◆8 女性派遣バイトさんは、貴族社会で逆ハーレムを堪能中!
私、星野ひかりにとっての、もう一人の監視対象ーーわが社の女性派遣バイト・白鳥雛さんは、異世界で貴族のご令嬢に変身していた。
パーティー会場の大広間では、楽団が優雅な音楽を奏で、目にもまばゆいシャンデリアが、キラキラと輝いている。
極上のワインが、甘くて口あたりがいいのだろう。
白鳥雛は喉をゴクゴクと鳴らし、ワインを何杯も飲み干していく。
雰囲気にも、お酒にも、すっかり酔わされてしまったようだ。
大丈夫だろうか?
モニター画像を観ているだけで、ハラハラする。
案の定、派遣バイトの雛さんが、頬をほんのりとピンク色に染めて佇んでいると、男性から声をかけられていた。
「君、ずいぶんといい飲みっぷりだね。
さっきから、ずっと見ていたよ」
いつのまにか、雛さんの周りを、五、六人の貴族子息が取り囲んでいた。
みな、若くて気品のある、美しい男達だ。
「初めて見る顔だね。どこから来たの?」
「え〜と。ワタシ、おとぎの国からきたんですよ、マジで。
だって、ワタシ、プリンセスなんだもの。えへへ」
モニターを観ていた私は、慌てた。
内心、毒つく。
(なに、いい加減なこと言ってんのよ。
言葉使いと態度には、じゅうぶん気を付けるようにって言ったのに……)
私の心配をよそに、白鳥雛は悠然と男たちを見返している。
だが、そうした余裕のある振る舞いが、向こうの世界の貴族社会にマッチしていたらしい。
貴族の子息たちが、いっせいに笑った。
「面白い人だね。会話も洗練されている」
「あなたのような女性に初めて出会ったよ」
「一緒にいて楽しい女の子っていいよね」
「よろしかったら、お名前を教えて下さい」
イケメンに囲まれ、口々にほめそやされて、派遣バイトさんは有頂天になっていた。
「ヤバッ。まじで、モテ期きたーー!?
みんな、イイ男。ひとりには決めらんない!
よぉし、こうなったら全員、ワタシの恋の奴隷にしてしまえ!」
派遣バイトの白鳥雛は、胸元を飾っているピンクダイヤモンドのネックレスを、子息たちにかざして見せた。
ピンクダイヤモンドがシャンデリアの反射を受け、妖しく煌めいた。
様々な色合いの霊波が、虹のように宝石から流れ出た。
男性陣はいともたやすく、派遣バイトさんの虜になった。
恋心を抱いて、瞳にハート印が輝いている。
星野ひかり(私)は赤色ボタンを押した。額に手を当てながら。
「雛さ〜ん、聞いてますか〜。
なぜ全員に〈魅了〉魔法を使う必要があるのかな?
目的の人は、ひとりですよね?」
「あーわかってますってばー。ついうっかり。
だってこんなチャンス、そうそうない。
ひかりさんだって、絶対使いますよぉ」
「私は絶対、使いません!」
「ひかりさん、マジメでお堅いから。
でも、ワタシは、王子様と夢の世界に行きたいんです、わりとマジで」
「そういう事ではないよね。仕事が最優先なんだから!」