◆7 高貴な貴婦人に成りすませるのか? ボロがでなければいいけど……
今度、私、星野ひかりがモニターのチャンネルを変えて、監視すべき派遣バイトは女性だ。
もとよりの依頼からして「若い年頃の女性」を派遣希望されてのことであった。
場所は中世ヨーロッパ風の宮殿。
今、目の前のモニターには、その宮殿内の煌びやかな映像が映し出されている。
その豪華なパーティー会場ーー。
派遣バイトさんは純白のドレスをまとって、金髪のお嬢様を取り巻く令嬢方の一員になっていた。
周囲を取り巻く人々は、みな陶器のように白い肌をしている。
広大な部屋に置かれた幾つもの丸テーブルには、美しく飾られたお料理とお菓子がズラッと並べられていた。
向こうの世界での名称は知らないが、料理の外見がこちらのものに似ているものも多い。
豪奢なテーブルには、コテコテの料理が並んでいた。
デザートや口直し的な食べ物も、華麗に彩られた器に盛られていた。
冷やしたサーモンを、コンソメゼリーで固めた寄せもの。
蟹をチーズ煮したのを、シュークリームの皮で包んだ揚げ物。
さらにはムール貝を蒸し焼きしたもの……。
ーーといった、様々な食材が調理されて、器に山盛りにされていた。
モニター越しに見ている私までもが、思わず唾を飲み込むほど、美味しそうであった。
それなのに派遣バイトさんは、あたかも生来の貴族であるかのような振る舞いで、いずれも少し口に付けた程度で皿を下げさせ、
「ワタシはもっとサッパリとしたのをいただきたいわ」
などと、向こうの貴族言葉で、優雅にのたまう。
そんなわがままな注文に応じて、パーティーを仕切る執事たちが、川魚のポワレとか、果物で拵えた新たな料理を用意していた。
モニター越しに見ていた私は、つい赤色の通信ボタンを押してしまった。
なるべく干渉はしたくないのだけれど、この派遣している白鳥雛さんの態度にイラついてしまったからだ。
「雛さん、わがままを言うことと、レディな振る舞いは違うのよ」
突然、脳内に声が響いたので、白鳥雛は目を剥いた。
「ヤバッ、なにこれ、気持ち悪い。
その声ーーひかりさん?」
「もう三回目の派遣なんだから、事前に知ってるはずでしょ。
脳内で通信できるって」
「そんなこと言われたって、マジ、慣れないんですけど。
それより、ここヤバい。最高に楽しい。
おいしい料理に、イケてる男!
ワタシにぴったりのバイトじゃね?
まじ、シャンパンタワーしたい気分。
今月のナンバーワンを決めたいんですけどぉ!」
「雛さん。シャンパンタワーのことは、いったん忘れて下さい。
今、仕事中ですよ!」
「それ、無理。
だって、ワタシ、マジでシャンパンコール聞くために働いて……イヤイヤ、そうじゃない、もうホストは卒業したの。
だから、マジ、頑張ってるんだし」
「そうですか。それなら、あとはしっかり、お仕事して下さいね」
「大丈夫、まかせて。
プリンス•キラーの異名を持ってんだから、ワタシ。マジで。こんなの楽勝!」
「ヒナさん、プリンス・キラーの意味が、よくわからないです」
「マジ? ウケる。そっちこそ、ワケわかんないんですけどぉ。
ふふ……プリンス・キラーの意味、聞きたい?」
「別に、聞きたくないです」