◆39 ありがとう、聖女様!
女魔王が、喜色満面で勝利宣言を発した。
その瞬間ーー。
バリバリ……と音がして、血液が飛び散った。
が、その血は紅くない。
緑色だ。
人間の血ではない。
魔族のーー魔王の血だ。
俺の胸板に突き立てたオンナの指が、爪ごと破壊されていた。
俺様の防御を兼ねた雷撃魔法が発動し、至近距離に迫った女魔王の腕を吹き飛ばしたのだ。
きゃああああーーー!
女魔王は悲鳴をあげて翼をはためかせ、俺から距離を取る。
そして、血塗れになった右手を左手で庇いつつ、呻き声をあげる。
「ま、まさか。其方は毒も効かぬのか!?」
俺は笑みを浮かべて、首を横に振る。
「いやいや、危うく死にそうだったよ。
でも、救けてもらったんだよ。人間の聖女様に」
魔王の毒の効力は凄まじく、負傷時にステータス表を密かに見たら、800Pもの損害を俺に与えていた。
〈勇者マサムネ〉に設定されていた元々の治癒力は600Pーー。
本来なら力が足りず、彼は死んでいたことになる。
ところが、聖女様から貰ったポーション治癒力は300P!
コイツが加算されたから、魔王の毒によって死ななくて済んだのだ。
俺様、勇者マサムネは、胸を撫で下ろした。
(ほんと、聖女さんから貰った治癒ポーションが役立った。
悪魔城に侵入する前に、ポーションを飲んでおいて良かった。
コイツが、事前に飲んでも治癒・回復効果がある特別製で助かった。
ありがとう、聖女さん。俺様は君のために戦うよ。
天国から見ていてくれ!)
俺は笑みを浮かべたまま、己自身の身体を一瞬のうちに火炎魔法で包み込んだ。
もちろん、俺の身体にダメージは一切ない。
灼熱の炎に焼かれたのは、俺様を取り押さえていた魔族女どもだ。
「キャアアアア!」
「ア、アタイの美しい肌がーー!?」
「ひ、退くのよ! みんな!」
「この化け物ッ!」
周囲からオンナどもが、一気に退散していく。
謁見の間は、女性の悲鳴で包まれていた。
だが、許さない。
危うく死ぬところだったんだ。
俺は四方に散ろうとするオンナどもを、悠然と見渡す。
(魔族とはいってもオンナは同じーー甲高い声で悲鳴をあげるもんだな。
まるで、俺様の頭の中でキンキン響く、ひかりちゃんの声みたいだ。
ーーしかし、化け物って、なんだよ!?
テメエらみたいな卑怯なオンナどもから、俺様がそんなふうに呼ばれる筋合いはねえよ!)
女魔王は、文字通り尻尾を巻いて空へと逃げる。
配下の魔族オンナどもも、床上を滑るように走って、遠ざかっていく。
だが、怒り心頭となった俺は、逃さない。
(見てろ。一気に片をつけてやる!)
俺は剣を抜き、天井に向かって突き立てた。
避雷針に雷が直撃したかのように、剣が青白く輝いていく。
全身から稲光を発しつつ、俺様は大声をあげた。
「滅びよ、魔王。天空より来れ、雷炎ッ!」
俺の声とともに、恐ろしいほどの衝撃が、魔王城一帯に叩きつけられた。
炎が渦巻き、雷鳴が轟く。
その輝きは、遠く〈漆黒の森〉の向こう側に広がる人間の王国からも視認できるほどであった。




