表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/290

◆9 責任重大! 超、難易度高いよね。派遣バイトの割に。

 通信を終え、私、星野ひかりは、額を抑えながら、溜息をつく。


 派遣バイトの白鳥雛(しらとりひな)さんーーいっけん見た目は悪くないというか、かなりの美人さんなんだけど、口を開くと、欲望丸出しになってしまうのが欠点だ。

 とにかく、〈イイ男〉に、めっぽう弱い。

 彼女が今回の仕事に乗り気になったのも、モニターに映った依頼主の子爵様が、渋めのイケメンだったから、という馬鹿げた理由だった。


「ヤバッ! 行きたい、行きたい!

 ワタシ、あーゆーところ、憧れだったの!」


 駄々をこねる子供のように、私や兄の新一の腕に(すが)ってきた。

 依頼条件が合っていたから派遣はしたが、不安は(ぬぐ)いきれない。


 依頼内容は単純だ。

 さる帝国子爵家のご令嬢が、公爵子息と婚約しているが、その婚約を解消したいーーと、娘の父親の子爵サマが依頼してきたのだ。


 公爵と子爵とを比べたら、公爵の方が上位に位置づく。

 だから、子爵家とすれば、公爵家と縁付くのは歓迎するものだ。


 ところが、この縁組には、素直に喜べない理由があった。

 公爵子息が、かなり粗暴に成長しているらしいのだ。


(この公爵家のボンボン、外面はとても良いっていうのが面倒よね。

 そのくせ、陰では侍女メイドや実妹に対して、執拗(しつよう)なイジメを繰り返すなんて……。

 相手が自分に刃向かえない、と知ってるがゆえの振る舞いよね……)


 父親の子爵が、


「このまま娘が不幸になるのを、見ていられない。

 なんとかして欲しい」


 と言って来たのだ。

『娘の婚約を解消して欲しい』という、まことに、わかりやすい依頼内容だったわけだ。


 でも、この〈異世界〉は、地球でいえば、西欧中世的な、封建制の貴族社会だ。

 そう簡単に、婚約解消は出来ない。

 相手の男性側が、身分上の公爵家で、しかも父親の公爵は宰相を務めており、現在、権勢を誇っている。

 普通なら、娘がどうなろうと、縁付くために、婚姻関係を歓迎するのが筋のところだ。


 だから、婚約を格下の娘の側から破棄するのは難しく、なんとか公爵子息に、娘以外の女性に執着させるなどして、向こう側から婚約破棄を宣言させられないものかーーという。


 普通、そんなことされたら、娘さんが疵物(キズもの)になるのでは、と心配してしまう。

 けれども、そうした悪評を受けようと、娘の婚約を破棄させたい、と父親の子爵サマは、モニターの向こうで、目に涙を浮かべながら訴えていた。


 それほど、父親として、娘に愛情を注いできたのだろう。

 私なんかはつい、もらい泣きしそうになったほどだ。


 でも、ほんとに単純ながらも、難易度の高い依頼をしてきたな、というのが正直な感想だ。

 人の心を操るのは難しい。

 しかも、相手は、文化がまるで違う、異世界人の高位貴族男性なのだ。


 依頼を受けるのをためらっていると、兄の新一が決断した。


「報酬も悪くないし、雛さんも積極的に行きたがってる。

 引き受けよう」


「でも、雛さんで大丈夫かしら? なんか、不安」


「心配しても仕方ない。

『運は曲がらぬ道』って言うじゃないか」


「知らないわよ。そんな言葉。

 どうせ、ことわざかなにかなんでしょうけど」


「うん。いかなる運命でも、それは正当なものだから、素直に受け取るべきだーーっていう意味」


「そうねーー雛さんが乗り気だっていうのも『運命』か……。

 だったら、やるしかないわね」


 実際、報酬はかなり高額だ。

 向こう側での金貨五十枚ーーこちらではおよそ二百万円強の価値がある。


 派遣バイト女性の白鳥雛さんも、大喜びだった。


「やりぃ。イケメンに会えて、お金もゲット!」


 と騒いでる。


 たしかに、白鳥雛さんには、異性に限らず、あらゆるモノを()き付ける〈魅了(チャーム)〉魔法が、個性能力(ユニーク・スキル)として付与されている。

 だからといって、うまく公爵子息の気を()き、子爵令嬢との婚約を破棄するにまで、持って行くことができるのか。


 じつに心許(こころもと)なかった。


(ふう。やれやれ……。

 こんな調子で、大丈夫なのかしら)


 兄の方に目を遣れば、ようやく、男性派遣バイト君の方での〈依頼達成による契約解除〉を果たしたようで、椅子に深くもたれてコーヒーを飲んでいた。

 あとは派遣バイト君ーー東堂正宗くんの意志次第で、好きに帰還できるはずだ。

 帰ってくるかどうかは、未定だけど。


◇◇◇


 とにもかくにも、ちょっと癖がありながらも、能力的にはなんの変哲もない、二人の若い日本人の男女が、なぜ異世界に派遣される仕事に()いているのか。


 それには、それなりの事情わけがありまして……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ