表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/290

◆22 ヒナの暴走が止められない!

 東京異世界派遣会社の本部ーー。


 私、星野ひかりは焦っていた。


 異世界へ〈魔法使い〉として派遣した白鳥雛しらとりひなさんは、仕事の内容をすっかり忘れてしまってるんじゃないのか?

 前回派遣された東堂正宗くんよりも、ずっと扱いにくい気がしてきた。


 ジッとしていられず、ヒナさんへ通信を入れる。

 すると、今朝は相当機嫌が良いようで、珍しく彼女は回線を開いており、交信可能な状態になっていた。

 美形の少年に子守唄を聴かせてもらって就寝したことが、よほど嬉しかったらしい。


 ささくれ立つ心をできるだけ抑えて、私はヒナさんに話しかけた。


「ヒナさん、お姫様の護衛はどうしたの?

 昨夜は自室に籠って、爆睡してたでしょ!?

 何人もの少年騎士さんたちを引き入れて!」


 尋問するという口実で、ヒナさんの部屋に押しかけて来た騎士どもに、彼女は片っ端から魔法をかけていた。

 結果、〈魅了(チャーム)〉の力で、彼女は騎士たちを言いなりにしていた。


 それなのに、ヒナさんはなにをするわけでもない。

 王国の裏事情や、婚約候補者の近況などに、(さぐ)りを入れるでもない。

 散々、騎士たちに肉を食わせたり、飲酒させたりしただけ。

 騎士たちにやったことといえば、王妃の言いなりでは、騎士としてみっともないぞ、と(あお)ったことぐらいだ。


 しかも、見習いの少年騎士ばかりを集めて、同室で泊まり込ませた。

 異世界の派遣先に行っても、ひたすら自分の趣味に走る。

 仕事のことを、彼女はどう考えているんだろう。

 ヒナさんのはしゃぎ声に、やはり苛立ちを感じる。


「ねえ、聞いて!

 朝起きたら、美少年が二人も、ワタシのベットに潜り込んでいたの。

 きゃーー! まじ、ヤバい!

 ーーでも、素敵だったわ。

 あんな可愛い子と、ベッドまで共にしたの。

 信じられる!?

 でも、みなさん、お行儀が良いのよ。

 目が覚めたら顔を真っ赤にするばかりで、誰も襲って来ないのよね」


 はあ〜〜。


 私は脱力気味に、項垂(うなだ)れる。


 深夜、側近の侍女たちを集めて、ターニャ姫がどのような指示を出したか、知りたいところだ。

 なのに、ヒナさんが同席していないから、どのような会話がなされたかわからない。

 ナノマシンが映像を送ってくれないからだ。

 普通、ナノマシンは宿主であるヒナさんから、離れた場所の映像は映してくれない。


 その結果、寝相の悪いヒナさんが、大きなベッドで少年と雑魚寝している様子が、モニターに映し出されるばかりだった。

 これでは、まるで仕事の役に立たない。


「やだ、ひかりさん。

 つまり、それって、乙女の寝顔を(のぞ)き見てたってことだよね!?

 かなり引くわぁ。マジで、ヤバいっしょ。

 まさか、マサムネのバカに、ワタシの寝てるとこ、見せたりしてないよね!?」


「ーーとにかく、忘れてもらっては困るけど、あなたの役目は、お姫様を守ることなのよ!」


「めっちゃ、わかってますって。

 でも、誰も襲ってなんか来ないしぃ〜〜」


「何言ってんの。

 襲われてからじゃ、遅いのよ」


「そんなこといってもさぁ、四六時中、お姫様にまとわりつくわけにはいかないしぃ」


「バカね! まとわりつくのが仕事でしょ。

 護衛なのよ、あなたは!」


「お姫様も、いつまでも護衛してもらうわけにもいかないでしょ。

 結局は、自分の身ぐらい、自分で守れるようにならなきゃ。

 ーーということで、ワタシ、お姫様にはお独りで考えて、行動してもらうことにしました!」


「そんな勝手なこと、許されないわよ。

 お姫様になにかあったら、どうするの?」


「ひかりさん。

 私はね、お姫様の身体だけではなく、心も守ってあげるために、そうしているわけ。

 わかる?

 女の人生には、いつだって危険はつきもの。

 すっごく山あり谷ありで、めっちゃ大変なもんだから。

 それを乗り越えなきゃ。

 マジで、自分の力でね」


 もっともらしいことを言っているが、要はイケメンに囲まれながら、異世界で羽を伸ばしたいだけなのだ、この()は。


 私はヘッドフォンから口許に伸びるマイクに、声をあげた。


「ヒナさん、お願いだから、お姫様の護衛をして下さい。

 そのために、あなたを〈魔法使い〉として派遣したのだから」


 ところが、私が必死になって頼んでも、相手に焦燥感が伝わる気配はない。

 相変わらず、能天気な返事が返ってくるばかりだった。


「大丈夫、大丈夫。手は打ってるわ。

 私がじかにつきまとわなくたって、指輪に防御魔力をいろいろと込めといたから。

 お姫様がその指輪を指に()めていてくれれば、身の危険を防ぐことができるはず。

 それにね、ナノマシンに向けて魅了魔法(チャーム)かけたら、マジでうまくいったの。

 スゴくね!?

 だから、ナノマシンのいくつかを、お姫様の指輪に潜り込ませといたから。

 これで、お姫様とワタシで情報が共有できるし、連絡も取れるーーはず?

 とにかく、ワタシ、お姫様には、自立した強い女性になってほしいの。

 すべて自分の力で行動して解決できるように、と願ってるわ。

 それに、知ってる? お姫様には魔力がたっぷりあるのよ。

 さすがは、王族のお姫様ってこと!?

 マジで、びっくりした。ヤバいよ、あれ。

 かなり魔力があった。

 だからね、お姫様なら、指輪に込めた魔法を力強く発動させることができるはずーー」


 長々とした、支離滅裂なヒナの言い訳を聴きながら、私はこめかみの辺りをグリグリと指で押す。頭が痛くなってきた。


(ああ、ヒナさん(この娘)、聞く耳、持ってない……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ