲しかったのよね!私の事は千代姉って呼びなさい」
嬉しくなり過ぎて初対面なのにだいぶおかしな事を言った気もするが大輝も私に懐いていたので間違ってはなかったんだろうな。
私に懐いた大輝があまりにも可愛かったのでついつい構いすぎたのは良い思い出だ。
だから久しぶりに会った時に大輝が私の事を忘れていたのには本当に腹が立って思わず手が出てしまった。その時の申し訳なさそうな顔が、私に気を使って距離を取ろうとした時と同じで何だか懐かしくなってしまい、ついつい許してしまったんだけどさ。
そんな弟の様に思っていた大輝と妹の様な杏奈が付き合うとかやっぱり面白くて仕方がない。
しかも杏奈は大輝が私の事を好きだったんじゃないかと疑っている節がある。
杏奈からそんな感じの事を言われた時は思わず笑ってしまった。
少なくとも私は大輝からそんな感情を向けられていると感じた事はない。せいぜい近所のお姉さんくらいのもだ。いや大輝の事だから本当の姉みたいに思っていたかもしれない。
まぁもし大輝が私の事を異性として見ていたらそれはそれで面白いんだけどさ。
私はそれを想像してみるがやっぱりそんな事はありえないと思わず笑ってしまう。
確かに大輝は良い男だとは思う。それでも私にとっては可愛い弟だし大輝にとってはお姉さんでしかないのだ。それに嫉妬している杏奈も可愛くて仕方がない。ほんと誰がどう見ても大輝は杏奈にベタ惚れなのに何が不安なんだか。
ほんとは安心させてあげるべきなんだろうけどあの2人を前にすると、どうしてもからかいたくなるのでもう少し楽しませて貰おうかな。
取り敢えずは2人の馴れ初めを聞き出す所から始めようかな。先ずは大輝から聞き出してその後に杏奈から話を聞くのがいいかな。
でも杏奈をからかったから私の事を聞いてきそうなんだよな。どうやって2人をからかおうか考えていた私はそれを想像してしまい思わず苦笑いしてしまう。
本当は2人をからかっている場合ではなくて、自分の事もちゃんと考えないといけないのは分かっている。でも今は2人が付き合い始めたという、めでたくてイジリがいのある出来事の方が大事な事だからね。それにどうせ2人を巻き込むことになるだろうし。
私は自分にそう言い聞かせて少しだけ見て見ぬふりをする事にしたのだった。




