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俺の趣味はサッカーだ。
とにかくサッカーが好きすぎて、色々なものを蹴りまくりたい気分だった。
「はぁ、今日も疲れたな。早速いつもの公園に行ってサッカーでもするか」
高校からの帰り道。
特にやることもなかったので、日課のサッカーに入り浸ることにする。
まぁサッカーと言っても友達もいないので、適当に一人でボールを蹴りまくるだけだけどな。
「でもあの公園最近変なカギ共がいっぱいきやがるんだよなぁ。あの小さな公園のグラウンドは俺のものなのに。またあいつらが来たら追い返しとかないといけないな。俺の縄張りをアピールしとかないと」
追い返すのにも労力はいるので、少しだるいなーと感じながらも公園へと向かう。
サッカーボールは常に片手に持ち歩いているので、寄り道等するまでもない。公園へと直行だ。
「あぶなーい!」
そうこう考えていると、横から声が聞こえてきた。
なんだと思っていると、妙に付近が薄暗くなった気がした。
ふと上を見上げてみる。
鉄骨が落ちてきていた。
その後声を上げる暇すらなく、俺は思いっきり鉄骨に押しつぶされた。
「う、うぅ、あれ。ここはどこだろうか」
俺はよく分からない場所にいた。
白い雲に白い地面。
なんだこれは、まるで空の世界にでも連れて行かれたかのようだ。
「目覚めたかの」
そして目の前にはいつの間にやら白いひげを蓄えた爺さんがいた。
「あの、ここはどこなんですか? それにあなたは誰なんですか? 年老いているように思えますが」
「人に年老いてるなどというものではないぞ。場合によっては傷つくじゃろうからな、まぁ儂は神じゃからその辺はなんも思わんがの」
「えええ! 神様なんですか! 凄い! 凄いですよ! じゃあ僕は神様と今おしゃべりできているということなんですね、こんなことあるんだぁ」
「なんじゃお主、そんなにも感動しておるのか。普通は全く信じられずに場合によっては取り乱したりなんかもするところなのじゃがの。いいの、お主は超いいの。マジで気に入ったぞい。お主を天国に送るか、はたまた地獄に送るか迷っておったのじゃが、仕方ないから地獄に送ってやろう」
「ありがとう……ってええ! 地獄ってなんなんですか! 天国がいいですよ!」
「儂は逆張りが大好きなのじゃ。じゃからお主には申し訳ないが、地獄に落ちてもらうことにする」
「そんなぁ、地獄なんて嫌だ、それだったら死んだほうがいいよ」
「お主は死んでおるのじゃぞ。地球でな」
「え、僕が死んでる? そんな馬鹿な、僕は無茶なことはした覚えはありませんよ。僕はただサッカーが大好きなだけの健全な人間ですよ」
「大好きなだけというのは本当らしいの。お主リフティングも三回くらいしかできんし、まだドリブルもろくにできんのじゃろう。記録にはそう残っておるぞ。よくもそんな下手くそでサッカーを続けられるの」
「うるさいうるさい、いいじゃないですか。サッカーが大好きだという気持ちだけは本当なんです」
分かっているさ。俺がサッカーのセンスが絶望的にないことくらい。
「もういいですよ。全てがどうでもよくなりましたよ。それならいっそのこと地獄にだってなんだって落ちてやりますよ」
「そう言われると逆張りしたくなるのう。地獄に落とすといったが、仕方がない。お主は間をとって異世界に転生させてやろう」
「異世界? なんですかそれ、タコさん星人星ですか」
「なんじゃその星は。聞いたこともないぞい。子供っぽい星じゃのう。今度その星を作っておこう。まぁなんというか、異世界ファンタジーっぽい異世界じゃ。エルフやらドワーフやらがおる。こう言われてもピンとこんか?」
「まるで意味がわかりませんね。僕はサッカー一択でしたからね。まぁ現状もサッカー一択なんですけど」
「しょうもないのう。下手くそなサッカーにそんなに固執して人生損しておるぞい。お主のような人生にだけは死んでもなりたくないのう」
「そこまで言わなくても、ぴえんですよ。これはもう完全にぴえん案件ですよ。まぁもうその異世界とやらに転生させてくださいよどうでもいいんで」
「そうじゃの、仕方ない。じゃがその異世界はかなり過酷じゃからの。そのままのお主じゃと間違いなく死ぬじゃろうから、足腰だけでも強化しといてやろう。これは出血大サービスというやつじゃからな」
「ありがとうございます。何がありがとうございますなのかはわかりませんが、何かを施されたのであればありがとうございますと返して置くのが道義でしょう。出血って鼻血でも出せばいいんでしょうか」
「知るかアホタレ。それじゃ早速転生させるからの。あんまりむちゃして序盤で死ぬんじゃないぞー」
そうして俺の体は光に包まれ始める。
これってこれから異世界に転生する前触れってこと?
光が消え、再び目覚めたときに異世界にいるのかな?
まぁ全くわからないが、俺はどの世界で生まれ変わろうとやることは変わらない。
ひたすらにサッカーに向き合い続け、サッカーをプレイするだけ。
それだけなんだ。
だから俺は迷わない。異世界でもサッカーを続けて見せる。だって、サッカーが好きだから。