『あめ』の日ジレンマ
雨なんて大嫌い。
雨が傘の上で踊る。その音は小さな太鼓の連打のように、心の奥底まで響き渡る。
今日は初めて、先輩と二人きりになれた。そのきっかけをくれたのは、このしとしとと降る雨。
先輩の傘に入って歩く。お互いの距離を測りながら、緊張と期待が入り混じる。歩幅を合わせるたびに、肩が触れそうで、心臓が高鳴る。
先輩の右肩が少し濡れているのに気づいて、胸がチクリと痛む。もっと寄り添いたいのに、素直になれない自分がもどかしい。肩が触れた瞬間、全身がこわばる。
雨音が心の中でリズムを刻む中、心臓の鼓動が速くなる。どうして、素直に「好き」と言えないんだろう。
考えすぎているうちに、時間が砂時計の砂のようにあっという間に消えていく。先輩との貴重な時間がしとしとと溶けていく。
先輩が傘を少し傾けて、私が濡れないようにしてくれる。その優しさに心が温かくなるけれど、同時に胸が締め付けられる。
嬉しいはずなのに、上手くいかないもどかしさが胸に渦巻く。雨は冷たくて、心まで凍りつくような気がする。きっかけをくれた雨なのに、上手くいかない自分が嫌い。きっかけをくれた雨も嫌い。
でも、でも、それでも先輩と過ごせるこの瞬間が嬉しくて、また複雑な感情が渦巻く。
だから、雨が嫌い。先輩との時間を奪う雨が。でも、先輩とのきっかけをくれた雨もまた、大嫌い。
ふと見上げた先輩の横顔に、胸がドキンと高鳴る。雨の音に包まれながら、心の中で呟く。
「雨の日も、悪くないかも。」