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◆18 森を抜けたら、そこは戦場だった……!?

 一方、〈勇者マサムネ〉として異世界に召喚された東堂正宗(とうどうまさむね)は、東京とは違う時間の中で過ごしていた。

 魔法とファンタジーの世界へと派遣されてから、かれこれ五日ほどが経過していた。


 そして、ようやく魔物が巣食う〈漆黒の森〉の奥へと進み、突き出ることに成功したのである。


「やれやれ、ようやく森を抜けたか……」


 俺、勇者マサムネは、手で頬を伝う汗を(ぬぐ)う。

 後ろでは、生き残った人間たちが地面にへたり込んで、空を見上げていた。

 久しぶりに全身で陽光を浴びた気がした。


 猪のような魔物の大群から、人間のパーティーを救出してからも様々なことがあった。


 食料は自給自足で、魔物や獣を狩って(まかな)い、水源は河川の水、あるいは雨露を葉っぱから集めて飲んできた。

 だが、いつ魔物に襲撃されるかもしれないという緊張は解けず、神経はささくれ立つ一方だった。


〈漆黒の森〉と称される、魔力に満ちた森林の奥に入って行けば行くほど、魔物のボスである魔王が住まう場所に近づいていくことになるのだから大変だった。

 当然、魔物がより強大化していくし、パーティーの中からおびえて逃亡する者も増えてくる。


 (わし)のような魔鳥に襲われて三人、熊のような魔物に襲われて五人が死んだ。

 パーティー内の紛糾(トラブル)によって、六人が抜けた。(森の只中で離脱していったが、その後の消息は不明)


 パーティー内の人間関係も、かなりギスギスしてきた。

 三十人ほどになっていたパーティーメンバーが、森林の奥へと入っていくに従って人数を減らしていく。

 今では、二十人にも満たない数になっていた。


 それでも、聖女リネットを中心に、白鎧のイケメン騎士レオンが音頭を取って、なんとかパーティーを維持し続けていた。


 そして、ついに〈漆黒の森〉を抜け出ることに成功したのである。


 やっと薄暗い森を()けた。

 明るいお天道さんの下に出られるんだ!


 思って歓喜したのは、俺だけじゃないはずだ。

 人間パーティーのみなが、気持ちを同じくしていたに違いない。

 だから、みな、森を背にしながら晴々とした表情で、前方を(はる)かに見渡した。


 だがしかしーー。


 いくら遠目を()かそうとも、目の前には、荒れ果てた大地が地平線の彼方まで広がるばかりだった。


(森から脱出できたとはいえ、これじゃあなぁ……)


 大きく溜息をついたのは、俺だけではないはずだ。

 森を抜けた先は、草木が一本も見当たらない荒地になっていた。


 荒地とはいっても、真っ平な土地ではない。

 ゴツゴツした岩場が乱立している大地だ。

 さらに、その向こう側には、山がーーひときわ大きな岩山が見える。


 ひび割れた地面が続いた先に、三角錐のように(とが)った岩山がそそり立っていた。


 俺は遠くを見るために、目を細める。


(三角錐? 自然物とは思えない形だな。

 岩山を人工的に(けず)ったのか?)


 その岩山の山腹が、台座のように出っ張っている。

 その上には、低い壁に取り囲まれた、尖った屋根を持つ、漆黒の城郭があった。


「あれは?」


 マサムネが尋ねると、白鎧の騎士が見晴るかして、答えた。


「あれこそが、魔王城ーー魔王が住まう城砦です」


 俺は呆気に取られた。


(おいおい、ほんとうにいたんかい、魔王!

 しかも、魔王の城が、現地人(おまえら)に普通に認知されてんの!?)


 目を見張る俺の(かたわ)らで、聖女リネットが真剣な表情で説明を始めた。


「魔王があの城にいるのは、間違いありません。

 そして、その魔王は、勇者様と同じように、異世界から召喚されたと考えられます。

 勇者様がこちらの世界に来られる前に、〈魔王召喚〉がなされたことを、我々、王宮や教会に務める聖職者には、周知されておりました。

 しかし、召喚地が、この森の奥だとほぼ特定できていたにもかかわらず、手が出せないでいたのです。

 魔王を召喚した魔術師はすでに亡く、魔王を元の世界に送り返すことは難しい。

 そのうえ、魔王を討伐するにも、まずはこの〈漆黒の森〉ーー魔力の濃い地域ーーを超えなければならない。

 でも、森には無数の魔物が棲息していて、通常の人間には、これらを斥け切ることは、不可能ーー。

 我々、王国の者は、手をこまねいているしかなかったのです。

 勇者である、あなた様が召喚なされるまでは……」


 一途に魔王城を見定めながら、聖女様は語る。

 彼女にとって、魔王は大切な家族を殺されるに至った元凶であるから、その胸中は計り知れない。


 それにしてもーー。


 まあ、魔王の住処(すみか)まで辿(たど)りつけたんだ。

 それで良しとして、今後、王国やらなにやらから、援軍を呼び寄せたらどうなのかな?

 あれ、城砦だろ?

 こんな少人数で突破できるかどうか、怪しいぞーー。


 俺がそういった内容を、オブラートに包みつつ口にした。

 すると、聖女様は「そうですね」と言って賛同する。

 が、視線を前に向けたまま、すぐに言葉を続けた。


「ーーでも、もう遅いようです」


 聖女リネットの発言を受けて、白騎士レオンが、不敵な笑みを浮かべる。生唾を呑み込みながら。

 遠く、三角錐の山を見渡して、低い声を発した。


「今まで倒してきた森の魔物から、報告でもされていたのでしょう。

 魔族軍団が、我々を待ち構えていたようですよ」


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