◆20 まだ、やったことがない、全力の魔力を叩きつけてやる。チート能力を舐めんなよ!
日本東京から〈勇者マサムネ〉として異世界に派遣されてきた俺、東堂正宗は、現在、危機的状況に陥っていた。
魔王城が行手に聳え、その手前には五、六百を数える魔族の大軍が待ち構えていたのである。
その一方で、人間パーティーには、碌な兵力がなかった。
今まで、森林を突破する過程で、彼ら、人間パーティーメンバーの能力を、俺はそれなりに把握していた。
攻撃力を持っているのは、白騎士一人と、もう二人だけ。
治癒能力を持つのは、聖女様お一人。
あとは魔法で障壁を築いて、魔物による物理的な攻撃を凌いでいくのがやっとのメンバーだった。
でも、自分の身を守るだけなら、みな、それなりの力はある。
たぶん、そういう能力者を集って、この森林探索団は組織されたのだろう。
絶望的な状況でありながらも、みな、正気は保っていた。
先程、〈勇者マサムネ〉たる俺様が、
「おまえらは防御だけしてろ」
と言ったおかげもあって、人々の口からは安堵の声すら漏れ聞こえていた。
「よくわからんがーー勇者様が気にするな、とおっしゃるんだ。
なんとかなるのだろう」
「そうだ。勇者様がなんとかしてくださる」
「勇者様はお強い。
今まで森の中で、何度も魔物をやっつけてくださった……」
だが、しばらくすると明るい声が、段々小さくなる。
心配事に気づいたらしい。
おずおずとした声で、いつも聖女様の背後に貼り付いているお付きの者が尋ねてきた。
「でも、魔法で防御障壁を張っていたら、その間、こちらからは攻撃できません」
「そうなのか?」
俺は眉間に皺を寄せる。
やっぱりか。
森の中で魔物と対峙してるとき、なんでコイツらなにもしないんだろうって思ってた。
そうか。
防御障壁を展開してたから、打って出られなかったんだ……。
今まで引っかかっていた、現地人どもの戦闘時における疑問ーーそいつが解消して、少し気が晴れた。
人間パーティーの面々を前に、俺は手を腰に当て、胸を張った。
「わかった。なんでもいいから、あんたたちは一丸となって、自分たちの身を守る、大きな防御障壁を築いてくれ。
攻撃なんか、しなくていい。
もとよりおまえらじゃあ、魔族に敵わない。
俺様があんたらの防御エリアより前に出る。
攻撃するのは、俺様だけで十分だ」
俺はマントを翻して、スッと前進する。
魔物の軍団を前に、単身で立ち向かう勇者ーー。
そんな自分の姿を思い描いて、俺は自分に酔い痴れていた。
(どうせピンチなら、やるだけやってみるさ。
宇宙レベルの俺様の力、見せてやる!
くうぅーー格好いいぜ、俺!)
そんな俺の内心には、まるで気づいていないのだろう。
背後では聖女リネットが両手を合わせ、俺を崇めて祈り、涙を流していた。
「勇者様……非力な私たちを救けようとして、身を挺して……」
俺は、ちょっと振り向く。
すると、白騎士レオンのヤツが、聖女様の傍らで彼女を支えるように佇んでいた。
なんだか、一途に俺様の方を見つめているがーーおいおい、少し聖女様に近づき過ぎじゃないのか?
リア充を俺に見せつけるのも、たいがいにしろよ。
コホン、と俺は一つ咳払いし、後方の白騎士に命じた。
「聖女様を頼むぞ」
「はい」
勇者の声を受け、案の定、白騎士と聖女様は、互いに見つめ合っている。
それを周囲の野郎どもが、温かい眼差しで眺めていた。
正直、彼女いない歴=実年齢の俺様には、妬けた。
(いわゆる、みなさまのお墨付き、公認の仲ーー。
これぞ、祝福される美男美女ってやつか。
ちッ、リア充してやがんな……)
周囲の仲間に見守られながら、白騎士と聖女様は、互いに無言で手を取り合う。
その仕草と雰囲気だけで、彼、彼女が互いに信頼し合っていることがわかる。
二人の絆の強さが窺われた。
そして、一拍、間を置いてから、聖女たちは周囲を取り囲む仲間とともに、いっせいに俺に向かって、熱い視線を浴びせてきた。
彼らの熱い期待を全身に受け、俺の感情は最大限に昂った。
つい先程まで、彼らの男女仲を嫉妬していたが、コロリと忘れた。
(おおう、期待のオーラが熱いぜ。
しゃあねえな。
俺様は、異世界からやってきた勇者だからな。
ここは恰好つけてやるか!)
俺はマントを翻し、前進していく。
敵の魔物軍団に向かって。
俺の背中を見つめつつ、人間パーティーは全員で魔法を発動し、防御障壁を築いていく。
半球形の魔法障壁で、自分たちの身を守る格好だ。
人間パーティーが防御体制に入ったのを背中で感じつつ、俺様、勇者マサムネは、さらに歩を進める。
(さて、これで俺様は、気兼ねなく、全力が出せるってわけだ!)
首や腕をボキボキといわせて、身体をほぐす。
そして、眼前に展開する魔族軍団を睨みつけた。
(まだ、やったことがない、全力の魔力を叩きつけてやる。
チート能力を舐めんなよ!)
人間たちが防御体制に入ったのと同時に、魔族たちも動き出した。
さっそく、空と陸の二方面から、攻撃を仕掛けてきたのだ。
雲霞の如く迫ってくる、化け物の大群ーー。
ヤツらを前にして、俺も即座に行動を開始した。
なにをしたかって?
当然、空へと飛んだのさ。
付与された魔力で〈飛翔〉したのだ。
背後で人間どもが、おおっ、と感嘆の声をあげているのが聞こえる。
俺は宙に浮きながら剣を抜いて、天空で振りかざした。
「どうだ! 俺様は恰好良いだろ。
これから魔物を殲滅してやるから、見てろよ!」




