表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

オバケ

作者: とり


 『このキャンプじょうにはな、オバケが出るんや』


 だから夜になったら一人ひとりでテントの外に出たらあかんで。


 というヨウちゃんのお父さんの注意を聞いてから、僕とヨウちゃんは川にあそびにいった。


 この時の僕らは小学二年生。

 ヨウちゃんのお父さんと僕のお父さんは昔っからの友だちで、遠くへ行くときはよくおたがいの家族もさそって出掛けていた。


 キャンプ場には、僕らのほかにも何人かの親子が来ていた。


 僕とヨウちゃんは、緑の山のなかにある川に、Tシャツと半ズボンのまま入っていった。


 川はあさかった。

 僕たちより小さい、幼稚園ようちえんくらいの子供が、ズボンをたくし上げたお母さんに見守られてパチャパチャ水あそびしていた。


 僕とヨウちゃんは、泳げない深さだったからちょっとガッカリした。けど、水をかけあったり、川の底に手をついてワニのマネをしたりしているあいだに、だんだん楽しくなってきた。


 その内ヨウちゃんが


「もぐりっこせえへん?」


 ときいてきて、僕は「ええよ」と答えた。


 水面に『いっせーのーせ』で顔をつけて、どっちが長く息を止めていられるかを勝負した。


 僕は頭のなかで十秒くらい数えて、苦しくなったから、あいてのようすを見ようと、水の中でちょっと目をあけた。


 顔が外に出てしまわないように、少し首をかたむけて、上目うわめづかいするみたいに見てみると、ぼんやりした水中には、ヨウちゃんがいなかった。


 パシャッ、と僕は川から顔を出した。ヨウちゃんが立っていたところをちゃんと見たけれど、やっぱり誰もいなかった。


 ヨウちゃんを探してキョロキョロしていると、僕のお母さんが走ってきて、僕を抱き上げて、川の外までつれていった。


 まわりを見ると、他の親たちも、子供をっこしたり、手を引いたりして、川から急いで離れていた。


 テントについてから、僕はお母さんに「ヨウちゃんは? 先に出たんかなあ?」ときいたけど、この時も、それからずっと後も、教えてはくれなかった。


 キャンプは中止になった。


 警察の人が来て、親たちといろいろ話しをしていた。こっそり聞こうと思ったけど、お母さんが嫌がって、お父さんが「こっち来とき」と言って、離れたところでジュースを飲ませてくれたから、なにも分からないままだった。


 でも、僕もちょっとだけ、あとで警察の人と話をした。

 警察の人とこんなに近くでしゃべれるなんてラッキーと思って、すこし嬉しかった。


 その後、捜索隊そうさくたいが組まれて、キャンプ場はしばらく立ち入り禁止となった。


 ヨウちゃんは見つからなかった。


 それは二十年()った現在も変わらない。


 きっとあの時ヨウちゃんは、キャンプ場に出るオバケにつれていかれてしまったのだと、大人(おとな)になった今でも、僕はそう思っている。




 ※この物語はフィクションです。



 読んでいただいて、ありがとうございました。



 ・『日間ランキング(ホラー:短編部門)』にて、42位にランクインしました。(2025/07/06/20:00時点)


【評価】(もしくは【応援】)してくれたかた、そして【リアクション】をしてくれたかた、ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ