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no.1 影の疾走者

2030年、世界は未曾有の危機に瀕していた。原因不明の異常気象と遺伝子変異により、

地球上の昆虫が突如として体長30倍以上に巨大化。かつては小さな存在だった虫たちが、

その本来の能力をそのまま引き継ぎ、人類にとって致命的な脅威へと変貌した。

例えば、人間サイズに成長したゴキブリは、危険を察知すると時速300km以上で疾走し、

新幹線を超える速度で逃げ惑う。さらに、1秒間に体長の50倍の距離を移動する驚異的な身体能力と、

強力な咬合力で共食いを始め、食料が不足すれば人間をも捕食対象とするようになった。

巨大化した蚊は一刺しで致死量の血液を吸い取り、

蟻は数十トンの物を軽々と持ち上げる怪力で都市を破壊し尽くす。

人類は、かつて無視していた「小さな敵」に蹂躙されつつあった。


混乱の中、各国政府は対策を模索するが、軍事力だけでは手に負えず、壊滅的な被害が広がるばかり。

そんな絶望的な状況下で設立されたのが「IDCA(Insect Disaster Countermeasures Association)」、

通称「昆虫災害対策連合」だ。この組織は、昆虫学者、遺伝子工学の専門家、ロボット工学の技術者、

そして特殊訓練を受けた戦闘員たちで構成され、巨大昆虫に対抗する最後の希望として結成された。


IDCAの最初の任務は、ゴキブリの巣窟と化した東京地下鉄網の奪還だった。

時速300kmで突進するゴキブリの大群に対し、彼らは音波兵器と高周波トラップを駆使して動きを封じ、

特殊合金製のロボット「インセクト・スレイヤー」で駆逐を試みる。しかし、昆虫たちは単なる怪物ではなく、

驚異的な適応力で人類の武器に耐性をつけていく。ゴキブリが共食いで進化を加速させ、

蚊が血を吸うたびに毒性を増す中、IDCAのメンバーは極限状態で決断を迫られる――

このまま戦い続けるのか、それとも人類の生存圏を捨て、新天地を求めるのか。


物語は、IDCAのリーダーである昆虫学者・宮本沙織と、

彼女を支える若きエンジニア・佐藤悠斗を中心に展開する。

沙織は昆虫の巨大化の原因を突き止め、元に戻す方法を模索する一方、

悠斗は次々と現れる新種の巨大昆虫に対抗する兵器を開発していく。二人の絆と葛藤、

そして人類の存亡をかけた戦いが、荒廃した世界を舞台に繰り広げられる。

果たして彼らは昆虫の脅威を抑え込み、人類に未来を取り戻せるのか?

それとも、自然の逆襲に屈し、地球は新たな支配者である昆虫たちのものとなるのか?

2030年3月13日、東京・新宿


午後6時47分。夕暮れの新宿駅西口は、いつも通りの喧騒に包まれていた。

スーツ姿のサラリーマン、買い物袋を抱えた主婦、スマホを手に笑い合う学生たち。誰もが日常の一部として、この雑踏を受け入れていた。

だが、その瞬間、空気が変わった。


「何だ、あれ?」

駅前の交差点で信号待ちをしていた若い男が、空を見上げて呟いた。

視線の先には、黒い影が蠢いていた。最初は鳥かと思った。

だが、異様に速い。

異様に大きい。次の瞬間、その「何か」が地面に降り立ち、

アスファルトを叩く不気味な音が響き渡った。

「カサカサカサッ!」

群衆のざわめきが悲鳴に変わる。

そこに立っていたのは、体長2メートルを超える巨大なゴキブリだった。

艶やかな黒褐色の甲殻、鋭く動く触角、そして人間の腕ほどの太さの脚。

誰もが凍りついた。


「逃げろぉぉ!」

誰かの叫びが引き金となり、人々は一斉に散り始めた。だが、遅かった。

ゴキブリは危険を察知したかのように、背中の翅を震わせ、一瞬にして加速した。

その速度は異常だった。時速300キロメートル以上――新幹線を超える速さで、

巨大な体が交差点を横切り、ビルのガラス窓に激突。

破片が雨のように降り注ぎ、逃げ惑う人々を切り裂いた。


---


同時刻、東京大学・昆虫学研究室

宮本沙織は顕微鏡に目を当てていた。

30歳の彼女は、昆虫の行動生態を専門とする若手研究者だ。

ショートカットの黒髪と鋭い眼差しが、彼女の知的な雰囲気を際立たせていた。

机の上には、採取されたゴキブリの死骸が並んでいる。

だが、それは普通のゴキブリではない。体長30センチを超える異常な個体だ。

「また増えてる…」

沙織は顕微鏡から顔を上げ、ため息をついた。

過去数週間、全国各地から「巨大昆虫」の目撃情報が寄せられていた。

最初はイタズラか誤報だと思われていたが、

標本が届くたびに彼女の不安は確信に変わっていった。これは自然界の異常事態だ。


突然、研究室のドアが勢いよく開いた。

「宮本先生! 新宿で…ゴキブリが!」

駆け込んできたのは、助手の大塚健太。

20代半ばの彼は、普段は落ち着いているが、今は顔が真っ青だった。

沙織は立ち上がり、テレビのスイッチを入れた。

画面に映し出されたのは、新宿駅前の惨状だった。

倒壊した看板、血まみれの道路、

そして逃げ惑う人々を追いかける巨大ゴキブリの姿。

「時速300キロ…1秒間に体長の50倍を移動する能力が、

そのままスケールアップしてる…」

沙織は呟きながら、顕微鏡のデータを手に取った。

彼女の頭の中で、計算が弾き出される。もしこのゴキブリがさらに巨大化したら?

もし、これが孤立した事件じゃなかったら?


---


その夜、首相官邸

緊急会議が招集された。内閣総理大臣の前には、

防衛省や厚生労働省の官僚たちが顔を揃えていた。

テーブルの中央には、新宿で撮影されたゴキブリの映像が投影されている。

「死者12名、負傷者87名。これがたった1匹の結果です」

防衛大臣の声は重かった。会議室は静まり返り、誰もが次の一手を模索していた。

「自衛隊を動員すべきだ。こんな怪物、放置できない」

「いや、原因が分からないのに武力行使は危険だ。感染症の可能性もある」

意見が飛び交う中、一人の女性が立ち上がった。宮本沙織だ。

彼女は大学から急遽呼び出され、この場に招かれていた。

「総理、私に任せてください。この現象を科学的に解明し、

対策を立てる必要があります。単なる駆除では解決しません」

沙織の声は静かだが、揺るぎなかった。

総理は一瞬彼女を見つめ、やがて頷いた。

「分かった。君に全権を委ねる。必要な人員と予算はこちらで用意する」


---


エピローグ

夜が更ける頃、沙織は研究室に戻り、新宿のゴキブリの映像を何度も見返していた。画面の中で、巨大な影が疾走する。

その動きは無秩序に見えて、どこか計算されているようにも感じられた。

「これは始まりに過ぎない…」

彼女の手元には、新たな報告書が届いていた。

北海道で巨大な蚊が確認されたという内容だ。沙織の目が鋭く光る。


人類と昆虫の戦いが、今、幕を開けた。

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