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no.7 解析の深淵

2030年3月20日、相模原研究施設


午前3時。インドでの初任務から戻ったIDCAチームは、

休息を取る間もなく施設に集まっていた。研究室のテーブルには、

スレイヤーMk-IIの焦げた残骸と、

インドで採取したバッタの翅の破片が並んでいる。

宮本沙織は顕微鏡に目を当て、

疲れ切った表情ながらも集中を切らさなかった。

「バッタのリーダー個体の触角信号…蟻のものより複雑だ。

微生物の活動が活発化してる証拠かもしれない」

彼女の声に、アメリカの昆虫学者ジェシカ・ハーパーが応じた。

顕微鏡の隣でデータを記録しながら、ジェシカが呟く。

「信号の周波数が変動してるわ。まるで…進化してるみたい」

沙織が顔を上げ、ジェシカと視線を合わせた。

「進化…もし微生物自体が適応してるなら、

私たちの対策も一歩遅れることになるよ」


作業場では、

佐藤悠斗とドイツの軍事技術者ハンス・シュミットが、

スレイヤーMk-IIの残骸を解体していた。

悠斗が焼けた回路を手に、悔しそうに言った。

「出力上げすぎたのが原因だ。電磁パルスは効いたけど、

装置が耐えきれなかった…」

ハンスが冷静に補足する。

「次は冷却システムを強化するべきだ。連続使用に

耐えられる設計にしないと、実戦じゃ使い物にならない」

悠斗は頷き、新たな設計図をスケッチし始めた。

「博士のデータが揃えば、次は負けないぜ」


---


同日午前9時、IDCA緊急会議

研究室にチーム全員が集まり、

エリック・ラーソンが司会を務める緊急会議が始まった。

スクリーンには、インドでの戦闘映像と、

バッタの触角から検出された信号波形が映し出されている。

ラーソンが重い声で切り出した。

「初任務は成功とは言えませんでしたが、

貴重なデータを得ました。問題は、

このバッタの群れがまだ活動を続けていること。

インド政府からの要請で、48時間以内に再出動が必要です」

沙織が立ち上がり、解析結果を報告した。

「バッタのリーダー個体は、微生物を通じて群れを統率しています。

この微生物が信号を増幅し、進化を促してる可能性が高い。

スレイヤーの電磁パルスで一時的に遮断はできましたが、

完全には止められませんでした」

中国の遺伝子工学専門家、李偉が手を挙げ、質問を投げた。

「微生物を直接無効化する方法は? 薬剤か、

遺伝子操作で対抗できないか?」

沙織は一瞬考え、やがて答えた。

「可能性はあるけど、リスクも大きいよ。

微生物が昆虫以外に影響を及ぼす可能性が否定できない。

まずは信号の源を特定して、そこを叩くのが現実的だ」

ラーソンが頷き、結論をまとめた。

「では、次の任務は二つ。スレイヤーの改良と、信号源の探索だ。

宮本博士と佐藤博士を中心に、48時間で準備を整えてください」


---


同日午後、研究室

沙織とジェシカは、

バッタの翅と蟻の触角を並べて比較分析を続けていた。

顕微鏡の中で、

微生物が脈動する様子がより鮮明に映し出されている。

ジェシカが呟く。

「この微生物、まるで生き物そのものね。単なる触媒じゃないわ」

沙織がモニターの波形データを指差した。

「信号の変動が、微生物の脈動と一致してる。

もしこれが意図的なものなら…誰かが、

あるいは何かが操ってる可能性もあるよ」

ジェシカが驚いた顔で沙織を見た。

「人工的な操作ってこと? でも、誰がそんなことを…?」

沙織は答えず、ただ目を細めて顕微鏡を見つめた。

彼女の頭の中では、仮説が膨らみつつあった。


一方、

作業場では悠斗とハンスがスレイヤーMk-IIの改良版を

組み立てていた。冷却ファンと強化回路を追加した新型は、

見た目にも頑丈さを増していた。

悠斗が試作用のスイッチを入れると、

音波と電磁パルスが安定して発せられた。

「これなら連続使用もいける! 博士、次は勝つぜ!」

ハンスが厳しい顔で補足した。

「油断するなよ、佐藤。敵も進化してるんだ」


---


エピローグ

夜、施設の窓辺に立つ沙織は、遠くの空を見つめていた。

そこへ悠斗が近づき、コーヒーを差し出した。

「博士、考えすぎだよ。少し休まないと倒れるぜ」

沙織はカップを受け取り、小さく微笑んだ。

「ありがとう、佐藤君。でも、休んでる時間はないよ。

あの微生物…私たちの想像を超えてるかもしれない」

二人が見つめる夜空に、微かな振動音が響き始めた。

それは、バッタの群れが再び動き出した証だった。

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