◆9 スゴッ! これ、マジで、逆ハーレムってヤツじゃね!?
ドミニク=スフォルト王国の王宮庭園にてーー。
〈魔法使いヒナ〉を中心にして、鎧姿の騎士たちが身構えていた。
ヒナから発せられる、強大な魔力の波動に圧倒されたからだ。
場に緊張が走る。
が、その張り詰めた空気を破ったのは、ヒナ本人だった。
「あら、騎士さんたち。
改めてワタシの許に顔見せに来たいって言うの?
別にワタシは構わないわよ。
ーーところで、ワタシ用の部屋ってあるの?」
姫様付きの侍女たちに目を遣って問いかける。
ヒナの問いに答えたのは、侍女長のクレアだった。
「はい。護衛役の部屋が。
今現在は、あなたしか護衛役はおりませんから」
本来なら、お姫様には常時五、六人ほどは護衛官が付く決まりである。
ところが、現在は違う。
王妃ドロレスが、
「王宮内では、王女の護衛は必要ありません。経費削減のためです」
ーーと騎士団に働きかけて、護衛役を省いてしまっていたのだ。
結果として、今現在は、武術の嗜みがある侍女長補佐のサマンサが中心となって、侍女たちでターニャ姫の護衛役を担っていた。
それではあまりに不用心ということで、かえって国王サローニア三世が唱えた、
「かくなるうえは、異世界から、姫の護衛役を召喚しようではないか。
姫自身が、召喚魔法を使えばよい。
婚約前に、王族の血の証をみせるのも、慣例にかなっておろう」
という口実に抗うことができなくなり、ドロレスや政府が〈魔法使いの召喚〉を認めざるを得なくなっていた。
だが、ヒナに詰め寄って来た青い髪の騎士は、へこたれない。
わざとらしく、ヒナの前で片膝立ちとなって、顔を上げる。
「ほほう。そうか、そうか。
異世界からの魔法使い様は、護衛役の詰所で寝泊まりなさるか。
それは都合が良い。
護衛役の部屋は、我ら近衛騎士の詰所の間近だ」
その言を受け、他の騎士たちも、突然ニヤニヤし始める。
反対に、ターニャ姫や侍女の一行は一瞬で青ざめる。
そうなのだ。
じつは、護衛官は侍女とは違い、女性専用職ではない。
護衛役の部屋には、男性も立ち入ることが出来るようになっていた。
「まさか、あなたたちーー婚前の婦女子に無礼を働くことは許しませんよ!」
ターニャ姫が声を震わせる。
その一方で、青い髪の騎士はゆっくりと立ち上がると、姫様を始めとした女性陣全体を高い所から見下ろして、薄笑いを浮かべた。
「無論です。私どもは職務を全うしたいだけです」
再び、緊張が場を支配する。
だが、今度は形勢が逆転していた。
先程は女性陣が男性陣を圧していたが、今では騎士連中が、姫様と侍女たちを圧倒していた。
それでも、その緊迫した空気を破ったのは、またしても〈魔法使いヒナ〉であった。
「あら、素敵ね。
騎士さんたち、みなでワタシの部屋に来てくださるの?
ぜひ、いらしてくださいな。
ちょうどワタクシ、男性が身の回りに数少ない状況になりそうで、いささか寂しく思っておりましたの」
ヒナの発言に、男女によらず、みな呆気に取られた。
騎士たち男連中は、言いがかりのつもりで持ちかけた提案が通って、かえって狼狽えてしまった。
「ま、まさかーー未婚女性の部屋に、複数の男が押しかけても……」
「な、なんとふしだらな……」
姫様をはじめとした女性陣も、両手を口に当て、絶句するしかない。
改めて侍女たちは、騎士たちを無言で睨みつける。
さすがに、騎士たちは節度を逸した振る舞いをしたのだと感じ、赤面する。
かといって、今さら後に退くわけにはいかない。
「そ、それでは、我々は失礼致します。
う、上に報告しなければなりませんので……」
「し、失礼します」
騎士たちは頭を下げて踵を返し、連れ立って立ち去っていく。
浮き足だった様子の男たちの背中を見つめ、姫様は爆弾発言の主に目を向けた。
「面白かったわ!
あの者たちの慌てようったら。
ヒナ様、さすが異世界からの魔法使いさんね。
あのように切り返す言葉が、すぐにでてくるとは」
「モチ、日頃の鍛錬ですわ。
たくさんのイケメンに囲まれることは慣れっこで……。
ーーいえ、なんでもありません。おほほほ」
〈魔法使いヒナ〉は、口に手のひらを当てて笑う。
内心、人目を憚らず、ガッツポーズがしたい気分だった。
(まじ、ヤバくね!?
イケメンが大挙してワタシの部屋にやって来るって、神ゲーかよ!
でも、こうでなくっちゃ!
せっかくの異世界ーーしかも、イケメン揃いの国に来たっていうのに、身の回りがオンナばかりだなんて、まじヘコむしぃ……)
正直、周囲の人物みなの動揺を、ワタシはまるで相手にしていなかった。
歓喜の予感に、身を震わせていたのである。
満面に笑みを湛えながら、ワタシはお姫様に話を振る。
夜分にイケメンのオトコを自室に連れ込めることに興奮していることを悟られないよう、わざとらしく話題の転換をはかったのだ。
「ーーそれにしても、姫様。
庭先からご自分のお家に帰るっていうのに、面倒なことですねぇ」
姫様に代わって、侍女長が答えた。
「ホラ、あれをご覧になって」
侍女長クレアは、庭に伸びる渡り廊下を指さしながら答える。
「姫様のお住まいは通称〈奥屋敷〉ですが、廊下で政庁にまでつながっておりますの。
言ってみれば、王宮の一部ですから、厳重に警固されて当然ですわ。
奥の間ですから、本来は、王家とお付きの者しか立ち入れないのです」
今さらながら、自分が今いる場所が、王宮奥深くであることに思い至った。
(マジ!?
ってことは、ここは大奥みたいなもんで、本来は男子禁制ってわけかぁ……)
でも姫様付きであろうと、護衛役は男性もなったりするから、近衛騎士や門番と同じく、男性の立ち入りができる場所に護衛役の部屋があるというわけねーー。
納得して、独り深呼吸するワタシに、クレアが心配そうな顔をする。
「私どもが、王妃様に直談判致しましょうか?
ヒナ様も、私たちと同じく、侍女部屋で寝泊まり出来ますように……」
キョトンとするだけのワタシに代わって、侍女長補佐のサマンサが抗弁する。
「でも、それでは王妃様に貸しを作ることになりますよ。
今後、どのような難題を押し付けてくるかーー」
サマンサの発言を皮切りに、他の侍女たちも、いっせいに口を開く。
「それでも、ヒナ様の身に、もしものことがあれば……」
「いえ、私どもはターニャ王女殿下のお付きなのですから、姫様の安全を第一に……」
「そもそも、騎士どもの態度がなっていないのではありませんか。
王宮付きの者だというのに、姫様のお為ではなく、この場にいない王妃様に媚を売って嫌がらせを仕掛けてくるなどとーー騎士の風上にも置けません」
「今、早急になんとかしなければならないのは、王妃様への対処ではありません。
騎士どもがヒナ様をーー姫様が異世界からお招きになった客人を、尋問にかこつけて乱暴を働かないようにすることでーー」
侍女たちが、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を始める。
その只中にあって、当のワタシはボケっとその様子を眺めるばかり。
そんなワタシの様子を見て、ターニャ姫は改めて頭を下げてきた。
「申し訳ありません。
すでにご承知かと思われますが、今現在、王宮を仕切っております王妃ドロレス様は、なにかと私どもに辛く当たるお方なのです。
ヒナ様にも今後、色々とご面倒をおかけするかと思います。
私の護衛をするうえでもーー」
ワタシは慌てて両手を振った。
さすがにホンモノのお姫様に頭を下げられるのはマズいだろう。
お付きの侍女連中からも、反感を買われかねない。
「いえいえ、みなさま、ワタシのことはお気になさらず。
騎士の方々が、向こうから来てくださることは都合が良いんですよ。
ワタクシにとっては。
マジで、イケメン揃いだから!」
姫様に対して親指を一本立てて、ニカっと白い歯を見せる。
それから、すぐに慌てて手を口許に添える。
ジュルッと涎を拭くためだ。
(スゴッ! これ、マジで、逆ハーレムってヤツじゃね!?)
騎士たちはみな、彫りの深い顔立ちの美青年ばかりだった。
すべてが、ヒナ好みであった。
二十代の青年から、十代半ばの熟れ始めたばかりの果実もあった……。
騎士連中が最初から嘲るような態度をしていたのも、てんで気にならなかった。
ワタシの目は騎士たちの相貌にひたすら注がれ、その品定めに没頭していたからである。
良くはわからないけど、どうやら異世界からの来訪者は、現在の状況を楽しんでいるらしい。
ーーそう読み取ったターニャ姫は、好奇に満ちた目をして、明るい声をあげた。
「わかりました。ヒナ様には、なにか深いお考えがおありなのですね。
ーーでは、不愉快な話はこれくらいにして、お茶にいたしましょう」




