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 しゅいいいいいいいいいいいいいいいん



 眼の前を覆っていた光がなくなり、視界が晴れた。

 気づけば俺は、草原のど真ん中に立っていた。


「おいおい嘘だろ。転生とか言ってたけどマジでしちゃったのか俺? まぁそれはいいや、でもサッカーボールがないじゃないか。俺はサッカーをしていかないと生きていけないんだ。一体この世界でどうやって生きていきゃいいんだよ、うわあああああん!!」


 俺はぺたりと座り込み、ひとしきり泣きじゃくった。

 五分ほど泣いていると、段々と気持ちがスッキリとしてきて、少しだけ立ち直ることができた。


「ぐすん。はぁ、こんなことしてても何も始まらないか。ただただきしょいだけだよな。もうこうなったらこの世界をサッカー的に生きていこう。サッカー的に生きれば、ボールがなくたってなんとか生きていけるはずだ」


 決意を新たにした俺は、前進していくことにした。


「とりあえず街に行こう。そこで休める場所を探すんだ」


 そうと決め歩いていると、少し離れた位置からにわかな喧騒が聞こえてきた。


「なんだ、なんだなんだ? 凄いがきんがきんいってるぞ。もしかして金属音? 戦闘しているってことか?」


 異世界だからそんなこともあるのかと思いながら音の鳴る方に吸い込まれるように近づいていくと、そこには馬車が止まっていた。

 そしてその場者を守るように複数人の男女らが陣形を組んでいて、その周囲を僅かな布切れを身につけただけの醜い人型モンスターたちが取り巻いている。

 ああ、これって何? 異世界特有の生命体ってこと? というかもしかして人間たちピンチなのかな? 絶対そうだよな、もうなんか一人地面に倒れちゃってるし、血を流して腕をぶら下げてしまってる人もいる。確実に負傷してるなあれ。全体的にかなり厳しそうだ。

 緑色の肌のきしょい人型モンスターはかなり余裕がありそうで、くつくつと笑いなんかもこぼれている。


「まぁ俺には関係ないことかな。でもこれを見逃すというのも目覚めが悪いのかな。まぁそんなこと言っても今の俺になんの力もないし、どうすることもできないんだけども」


 いや、でもなんか足腰強化してくれたとか言ってたなあの神様。

 もしかしてワンちゃんあるんじゃないか?

 もしかしてももしかしなくても、俺戦えたりしないかこの世界で。

 そうだ、異世界転生なんだ。異世界サッカー転生なんだ。この程度のことでビビってちゃいつまで経っても進んでいけない。決めたじゃないか。俺は異世界をサッカー的に生きていくんだ。そうすることが俺のアイデンティティの証明につながるんだよ。



「おらあああああああ!!」



 俺は気づけば全力ダッシュしていた。

 何が何だか自分でもわからない。

 こうしなくちゃ、こうすることこそが正義なのだと、本能が訴えかけてくる。

 それだけだ。

 それだけで、俺の体は奮い立ち、どこまでも進んでいこうという気力が芽生えてきた。

 高揚感。

 そうだ、俺ならやれる。

 俺がこの世界をサッカーにしてみせる!



「しねえええええええ! シュートシュートシュートシュートシュートシュートしゅううううううううううううと!!」



 俺はモンスター共の頭をとにかく蹴りまくった。

 どんな蹴り方をしたかなど、いちいち覚えていない。

 とにかくいつもの公園でやっていたような、その時練習していたがままの要領で、化け物どもの頭を蹴り抜いていっただけだ。


 するとあろうとことか、化け物どもの頭部は次々とあらぬ方向に飛んでいき、頭部が四方八方に消え去っていった。

 すごい、超次元サッカー。そうか、これこそが俺の求めた、異世界サッカーだったんだ!!



「たっのしいいいいぃぃいいい!! シュートシュートしゅうううと! ごーるごーるごーるごおおおおおおおおるぅうう!!」



 俺は調子に乗って、馬車を守っていた。男女共の頭も蹴り抜いていってしまった。


 気づけば頭部を失った人間だった人たちが、一斉にばたりと地面に倒れていた。



「あ……やっちまった……」



 俺は己の過ちに気づいた。

 これはいわゆる殺人というやつなのではないかと。

 当然前世では非行に手を染めることなど一切ありえなかった。

 善悪の判断どうこう以前に、そんな度胸なかったからだ。

 しかしこの世界では、転生して間もないうちにそれをやってのけてしまっている。



「す、すげぇ、俺すげぇよ! 凄い進化してるよ! サッカーの力でこんなことができるなんて! この世界、異世界に来ることができて、俺は間違いなく新たな自分になれてる! 俺が憧れて、目指し続けばサッカー選手に、これでなれるかもしれない」



 もちろん俺のサッカーライフはまだまだ道半ばだ。

 最終的なゴールはこんなところじゃない、もっともっと先にあると思っている。

 しかし今この異世界で感じたこのカタルシス、素晴らしい清々しさ、高揚感は、間違いなく俺の人生における光明、そう、ヒントを出してくれていると感じていた。


「目指せる……この先どうなるかはわからない。でも俺のサッカーは、この異世界で間違いなく磨かれる。もっとだ、もっとこの世界でサッカーを極めたい。この調子で、異世界サッカーでサッカー力を磨いていきたいんだ!!」


 俺はこの世界で強くサッカーしていくことを決めた。

 それが俺のはじめの一歩だった。

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