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「今日お昼一緒にどうかしら」

 翠の親友である光元(みつもと)智恵子(ちえこ)が、授業終わりに声を掛けた。


 老舗のジュエリーを扱う光元家の一人娘。由緒正しい家の彼女には同い年の婚約者がいる。ゴールドのネクタイピンの下には、その彼とお揃いであるという蜜蜂モチーフのピンが光り輝いていた。


「えぇ是非」

 喜んで翠は頷く。

「今日は彼は?」

 いつも智恵子は彼と一緒にランチを取っているけど今日はどうしたのだろう。


「彼ね次の学校行事の委員に立候補したらしくてね、今日はその集まりなの」

「あらそうなのね」

「一緒にご飯を食べれないのは残念だけど、彼ずっとやりたかったみたいだから。でも久しぶりに貴方と食事できるならラッキーだったかも」

 ふふ、と智恵子は軽やかに笑った。仲睦まじいそうなことで羨ましいことだ。もし私も(ともえ)と歳が変わらなかったら、彼女たちみたいにいられただろうか。



 掃除が行き届いたピカピカの廊下を抜け一度校舎から出ると、ガラス張りのドーム型の建物が見える。一階はカフェテリア、2階には防音が施された音楽室がある。基本的にほとんどの生徒はここで食事をとる。広さは十分。天気のいい日は差し込む陽光が室内をキラキラと照らす。



 二人掛けの丸いテーブルに腰を下ろし、智恵子は星見の会について話し出した。

「ドレス決まった?」

「まだよ」

「私はすっかり浮かれちゃってもう決めたのよ。彼と色を合わせたドレスにしたの。今年は去年とガラッと変えてオレンジよ!」


 星見の会とは中等部高等部全員が参加する一大イベントである。星見とは言っているがあまり見える訳ではないので、実際はほとんど屋外での立食パーティーとなっている。学年を越えて交流ができるので人気の行事だ。


「オレンジとは確かに趣向を変えたわね。私は、、、どうしようかしら」

 基本的に婚約者はパートナーと色やデザインを合わせることが多い。ペアであることが分かるようにするためである。学校の行事とはいえ通う生徒は皆いいとこの子ばかり。取引先のご子息ご令嬢だって揃い踏みだ。全く異なる装いではあらぬ誤解を招く可能性がある。


 今までは好きなドレスを着ていたが、今年からは巴がいる。正直色良い返事が得られるとは思えないが、流石に聞かないわけにもいかないだろう。合わせられるなら合わせておいた方が、私の為でもあるし周りの為でもある。


「まだ時間はあるし、彼に相談してみるわ」

「そうねそれが良いわ」

 翠はとりあえず無難な返事をした。





「あ、翠の婚約者って彼よね」

 智恵子が翠の背中を覗く。つられて翠もくるっと背中を翻せば、まさに考えていた婚約者の姿があった。友人と一緒だ。その中でも頭一つ抜けているから分かりやすい。

「楽しそうで良かったわ」

「馴染めるか心配してたの?」

「いえ、、、そういう訳ではないんだけれど」

 そっけない態度なのはやっぱり私にだけらしい。


「素敵な人に見えるわ。身長が高いからきっとどんなスーツでも映えるわよ」

「そうね」

 翠の反応があまり芳しくないのに智恵子は深掘りするのをやめようとした。それに気がついた翠はなんとか咄嗟に「星見の会楽しみね」と返した。


 親友に下手に心配されたくない。その気持ちが翠を笑顔へと押し上げた。その後は話題が変わって和やかな会話が続いた。


「私のドレスは当日までのお楽しみにしておいて」

 最後に翠は悪戯な顔で智恵子にそう伝えた。



 別れた後ひとり次の教室に移動する間、翠は自己嫌悪に陥っていた。どうしてもっと上手く答えられなかったのだろうか。もう少し彼についてでも話せば、会話が膨らんだはずなのに。完全に智恵子に気を遣わせてしまった。


 沈んでしまった気持ちはなかなか上がらないが、今日中にでも彼に連絡しなければ。星見の会がどうにか何事もなく終わって欲しいと翠は祈るばかりだった。

 




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