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 まだまだ寒さが厳しく、息も凍るような1月。2週間ばかりの短い休暇が終わった。進級、そして卒業を控えた3学期は、学園生活の中でも特に重要な時期だ。


 しかしその雰囲気は、特定の生徒たちにはまったく届いていないようだった。



 淡々と始業式が終わり、翠は教室に戻って早く帰宅しようと思っていたら、廊下の窓から下を覗き込んでいたクラスメイトの1人が翠を手招きした。



 言われる通り中庭を見下ろすと、そこにはやはり、巴と葛木桃の姿があった。周囲の視線など気にする様子もなく、楽しげに笑い合っている。しかも手を繋いでいた。こんな誰でも見える場所で、大胆なことだと翠はある意味感心してしまった。



「相変わらずね、あの二人」


 隣に立った智恵子が、ため息をこぼすように呟いた。翠はその言葉に頷くと、そそくさと教室へ戻っていった。


 以前は好奇心も多く混じっていた周囲の視線は、今や明らかに変化していた。中等部の生徒たちは、遠巻きに二人を避け、ひそひそと何かを囁き合っている。



 教師たちもまた、彼らの姿を目にすると、眉をひそめた。最初はどうなることかとヒヤヒヤしていたようだが、もう手がつけられないと諦めたようだった。触らぬ神に祟りなし、とばかりにそっぽを向く。


 基本的に教師たちは生徒の私生活にまで踏み込むことはしないし、それに加えて西條家と高城家という大きな権力を前に下手に手を出すことは出来ない。


 直接翠と巴が衝突していればまだしも、当の翠が静観しているならば、いよいよ様子見に徹するしかなかった。





 ほとんど何も入っていないバッグを持ち、教室を出た時、隣のクラスの男子生徒、浅間が翠を引き留めた。


「高城さん冬休み、西條さんとどうだったの」


 浅間の声は、隠しきれない好奇心を含んでいた。学園内では、翠と巴の婚約関係、そして巴と桃の親密な様子が既に周知の事実となっていた。


 翠は、表情一つ変えずに答えた。

「何も。私は家族と過ごしていたわ」

 事実休みの期間、翠は一度も巴に会わなかったし連絡を取ることもなかった。

「何もなかったの」

「ええ」

 


「そっか、」

 毅然とした態度で返した翠に、浅間は少し残念そうにした。普通であれば、婚約者が他の異性といちゃついている状況に、当事者がこれほど平静でいられるはずがない、とでも思っているのだろうか。彼はつまらないゴシップが好きらしいと、ほとんど話した事もない失礼な男を、翠は冷たい視線で見返した。


「誰あの失礼な人」

「さぁほとんど関わりがないから」

「同じクラスじゃなくて良かったわ、ほんと」


 無礼な男に顔を顰めていた智恵子だったが、翠が帰ろうとするのを見ると、パッと表情を明るくした。そして「また明日ね」と手を振った。




 智恵子と別れ、翠は正門へと向かった。針のような風が、真っ直ぐに伸びた黒髪をわずかに揺らす。門の手前の掲示板には、学年末総合試験までのカウントダウンを示すカレンダーが掲げられており、生徒たちの焦燥感を煽るかのようだ。


 まだ3学期が始まったばかりだが、誰もが試験のことを意識せざるを得ないだろう。翠はこの試験が、大きな変わり目になるような気がしてならなかった。

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