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◆4 チートになったバイト君は、手がつけられない

 私、星野ひかりの業務は、異世界に派遣したバイトに指示を出し、依頼を遂行してもらうことであった。

 ところが、この派遣バイト君ーー東堂正宗くんは、すぐに暴走する傾向があった。

 ちょっと気に入らないことがあると、すぐチート能力を敵味方に見せつけようとするきらいがある。

 私は、ヘッドホンの脇から延びるマイクに向かって声をあげた。


「ハイ、正宗くん、落ち着いて。

 君が〈できる男〉なのはよくわかっているからーー」


 とにかく、この東堂正宗というバイト君は、すぐ興奮して有頂天になるヒトなのだ。

 きついことを言っても、反発されるだけだったりする。

 それでも、ガツンと言うべき時には、言わなければならないーーそう思って、私は彼に発すべき言葉を探す。

 彼の派遣先は、この地球日本とは異なった時空にある異世界なのだから、何が起こるかわからないのだ。


 でも、私が効果的な制止の言葉を思いつくより先に、案の定、派遣バイト君は勝手に動き出してしまった。


 彼はクルリと後ろを振り返り、幌馬車隊の仲間達を見渡し、大声を張り上げた。


「もう怒った。俺様の本気を見せてやる!」


 バイト君は、剣を天に向かって高く突き立てる。

 剣先が青く光り、そこから静電気のような細い稲妻が、四方八方に拡散しはじめた。


 うりゃあああ!


 彼の咆吼ほうこうに応じるかのように、天候が急変した。

 突如、上空に黒雲が発生して渦巻き、閃光が走る。

 その直後、天空から轟音がとどろいた。


 ドドドオーーン!!


 まさに、天が割れるかのような破裂音だった。

 モニター越しに観察していた私も、ティーカップを机に置き、耳を塞ぐ。

 それでも、耳鳴りがするほどの衝撃だった。


 モニターの画像が荒れた。

 一時、砂嵐状態になる。

 そしてモニター画像が戻ったときには、一面、大火事になっていた。


 大きな火が、黒煙をあげて燃えさかっていた。

 星野ひかり(私)は、自分の親指の爪をギリッと噛んだ。


(もう、これだからイヤになっちゃうんだよ……)


 そりゃ、そうだ。

 バイト君は、いきなり魔法力MAXの落雷魔法を放ったのだ。

 あたかも雷が落ちたかのように稲妻が走り、魔物のみならず、大樹や岩場、地面の別なく焼き尽くしてしまう。

 

 しかも、それまで数多くの魔物が、幌馬車隊を付け狙い、取り囲んで併走していたのを、一気に天空から攻撃されたのだからたまらない。

 天空からの雷が幾つも枝分かれして直撃し、魔物たちは瞬時に焼け焦げてしまっていた。

 同時に、辺り一面にも、一瞬で炎が燃え広がっていく。

 周囲何キロもの森林地帯が一瞬で破壊されてしまい、当然、幌馬車隊の周囲は火の海となってしまった。

 このままでは山火事となってしまう。

 幌馬車隊に群れる商人も護衛役も、みな熱にあおられ、酸欠で死亡しかねない。


「ひいいいい!!」


「熱い!」


「灼熱地獄だ!」


「勇者の馬鹿! やりすぎだぞ‼︎」


「俺たちまで焼き殺す気か? ふざけんな!」


 幌馬車に乗り込んでいる商人たちは悲鳴をあげ、護衛役は勇者マサムネを口汚く罵った。


 彼らの苦情はもっともだ。

 これでは護衛でもなんでもない。

 単なる環境破壊者だ。


 ところが、どうだ。

 そうした、現地の人々が泡を吹くさまをみて、バイト君は指差して、笑い転げているではないか。

 わが社が派遣したバイト、東堂正宗くんは、文字通りゲラゲラと腹をかかえて笑っていた。


 私はモニターを見ながら、顔をしかめた。


「ホント、性格悪いクズだわ。こんなヒト雇って失敗した……」


 私の嘆きが、彼の脳内に響いたのだろう。

 勇者マサムネは、愉快そうに声をあげた。


「はっははは……! 

 焦るな、焦るな。俺様は勇者だ。

 気圧の調整も抜かりないぞ!」


 私のつぶやきに対して、彼は平然と声を上げて反応する。

 私の声は彼の脳内で響くだけなので、現場にいる他のヒトたちには聞こえない。

 だから、彼らから見れば、勇者マサムネが大きな声で独り言を口走っている格好になる。

 それはさすがに気味悪がられるから、できるだけ大声を出すな、と私はバイト君に指導してきた。

 それでも彼は平気で、みなに聞こえるような大声を出す。


 それにしてもーー。


(ん? 気圧の調整? なに言ってるの、このヒト……)

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