◆29 おお、イケるのか!? イケるんじゃないのか、これは!
「うりゃあああ!」
俺、勇者マサムネは、聖女リネットとともに力を合わせ、聖魔法を宿した石を、弾丸のように〈雷撃〉した。
紅く輝く電撃が、まっすぐ敵軍団を貫いた。
まずは、目前で槍を突き立てていたガイコツを粉砕する。
さらには、その両隣や後方にいたスケルトン兵どもをも、風圧にも似た魔法衝撃だけで、吹っ飛ばした。
そして、聖紋を刻まれた石は、一直線に敵軍司令官へ向けて飛んでいく。
一瞬、ローブを纏った敵司令官は、驚愕の表情を浮かべた。
髑髏の顔面だけど、口の開き具合だけで、その感情が読み取れた。
ーーが、遅い。
雷撃の速さに対抗して、防ぐことはできない。
時間もなければ、能力もない。
凄まじい聖魔法による〈雷撃〉なのだ。
骸骨どもが叫び声をあげる間もなく、見事、小石の弾丸は命中した。
魔力が最大限に込められた石は、遥か遠方にまで飛んで行き、スケルトン軍司令官の額をぶち抜いたのである。
「よし!」
俺は思わず、片手でガッツポーズをする。
その途端ーー。
いきなりガイコツどもが一斉に足をもつれさせ、倒れ込み始めた。
瞬く間に、数多くのスケルトン歩兵どもが、ガラガラと自身の身体を崩していく。
今まで、いくら攻撃を受けても復活したスケルトン歩兵が、身体を崩壊させていった。
何が起こったのか。
俺は事情を察した。
(そうか。
あの軍団司令官が、スケルトン兵の復活そのものを、魔法かなにかで維持させていたのか……)
となれば、もはや復活はできまい。
今度こそ、破壊して焼き尽くせば、アイツらは死滅するはず。
(とどめを刺してやる!)
大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「混合からのーー〈雷炎〉だぁ!」
〈雷撃〉と〈火炎〉の合わせ技が、俺の両手から炸裂する。
ゴゴゴゴゴ……!!
轟音とともに、爆煙が大量に発生する。
カラカラ………カラカラ………。
黒煙に巻き込まれながら、小気味のいい、軽い音を鳴らして、スケルトン歩兵たちの身体が、次々と破壊されていく。
(おお、なんだか爽快だな!)
スケルトンどもの壊れっぷりに、俺は目を見張った。
他の魔物や魔族ならば、仲間が次々と倒れていく姿をみると、怖くなって戦場から逃げ出そうとする。
生命が惜しいから、当然だ。
が、アンデッドたちは、もとより死んでた生命だからか、流れに抗うことなく、バタバタと波打つように倒れて、壊れていくばかりだった。
軍団編成を維持したまま、ドミノ倒しに崩れていく。
むしろ、アンデッド軍団のさらに後方に控えていた、熊や狼のような形状の魔物たちの方が慌てふためき、慌てて四散していく。
(おいおい、お前ら、いつの間に潜んでたんだ?
気づかなかったよ……)
爆煙が晴れる頃には、目の前の視界が完全に開け、敵勢はいなくなっていた。
「やったぞ! ガイコツどもを皆殺しだ」
俺は天空に向かって、腕を突き立てた。
わあああああ!
後方にあった人間パーティーから、歓声があがった。
危機は去ったーー!
ようやく、そう悟ったようだった。
安堵の吐息が混じった、喜びの声だった。
安心したのは、彼ら現地人だけではなかった。
俺様ーー〈異世界からやって来た勇者〉も同様だった。
俺はホッとして、肩の力を抜いた。
ようやく、安らげるようだ。
いくら〈異世界からの勇者〉とはいえ、張り切り過ぎだよ、ほんと。
勤務超過手当、くれねえかな……。
「ありがとうございました!」
隣にいた聖女様が、寄り添ってくる。
俺の左腕に身体を預けて。
女性特有の柔らかい感触が伝わる。
聖女リネットの顔は、赤いままだ。
(おお、そそるシチュエーション……。
こいつ、やっぱ、俺に気があるのか?)
恋愛の情に鈍い俺でも、さすがに察せられる。
それほどの「近さ」に彼女はいた。
アンデッド歩兵も撃退し、ようやく安心できる情況だ。
ここはラブロマンスを進展させる場面ではなかろうかーー。
俺は口笛を吹きつつ、片腕を彼女の腰に回す。
「あっ……」
と聖女様は小さく声をあげたが、伏し目がちなままで抵抗しない。
俺は顔を真っ赤にさせた。
(おお、イケるのか!?
イケるんじゃないのか、これは!)
気分は最高に高揚した。
このままリア充に突入の流れか!?
よく見りゃ、聖女様は綺麗で、可愛い顔立ちをしている。
なにより知的な面差しをしている。
そして、俺様を慕ってくれているーー。
ここで一気に抱き締めようと、手を彼女の腰に回そうと動かす。
全身を小刻みに震わせながら……。
だがしかし、リア充モードは、俺様には似合わなかったようだ。
異世界に来て以来、最も緊張した瞬間だった。
そこを敵に衝かれた。
不意を突かれたのである。
「あぶない!」
俺様はいきなり、聖女様に押し倒された。
といって、期待していたエロい展開が、急に起こったわけではない。
突然、中空に刃が煌めき、俺様に向かって襲いかかってきたのである。




