◆27 おかしいな。アンデッドは炎に弱いってのは、定番なんだが……
俺様、勇者マサムネとアンデッド軍団との戦闘が始まった。
戦端が開かれた当初は、俺様が圧倒的に優勢を誇っていた。
俺様が放つ雷炎魔法で、スケルトン兵が次々と破壊されていく。
(おお、気持ち良いくらいスムーズに倒せるぜえ!)
アンデッドが炎に弱いのは、どのゲームや物語でも定番になっている。
が、俺様は気を抜かない。
相手は、武装したアンデッドだ。
盾や鎧で、火炎攻撃に対する耐性をつけているかもしれない。
さらには、武具のみならず、目に見えない魔法障壁で、部隊を守っている可能性がある。
だから、〈火炎〉に〈雷撃〉を〈混合〉したのだ。
俺様の〈雷撃〉魔法には、物理のみならず、魔法障壁にも攻撃効果がある。
だから、まずは〈雷撃〉によって物理的にも魔法的にも敵の防御力を破壊し、丸裸にしたうえで、ほぼ同時に〈火炎〉によって、lアンデッドの身体を直に痛めつけてやったのだ。
轟音とともに、近場にいたスケルトン兵は爆発して、四肢が四散する。
前方に布陣していた一、二列のみならず、後方を陣取っていた遠方の敵兵も、バタバタと倒れていく。
わあああああああーー!
感嘆する声が、後方からこだましてきた。
人間パーティーの面々が、俺様、勇者マサムネの活躍ぶりに目を見張り、威勢良く拳を振り上げ、歓声をあげたのだ。
俺は振り向きつつ、護衛対象者たちの姿を眺め渡す。
正直、彼らが元気なのは掛け声だけで、魔族相手の戦闘では役に立ちそうもない。
彼らの貧相な武装と、貧弱な体躯を見るだけで、十分に察せられた。
(仕方ない。やっぱ、俺様が独りで気張るしかねえな。
勇者様ってのは孤独な職業だぜ!)
再び正面の敵勢を見遥かして、俺様は鼻息を一つ鳴らした。
「ふん。わざわざ〈混合〉する必要がなかったようだな」
俺の〈雷撃〉魔法は強力だった。
敵軍が展開した障壁のみならず、骸骨の身に纏った盾も鎧も粉々に粉砕してしまっていた。
そのうえに〈火炎〉魔法で覆い尽くしたのだから、ガイコツどもは黒焦げになったままで、再起は叶わないはずーー。
俺様はそう確信した。
実際、後方で観戦している人間の仲間たちも、そう信じたに違いない。
ところが、予想通りにはいかなかった。
ほんと、人生、何が起こるかわからない。
しばらくすると、カタカタと気持ち悪い、骨の合わさる音がしたかと思うと、スケルトン兵の身体が復活していく。
俺は思わず口をへの字に曲げた。
(おかしいな。
アンデッドは炎に弱いってのは、定番なんだが……)
たしかに雷撃により、ヤツらの防御力を粉砕した。
にもかかわらず、ヤツらは消滅しない。
骨が黒焦げにならない。
薄い透明がかった靭帯が骨と骨を繋ぎ合わせ、元の身体を再構成していく。
(なんだよ、混ぜモンにしたから効かないのか?
しゃあねえ、念の為だ)
今度は〈混合〉せずに、単体の魔法攻撃を放ってみた。
「火炎!」
〈火炎〉は、雷撃のような破壊衝撃を生み出さない。
いっせいに火の海が広がっていくような感じだ。
手の平に念を強く込めると、火炎放射を仕掛けることもできた。
敵兵がいる場所はすでに岩場ではなく、焼け野原だ。
燃えるモノといったら、もはやスケルトン兵の骨しかない。
だが、燃え切らない。
というより、いったんは真っ黒に焦げるのだけれど、やはり同じように復活する。
綺麗になった骨が再び組み立てられて身体を構成していってしまう。
(まるで旧約聖書のエゼキエルだな。
この世界のアンデッドには、炎は効かないのかよ!?)
今度は〈雷撃〉単体で、敵集団に攻撃を仕掛けてみた。
が、またもや効かなかった。
バラバラになった骨が、瞬く間に組み合わさって、復活していく。
何度攻撃しようが、同じように敵兵は回復していき、ついには彼らがもつ槍の先端が、俺様の間近に迫りつつあった。
幾度、燃やしても、形を整えて、規則的に行進してくる。
不気味だ。
背中にゾックっと寒気がした。
「気持ちわりー!」
つい本音を漏らす。
(これじゃ、埒が明かねえ!)
「チッ!」と大きく舌打ちし、頭をかきむしった。
すると、俺様の苛立ちが伝わったのだろうか。
背後から、人々の動揺する声が聞こえて来た。
「もう駄目だ……」
「勇者様にも、死者は殺せないのか……」
だが、〈勇者様〉である俺様は、悲嘆に暮れてばかりもいられない。
ここは戦場ーーしかも戦闘の真っ最中なのだ。
「ええい、喚くな!」
俺は背後に向かって叫ぶと、改めて正面の敵集団を見据えた。
敵を知れば、百戦しても危うからず。
まずはよく調べ、よく知ることだ。
今後の戦い方を考えるため、時間稼ぎが必要だ。
俺はまだ使っていない能力を使うことにした。
「索敵!」
今までの蝙蝠男どもや竜騎兵と違って、アンデッド軍団は厄介だ。
壊しても、焼いても、復活してくる。
とりあえず、接近してくる歩兵の足を止めなければ……。
(誰が命令してんだ、この歩兵集団は。
ーーあの、奥のヤツか?)
〈索敵〉によって、スケルトン軍団の指揮官を捜す。
すると、百体ものガイコツ兵が固まっている奥の方の一人に、赤い表示がなされている。
索敵魔法による識別機能が発揮されたのだ。
(ちっ、アイツも骸骨じゃねえか。
雷や炎じゃ死なない……)
指揮官と思しきアンデッドは、他のガイコツと違って、紺色の長衣を纏っている。
よくは知らないが、ゲームとかで出て来るエルダー・リッチとかいうやつか?
だが、いずれにせよヤツの身体も、他のアンデッドと同じガイコツだ。
今までと同じ攻撃では、倒せないのだろう。
だが、俺様は閃いた。
(そうだ。いいこと考えた。
さすが俺様、宇宙レベルで頭イイ!)
俺は即座に〈混合〉を起動させ、敵兵に向かって〈雷炎〉を連続発射したのである。
ガガガガガ……!!
爆ぜる音と共に、スケルトン歩兵が一気に何十体も吹っ飛んだ。
が、これだけでは今までと同じ繰り返し。
敵はバラバラになった身体を復元していく。
だが、身体が回復し切るまで、少し時間がかかる。
その束の間の時がポイントだ。
復活して、歩兵として動けるようになるまでは結構時間がかかる。
その間、敵軍の動きが止まる。
その時間が欲しかった。
「おい、聖女様!」
俺はマントを翻し、振り向きざまに大声をあげる。
「アンタは神官なんだから、聖魔法を使えるよな?」
白騎士の傍らにいる聖女リネットは、真剣な面持ちで頷く。
再度、重ねて俺様は問うた。
「アンデッドに聖魔法は効くのか!?」
聖女リネットは、張りのある声で応じた。
「はい。他に退治する方法はない、とすら言われています」
なんだよ、だったら早くそう言えよ!
ーー内心、毒付きながらも、俺様は勇者らしく胸を張り、爽やかな笑顔を造って腕を振り上げた。
「だったら、こっちへ来い。俺様が骸骨どもを駆除してやる。
手伝え!」




