◆51 そして残された伝説……
〈勇者マサムネ〉が王様との謁見の最中に、忽然と姿を消した後ーー。
数年を経ずして、「勇者マサムネの活躍」は伝説となっていた。
空を飛び、雷を放ち、紅蓮の炎を撒き散らす、まさに圧倒的な強者として〈勇者マサムネ〉は語られた。
これが基本である。
そのうえに様々な逸話が付け加えられて「伝説」は形成されていった。
勇者マサムネは、森林の魔物の群れを撃滅し、蝙蝠や竜の化け物、さらには魔法が効かないアンデッド軍団を一気に殲滅したーー。
その活躍は子供向け物語として、吟遊詩人が謡う定番となっていた。
そして面白いことに、思春期を迎えた若者たちーー特に女性たちの心を射とめたのは、そうした英雄的戦いぶりの物語ではなかった。
勇者マサムネのモテ男ぶりと、それでいて使命に殉ずる〈謙虚な英雄〉としての姿であった。
マサムネは妖艶な色気を発する女魔王の求愛を斥け、人類のために、涙ながらに討ち取った。
さらには王様や教皇様からの、いかなる褒賞をも受け取らず、異世界へと単身で旅立っていった。
彼が救けるべき世界が、まだいくつも存在するからである。
別世界でも、多難な冒険が、彼を待ち構えているであろう。
それでも、彼は冒険をし続ける。
魔物との戦いを厭わない。
なぜなら、救いを求める人々がいる限り、彼は何処へでも赴いて戦う〈真の勇者〉なのだからーー。
そうしたくだりを吟遊詩人が歌うたびに、女たちは瞳を涙で濡らした。
しかも彼、勇者マサムネは、強いだけでも、正義漢なだけでもない。
人々の恋愛に理解を示す、愛情豊かな男性だった。
白騎士レオンの告白により「明らか」にされた伝説がある。
身分を顧みず、騎士レオンがお姫様を秘かに慕っていた。
それを察して、本来ならお姫様と結ばれるはずの勇者様が、身を退いてくださった!
ーーという伝説である。
禁断の恋仲である若い男女にまで気を使い、恋が成就するよう気を配る、心優しく慈愛に満ちた勇者ーー。
婚期が近い娘たちにとって、この恋バナは単なる伝説を超えて「美談」にまで昇華していった。
さらに身分の垣根を超えて、見事、お姫様を娶って次代の王となった、白騎士レオンは、自身の即位に際して宣言した。
「今日、余が王となれたのは、一重に勇者マサムネ様のおかげである。
彼はいつも〈宇宙レベル〉と称して、遠大な構想を胸中に秘めておられた。
平和と愛の構想を。
おそらくは今現在も、遥かなる異世界において、平和のために、愛のために、お力を振るっておられるに相違ない。
彼は単なる英雄でも勇者でもない。
まさに神の化身ーー慈愛と力に満ちた神だったのだ。
わが王国に、偉大なる神マサムネ様の加護のあらんことを!」
新国王は、勇者マサムネを〈神〉であると認定したのである。
さらには「聖女様」こと神官リネットとの生命を賭けた〈恋愛〉も、伝説に添えられた。
治癒ポーションを与え合う最中で生まれた信頼と、共に聖魔法をアンデッドに向けて放った熱い想いーー。
加えて、聖女様が秘かに慕っていたのを汲み取ってくださり、
「なあ、聖女さんーー俺と結婚しないか?」
と声をかけてくださったのだ。
もちろん、リネットは神官の務めに殉ずる覚悟であった。
だから、その求婚を断った。
ところが当然、神の如き勇者マサムネ様は、そうしたリネットの心構えをとうにご存知で、その意志を再確認するよう、促してくださったのである。
そして、今後も彼女が民のための良き神官であるように願って、立ち去って行ったーー。
このエピソードは、白騎士レオンがお姫様と結ばれて王位に就くまでは、聖女リネットの胸の内に秘められていたが、教皇の勧めで「解禁」された。
そして、この「美談」にいくつかの尾鰭がついて、ついには〈勇者様と聖女様の悲恋ロマンス〉となって語り継がれ、後世の文学に影響を与えるまでになったという。
実際、神の化身・勇者マサムネの像は、銅像であろうと彫刻であろうと、何体も製作され、肖像画に至っては何百枚描かれたかわからないほどになった。
東京異世界派遣によって派遣されたバイト・東堂正宗は、まさに〈救国の英雄〉にして〈神話の主人公〉となったのであるーー。
◇◇◇
こうした経緯を聞かされて、白鳥雛は感嘆の声をあげた。
「ヤバッ! これって、歴史の捏造ってヤツ?
ガチで怖くね!?
みんな、勝手なこと言って、マジ、ヤバいんですけどぉ!」
「確かに、そう解釈できなくないもんね」
頬杖をついて、星野ひかりは吐息を漏らす。
「ーーあんなクズなヤツだったのに祭り上げられて、カミサマにまでなってるよ。
本当、運命の歴史ってのは、どう変わるか解らないものね」
でも、次に派遣される白鳥雛にとっては、〈あのマサムネですら、仕事の結果、伝説となった〉という顛末は励みとなったようだ。
彼女は両手を組んで、大きく伸びをしながら明るく笑った。
「じゃ、次はワタシ。
異世界行ったら、今度はワタシ、白鳥雛が、マジで頑張るから。
誰にも負けねぇくらい、つよつよな〈大魔法使い〉になって、ガチでヤバくなるんだから!
ちゃんと見ててよね!?」
次回から、第二章に入ります。
今度は、白鳥雛が〈魔法使い〉として異世界へと派遣されます。
楽しんで頂けると幸いです。
追記:
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ちなみに、私、はじめのうちは、【アクセス解析】を見ることにも気づかなかったので、しばらくの間、誰も読んでくれていないのではないか、と不安で仕方ありませんでした……。




