表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/290

◆29 おお、イケるのか!? イケるんじゃないのか、これは!

「うりゃあああ!」


 俺、勇者マサムネは、聖女リネットとともに力を合わせ、聖魔法を宿した石を、弾丸のように〈雷撃〉した。


 紅く輝く電撃が、まっすぐ敵軍団を貫いた。

 まずは、目前で槍を突き立てていたガイコツを粉砕する。

 さらには、その両隣や後方にいたスケルトン兵どもをも、風圧にも似た魔法衝撃だけで、吹っ飛ばした。


 そして、聖紋を刻まれた石は、一直線に敵軍司令官へ向けて飛んでいく。


 一瞬、ローブを(まと)った敵司令官は、驚愕の表情を浮かべた。

 髑髏(ドクロ)の顔面だけど、口の開き具合だけで、その感情が読み取れた。


 ーーが、遅い。

 雷撃の速さに対抗して、防ぐことはできない。

 時間もなければ、能力もない。

 凄まじい聖魔法による〈雷撃〉なのだ。


 骸骨どもが叫び声をあげる間もなく、見事、小石の弾丸は命中した。

 魔力が最大限に込められた石は、遥か遠方にまで飛んで行き、スケルトン軍司令官の額をぶち抜いたのである。


「よし!」


 俺は思わず、片手でガッツポーズをする。


 その途端ーー。


 いきなりガイコツどもが一斉に足をもつれさせ、倒れ込み始めた。

 瞬く間に、数多くのスケルトン歩兵どもが、ガラガラと自身の身体を崩していく。

 今まで、いくら攻撃を受けても復活したスケルトン歩兵が、身体を崩壊させていった。


 何が起こったのか。

 俺は事情を察した。


(そうか。

 あの軍団司令官が、スケルトン兵の復活そのものを、魔法かなにかで維持させていたのか……)


 となれば、もはや復活はできまい。

 今度こそ、破壊して焼き尽くせば、アイツらは死滅するはず。


(とどめを刺してやる!)


 大きく息を吸い込んで、叫んだ。


混合(カクテル)からのーー〈雷炎〉だぁ!」


〈雷撃〉と〈火炎〉の合わせ技が、俺の両手から炸裂(さくれつ)する。


 ゴゴゴゴゴ……!!


 轟音とともに、爆煙が大量に発生する。


 カラカラ………カラカラ………。


 黒煙に巻き込まれながら、小気味のいい、軽い音を鳴らして、スケルトン歩兵たちの身体が、次々と破壊されていく。


(おお、なんだか爽快だな!)


 スケルトンどもの壊れっぷりに、俺は目を見張った。

 他の魔物や魔族ならば、仲間が次々と倒れていく姿をみると、怖くなって戦場から逃げ出そうとする。

 生命が惜しいから、当然だ。

 が、アンデッドたちは、もとより死んでた生命だからか、流れに(あらが)うことなく、バタバタと波打つように倒れて、壊れていくばかりだった。

 軍団編成を維持したまま、ドミノ倒しに崩れていく。


 むしろ、アンデッド軍団のさらに後方に控えていた、熊や狼のような形状の魔物たちの方が慌てふためき、慌てて四散していく。


(おいおい、お前ら、いつの間に(ひそ)んでたんだ?

 気づかなかったよ……)


 爆煙が晴れる頃には、目の前の視界が完全に開け、敵勢はいなくなっていた。


「やったぞ! ガイコツどもを皆殺しだ」


 俺は天空に向かって、腕を突き立てた。


 わあああああ!


 後方にあった人間パーティーから、歓声があがった。

 危機は去ったーー!

 ようやく、そう悟ったようだった。

 安堵の吐息が混じった、喜びの声だった。


 安心したのは、彼ら現地人だけではなかった。

 俺様ーー〈異世界からやって来た勇者〉も同様だった。

 俺はホッとして、肩の力を抜いた。


 ようやく、安らげるようだ。

 いくら〈異世界からの勇者〉とはいえ、張り切り過ぎだよ、ほんと。

 勤務超過手当、くれねえかな……。


「ありがとうございました!」


 隣にいた聖女様が、寄り添ってくる。

 俺の左腕に身体を預けて。

 女性特有の柔らかい感触が伝わる。

 聖女リネットの顔は、赤いままだ。


(おお、そそるシチュエーション……。

 こいつ、やっぱ、俺に気があるのか?)


 恋愛の情に鈍い俺でも、さすがに察せられる。

 それほどの「近さ」に彼女はいた。


 アンデッド歩兵も撃退し、ようやく安心できる情況だ。

 ここはラブロマンスを進展させる場面ではなかろうかーー。


 俺は口笛を吹きつつ、片腕を彼女の腰に回す。


「あっ……」


 と聖女様は小さく声をあげたが、伏し目がちなままで抵抗しない。

 俺は顔を真っ赤にさせた。


(おお、イケるのか!?

 イケるんじゃないのか、これは!)


 気分は最高に高揚した。

 このままリア充に突入の流れか!?


 よく見りゃ、聖女様は綺麗で、可愛い顔立ちをしている。

 なにより知的な面差しをしている。

 そして、俺様を慕ってくれているーー。


 ここで一気に抱き締めようと、手を彼女の腰に回そうと動かす。

 全身を小刻みに震わせながら……。


 だがしかし、リア充モードは、俺様には似合わなかったようだ。

 異世界(コッチ)に来て以来、最も緊張した瞬間だった。


 そこを敵に()かれた。

 不意を突かれたのである。


「あぶない!」


 俺様はいきなり、聖女様に押し倒された。

 といって、期待していたエロい展開が、急に起こったわけではない。


 突然、中空に(やいば)(きら)めき、俺様に向かって襲いかかってきたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ