表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!  作者: 大濠泉
第二章 白鳥雛派遣:魔法使い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/290

◆3 異世界の依頼主との対話①

 白鳥雛しらとりひなを〈魔法使い〉として異世界に派遣した日から、(さかのぼ)ること三日前ーー。


 星野新一とひかりの兄妹は、ある異世界と回線がつながったモニターを前に、仲良く並んでいた。


 会社としては、バイト君を異世界に派遣する前に、異世界(向こう)側との交渉は欠かせない。

 こちらから人材を送るのは、異世界にいる依頼者と契約をして、収益が見込まれる場合に限られるのだから、当然である。

 異世界派遣業はボランティアではない。

 歴としたお仕事なのだ。


 交渉用の機械モニターに映り込んだのは、真っ白な大理石の壁や柱に囲まれた病室だった。

 白亜の空間の隅に木製のベッドが設えてあり、そこには老年というには少し若そうなーー中高年の痩せた男が、半身を起こして寝転んでいた。

 とはいっても、中世欧州の王族用のベッドのように、前半身部分の位置が高く起き上がった状態にあったから、リクライニングチェアに腰掛けた病人と話すような格好だ。


 向こうの異世界では〈魔法の鏡〉を通して、こちらが映っているらしい。

 枕頭に鏡が寄せられると、人払いをされ、ベッドの主のみとなった。


「このような不躾(ぶしつけ)な格好で失礼する。

 余がドミニク=スフォルト王国の国王サローニア三世である」


 僕、星野新一は背筋を伸ばし、モニターの前でかしこまった姿勢を取る。

 依頼主との契約交渉は、基本的に僕が行うことになっていた。


「ははっ。

 こちらは、地球の日本国東京にあります人材派遣組合(ギルド)です。

 依頼要件を(うかが)いたく思います」


 人材派遣「会社」ではなく、人材派遣「組合」と称するのは、大概の異世界には組合(ギルド)はあるのに会社(コーポレーション)が存在しないからだ。

 意思疎通を計るため、無駄な労力を(はぶ)きたいからに他ならない。


 一方で、映像に映っている、寝巻き姿の王様は、砕けた調子だった。


「むう、丁寧な対応、痛み入る。

 其方(そのほう)の国では、身分はないと聞いておったのに。

 気を使わせて悪い。

 今は他人の目もなきゆえ、気軽にな。

 余も病床に伏せっておるという体裁だ。

 老齢衰弱病を(わずら)って二年になる」


「老齢衰弱病ーーそれは、いったいどのような病気なのでしょうか。

 可能ならば、魔法による治療が可能な人材を派遣しましょうか……」


「いや。必要ない。

 そもそも〈老齢衰弱〉とは、人間なら誰しも高齢になると(おちい)るものーー耳が遠くなったり、呂律(ろれつ)が回らなくなったり、物忘れが(ひど)くなったりする症状が起きることを指すだけでな。

 ここだけの話、余にはいまだ、そのような症状はない。

 まだ、六十にも届かぬ年嵩(としかさ)ゆえな。

 連日の心労が(たた)って体調はすぐれぬが、この病名は医師に命じて言わせたものよ。ハハハ……。」


 ソチラの世界の人間の寿命は、現在の日本よりもやや長いくらいで、男性の平均寿命は九十歳ほどだという。

 ならば、六十歳弱では、まだまだ壮健な年齢である。


「ということはーー」


 病名など取ってつけたようなものーー要するに、仮病(けびょう)ということだ。


 つまり、今回の派遣依頼者であるドミニク=スフォルト王国の国王サローニア三世は、老齢を理由に第一線の現役から退いた状態にある、ということになる。

 しかも、本当は健康なのに病人のふりをして、あたかも頭が回らなくなったかのように周囲を(あざむ)いた状態でーー。


 そんな仮病を演じる王様が、改まった態度で依頼してきたのは、先代王妃の忘形見にして、唯一の実子、ターニャ王女の護衛であった。


「余の大切な娘が無事に婚約を果たせるまで、つきっきりで護衛してほしいのだ。

 なに、期間はそう長くはならぬ。

 長くて、一月(ひとつき)ほどだろうて」


 僕は真面目な顔をして、座り直す。


「婚約が決まる間近だというのに、王様の一人娘であられる王女殿下の身に、危険が及んでいるというのですか?」


 何やらキナ臭い。

「つきっきりで護衛してほしい」というからには、王女の日常生活圏内にまで、敵が(ひそ)んでいる可能性がある、ということだ。

 期間は短いとはいえ、責任重大な護衛任務となりそうだった。


 王もまた真剣な表情で腕を組み、長い述懐を始めた。


日和見(ひよりみ)に徹しておるとな、かえって世の動きが見えるようになる。

 余が政務から退(しりぞ)いたとたん、隣国デミアス公国が主導する政策ばかりが、わが国内で(まか)り通るようになり、かの国の影響が強くなった。

 理由は簡単。元々隣国にゆかりの深いドロレス侯爵令嬢を我が家に迎え入れて、余の名代を務める王権代理としたからよ。

 ドロレスが我が家に輿入れしたのは、先代王妃が病没する直前でな。

 先代王妃の死後、すぐさま側室から正妃に昇格させたから、王権代理を務めるのも、自然の流れであった。

 じゃが、あそこまで露骨にデミアス贔屓(びいき)に振る舞うとは思わなんだ。

 隣国デミアス公国とは、資源獲得を巡って、とかく険悪な関係になりがちであったから、仲を良好にするために彼女を正妃としたのだが、裏目に出た。

 隣国デミアスの後押しもあるゆえ、王権代理たる現王妃ドロレスは、止まるところを知らぬ。

 予が伏せっておるうちに勢力を伸ばし、デミアスの息が掛かった官僚を数多く抜擢(ばってき)し、すでに国政をも意のままに操ろうとしておる。

 幸い、ドロレスとの間に子はおらぬが、もし男児でも産まれておったら、王権を完全に掌握(しょうあく)されておったろう……」


「事情はわかりましたがーー隣国が絡む、政治上の派閥抗争なだけにも(うかが)われますが……」


 僕の率直な感想に、国王サローニア三世は面白そうに笑う。


「はっはははーーこれは手厳しい。

 余に向かって、これほど正面から直言する者は珍しい。

 ーー良い良い。

 まあ、異世界の其方からみれば、たしかに国家に(まつ)わる余の懸念も、小さな派閥争いにしかみえぬであろうな」


「痛み入ります。こちらこそ、失礼な物言いを……」


 しかし、こちらが焦って釈明し始めたときには、国王は眉間(みけん)に深い皺を刻んでいた。


「じゃがな、数多くの民を治める国王としては、看過できぬ事態も起こっておってな。

 わが王国に、強力な麻薬が蔓延(まんえん)し始めたのだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ