◆16 イケメンさんたち、いらっしゃい!
お姫様を中心としたお茶会を終えた、その日の夜ーー。
ワタシ、魔法使いヒナは、自分の寝所を兼ねた滞在先に出向いていた。
(ふうん、ここが護衛官の詰所ねえ……)
殺風景な部屋だけど、それなりに広かった。
寝室と応接室の二部屋がある。
それぞれ二十畳はあろうかという広さだ。
二部屋を行き来しながらザッと見回してみても、台所や風呂、トイレといった水回りらしき場所は見当たらなかった。
地球での中近世時代らしく、トイレなどの水回りは戸外にあるのだろう。
部屋ですら、男女別に分かれていない。
だから、女性用トイレがあるかどうかも疑わしい。
マジで、ヤバい。
(ちなみに、翌早朝、お花を摘みに行ったら、やっぱりトイレは戸外にあって、しかも男女共用! まじで、オトコがいなくて助かった……)
寝室には、ベッドが五つもあった。
一つは、護衛官長が使うモノらしい、大きなキングサイズのベッド。
他には、シングルサイズのベッドで二段になったモノが、四つあった。
床にもスペースがあるから、雑魚寝状態だったら十数人ほどは泊まれるだろう。
いくらメンタルつよつよのワタシでも、こんなの、めっちゃ嫌!
せっかく異世界に来たのに。
もっと、素敵な暮らしがしたい!
次いで、応接室に戻る。
中央にある大テーブルを軽く指でなぞると、盛大に埃が付く。
指先に付いた埃を、フッと息を吹きかけて吹き飛ばす。
床板が黒ずんで汚れており、その上に埃が重なって、白くなっている。
窓を開ける。
カーテンもない窓に風が入り込み、埃が舞う。
ゴホゴホと咳き込む。
長らく人が使っていなかった証だ。
(ハンパねぇ、ヤバさよね、これ。
広いのは嬉しいんだけどぉーーとにかく汚すぎね!?
とりあえず、女の嗜みぐらいはみせておかないとさぁ……)
ワタシは、むん、と両腕に力を込めたーー。
それから、しばらく経った頃……。
ドンドンと、乱暴にドアを叩く音が響いた。
「開けろ! われら近衛騎士団の質問に答えよ」
「はいはい、待ってたわよ」
ワタシは面倒臭そうに、護衛官詰所のドアを開けた。
すると、約束通り(?)騎士の男ども十名ほどが、ドカドカと足音を立て、女性独りで居る部屋に上がり込んで来た。
が、部屋に雪崩れ込むなり、男どもは驚きの声をあげた。
「な、なんだ……!?」
「マジかよ。ほんとに、此処が護衛の詰所か?」
テーブルも床も、ピカピカに磨かれていた。
じつは少し前までに、詰所の間取りを一通り把握するやいなや、ワタシは〈清掃〉と〈洗浄〉という生活系魔法を駆使しておいたのだ。
騎士たちがざわめく。
「俺、今日の朝にこの部屋の鍵開けをしたんだけど、そのときは埃まみれだったぞ」
「長らく物置同然の部屋だったとは信じられん。
俺ら王宮騎士団の部屋より、よほど綺麗だ」
「さすが、女性が使っているだけのことはあるーーということか?」
女性ーーしかも〈異世界の魔法使い〉が使用している部屋に入り込んでしまったことを、ようやく騎士たちは自覚した。
彼らの間に緊張が走る。
先頭で乗り込んできた青髪の青年騎士が、うわずった声を上げた。
「自称、異世界の魔法使い、ヒナ・シラトリ!
王妃様ーーいや、王権代理によるご質問だ。
貴様、異世界から来たのは本当か?」
「ええ」
「証拠は?」
「これといって、ないわね。
でもさぁ、貴方たちも、白い光とやらを見たんでしょ?
今さら疑って、なんになるの?
まじ、ウケるんですけど」
「う、うるさい!
ーーやむをえん。
貴様が異世界人かどうかは、未定ということにしておく」
「はぁい」
「では、本当に〈魔法使い〉なのか?」
「あれぇ。この部屋を見ても、わかんないの?
カーペットも、テーブルクロスも、カーテンも、みんな魔法で拵えたし。
ーーあ、そうそう!
こういった装飾品全部、元いたワタシの世界のモノを再現したものだしぃ。
これ、ワタシが異世界から来たっていう証拠になんない?」
「ーー考慮しておく」
「ありがと。じゃあ、ワタシが〈異世界の魔法使い〉ってこと、認めてね」
「まだ、わからん。
我々は報告するのみだ。
判断は王権代理が行う」
「自分の目で見てもいないヒトが、どうやって判断するわけ?
まじ、ウザいんですけどぉ」
「王権代理も、魔法をお使いになる。
貴様ほどではないだろうがーー」
(面倒くさいわね。
どうして、コイツら、こんなに頑ななのかしら。
それに、なんか、目の焦点が合ってないような……)
騎士たちの様子に怪しさを感じたワタシは、能力を使用した。
「鑑定ーーあっ! やっぱり……」
結果、騎士たち全員から、弱い〈魅了〉魔法の力が看て取れた。
(ヤバッ!
ワタシ以外にも、〈魅了〉の使い手がいたんだぁ。
だったら、マジで負けらんない!)
ワタシ、魔法使いヒナも、負けじと〈魅了〉の魔法を発動させた。
ワタシの魔力量は、全能力においてカンストにまでブーストできる。
この世界で魔力最上位の〈魔法使いヒナ〉にとって、騎士たちをすでに蝕んでいた魅了効果を、魔力で凌駕するのは容易いことであった。
が、あえて、ワタシは全力を出さない。
ワタシは少し力をセーブさせた魔力で、魅了魔法を展開した。
(だって、単に言いなりにさせるだけなんて、面白くないわ。
せっかくだから、イケメンとの会話を楽しみたい……)
居並ぶ騎士たちはみな、目がトロンとする。
が、ヒナに強烈な魅力を感じながらも、奴隷状態にはなっていない。
とはいえ、〈新たなご主人様〉に逆らうほどの気概は、彼らになかった。
ワタシの質問に、彼らは素直に答えてくれた。
「ねえ、これで王宮の騎士さん、全員いるの?」
「いえーー年端もいかぬ見習いを何人か、留守番に置いております」
「なに、それ。ヤバい。
さっそく呼んできてよ!」
ワタシの面喰いには、年齢制限はない。
性的対象でなくとも、イケメンは眺めてるだけで眼福なのだ。




