第9話 尾上さんはヤバい人である
その後も俺はしばらくの間、ギャルに頭をなで続けられていた。
もう、されるがままであった。
最初は手を振り払う事を躊躇っていたが、思っていたより長い時間なで続けられた事で流石に羞恥の限界を迎えた。
限界を突破した結果、俺は非常に情けなくも
「恥ずかしいので、もう勘弁してください!」
とギャルに懇願したのである。
若干声も震えていた。いや確実に震えていた。
それを聞いた瞬間のギャルと言えば、とびきりいい笑顔で、さらに俺の頭をなでようとしてきたのだ。
俺は精一杯の抵抗をして、何とか再び頭をなでられる事を阻止できたのだ。
俺の精一杯の抵抗は思っていた以上に情けなかったようでギャルをさらにいい笑顔にした。
その後は頭をなでられる事なく、洗濯が終わるまで2人で色々と話をした。
そこまで長い時間ではなかったが、会話に困ることはなかった。理由はギャルから話を振ってくれるていたからだ。何とも情けない。
話の流れでギャルに何故コインランドリーに来るのか聞いてみたら、洗濯機が壊れたためコインランドリーに通っている事が判明した。
その話を聞いた時、俺と同じ様な人がいるんだと嬉しくなって思わずテンションが上がってしまった。
だがすぐに、そりゃコインランドリーに来るんだから理由も似るよなと思い冷静になり、テンションを上げた事実がめっちゃ恥ずかしくなってしまった。
俺のテンションの上がり下がりを見てギャルはめっちゃ笑ってた。
それ以外では好きな食べ物や、嫌いな食べ物、最近ハマっていることなど。
そんな取り留めのない事を話していたのだが、思っていたよりも楽しくなっていた。
お互いに乾燥が終わったの所で、今日はお開きとなったのだが、もう終わりなのかと名残惜しくなるくらいにはギャルとの会話は楽しかったのだ。
帰り際にギャルから次はいつ来るのか?
とたずねられたので明後日に来る事を伝えると笑顔で「わかった」とだけ言って帰っていった。
そのギャルの笑顔に見惚れたのは内緒である。
そしてまた会えるかもという期待から、
俺は来た時よりも軽い足取りで帰宅したのだ。
「んで?」
「それで終わりです」
「それだけ?」
「はい!」
俺が元気よく返事をすると尾上さんはめちゃくちゃ不機嫌な顔でタバコの煙を吐き出した。
「はぁ〜!まじで聞いて損した!」
「何がです?尾上さんが話せって言ったんじゃないですか!」
「惚気を聞かされるとは思ってなかったのよ。
もっと、あんたが恥ずかしかったり、惨めな思いをする話が聞けると思ったのに。まさか、
ただのいちゃついてる話を聞かされるなんて。まじで砂糖吐くかと思ったわ。ほんと、あんたにはガッカリした!」
「えぇ〜」
俺は困惑を隠せなかった。
頭をなでられた事や、匂いにクラクラきた事など、恥ずかし話を赤裸々に語ったのだ。
いや語らせられたのだ。目の前で不機嫌を隠そうともしない尾上さんに。
最初はさらっと流そうとしたのに、ニヤニヤしながら詳細を話せと強要してきたのだ。
俺は羞恥心に負けそうになりながらも尾上さんの要求に応えるために頑張ったのだ!
1位、2位を独占された話も語ったのだ。
にも関わらず話が終わると期待外れだと言われているのだ。聞いて損したと。ガッカリだと。そうやって何故か罵倒されているのだ。
本当この人ヤバすぎるだろ!
そんな困惑する俺を見ながら尾上さんは
「あんたの性癖とか聞いたっておもしろくないでしょ?気持ち悪いたけだし。まぁそれを恥ずかしそうに話すあんたは笑えたけどね。それ以外はほんと時間の無駄だった」
などと言うのだ。
俺はドン引きである。この人まじか?
「文句あんの?あんたも私に性癖を聞いて貰えて嬉しかったでしょ?」
そんな事を言いながら、ニヤニヤして俺を見てくるのだ。
「匂いの話とかは単純に気持ち悪かったけどね。さすがの私もドン引きよ。絶対そのギャルもあんたが匂い嗅いでたのは気づいてるわよ。
なのに、よくあんたの頭をなでたわよね」
そこまで言われて俺はもう泣きそうであった。
いやすでに涙目であった。
そっかギャルも気づいていたのか。。。
ギャルにも気持ち悪いとか思われてたら立ち直る事ができない。
そんな俺を見て尾上さんはご機嫌になっていた。
さっきまで不機嫌だったのが嘘のように。
そんなご機嫌な尾上さんの笑顔は、まるで悪魔のようだった。
その笑顔に思わず涙も引っ込んでしまった。
まじ俺の方がドン引きなんですけど。
そんな俺を気にする事なく、ご機嫌な尾上さんは、タバコの煙を吐き出しながら
「それにしても、そのギャルめっちゃグイグイくるじゃん」
「たしかに?やっぱギャルだからですかね」
「あんたギャルを何だと思ってんの?」
「陽キャの権化!」
「何言ってんだか」
俺の返答に尾上さんはあきれていた。
ギャルと言えば陽キャじゃないのか?
そんなに間違ってないと思うんだが?
「まぁ俺もそこは気になってたんですよね」
「まだ会うの2回目だったけ?」
「ですねぇ」
そうなのだ。まだ出会って2回目なのだ。
いくらギャルが陽キャであったとしても、
距離感があまりにも近すぎるのだ。
コインランドリーで出会って、両替をしただけにしては距離の詰め方が尋常じゃない。
出会い目的ってわけでもなさそうだし。
「コインランドリーで会っただけにしちゃ、 グイグイ来すぎてんだよなぁ。あんた相手ってことはナンパじゃないだろうし。絶対に!」
どうやら尾上さんも同じ考えのようだ。
しかし絶対を強調するのは悪意しかない。
俺だって自分がナンパされるような人間でないことは理解している。しかし、他の人に言われれば傷つきもするのだ!
引っ込んだ涙がまた出そうになる。
なんとか堪えながら、例の疑問を伝えた。
「中城先輩にも言いましたが、ギャルの笑顔、なんか見たことある気がするんですよね」
「どっかで会ったことあんの?」
「いや、会ったことはないと思うんですよ」
「でも笑顔には見覚えがあると?」
「そうなんですよ」
「じゃあ、やっぱ会った事を忘れてんじゃん」
「いくら俺でもさすがにそれは無いと思うんですよね。」
「あんたなら、あり得えるんだよなぁ」
そう言いながらいつもの残念な子を見る目で俺を見てくる。
心当たりがあり過ぎて尾上さんから目を逸らしてしまった。
正直クラスメイトの顔ですら覚えているか怪しいのだ。
学外で会ったら、確実に『はじめまして!』と言う自信があるくらいには。
それに、俺には前科があるので余計に強く否定することが出来なかった。
そんな俺に尾上さんはため息をつきながら
「まぁそのうち思い出すんじゃない?
これからも会うんでしょ?」
「たぶん。次に来る日も聞かれましたから」
「なら大丈夫でしょ」
そう言って俺の頭をわしゃわしゃと乱暴になでてきた。
突然の事に驚いて俺は固まってしまった。
そんな俺を見ながら
「まぁ、まじめな話、よかったじゃん!
あんたも青春らしい事ができてさ」
そんな事を言ってくるのだ。
普段見せないような、とても優しい目をして。
「あんた今楽しいんでしょ?」
さっきまでとは全然違う優しい笑顔でそんな事を言うのだ。
急にそうい雰囲気を出すのは、ほんとやめて欲しい。
違う意味で泣きそうになってしまった。
顔を見られたくなかった俺はそっぽを向いて
「楽しいっす。ありがとうございます」
そう言う事しかできなかった。
そんな俺を見て尾上さんは
「素直かよ」
と言って機嫌良さそうに笑うのだった。
本当、尾上さんはヤバい人である。
初投稿になります。
完結目指して頑張ります。
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