表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/290

◆12 私は勇者様を信じております。

 俺、東堂正宗(とうどうまさむね)は、現地の人たちに援助してくれるようお願いした。


 たしかに、ナノマシンの性能は凄かった。

 肉体的損傷を、あっという間に修復した。

 腕がちぎれる激痛も瞬時におさまった。

 とはいえ、ほんのわずかな間があった。

 その、ごくわずかな間隙をぬって、魔物が襲いかかってきたら、どうなる?

 おそらく、無事では済むまい。

 しかも、ナノマシンは魔法攻撃に対しては無力なのだ。

 わが身の安全確保には、万全を期したい。


 だが、俺様、〈勇者マサムネ〉の援助要請を耳にしながら、現地人の反応は薄かった。

 リネットだけではない。

 同行する男たちも、目を(しばたた)かせるばかり。


 やがて、聖女リネットが代表して、おずおずと声を発してきた。


「あのう……あなた様が私どもとは比較にならないぐらい、お強いことはすでに理解しております。

 私どもが全滅を覚悟した、恐るべき魔物の襲撃を、一気に弾き返したのでございますから」


「おう。だったら、感謝しろよな。

 俺様は命の恩人なんだからな!」


「はい、それは……。

 でも、そんな命の恩人であるあなた様が、私どもに力を貸せ、と仰せになられます。

 が、実際、非力な私どもが、強者であるあなた様に、何かお力になれることがあるのでしょうか?」


「あるさ!」


 俺は聖女様に迫りながら、畳みかけた。


「たしかに、俺様は貴様らより、ずっと強い。

 遠い異世界から、はるばるやってきた勇者なんだからな。

 でも、魔力が無尽蔵(むじんぞう)ってわけじゃない。

 今のような物理的な攻撃には幾らでも対処できるが、もし相手が魔法攻撃を仕掛けてきたら、さすがの俺様も無傷ではいられないかもしれん。それを懸念しているのだ。

 ……いや、大丈夫だ。俺様は決して殺されたりはしない。

 でも、さっきも、じかに急所に牙を()かれていたら危なかった。

 治癒魔法を使うまでもなく、負傷しない程度の力は欲しいのだ」


 聖女様を取り巻く男たちが、うろたえて騒ぎ始めた。


「あれほどお強いのに……」


「意外と小心者なのかな。異世界人というのは」


「でも、我々が生命を救ってもらったのも、(まご)う事なき事実。

 意外と防御力が弱いのかもしれん」


「あり得るな。攻撃に特化した魔力配分をしておるのかも」


「なるほど……」


 おいおい、陰口は相手に聞こえないようにするもんだよ、と注意してやりたいが……。

 そうか、彼らが声を(ひそ)めてささやきあってる会話を聞き取れること自体も、異世界転送の際に身につけた能力かもしれん。

「聴覚過敏」とか、そんなの。

 知らんけど。


 ーーなどと、俺が考え込んでいるとーー。


 聖女様が、意を決意したように、申し出てきた。


「では、私が持っている治癒ポーションを、譲らせていただきます」

 騎士のレオンが心配して、即座に口を挟んだ。


「聖女様、よろしいのですか?

 大切なポーションを……」


 ちなみに、聖女リネットが持っている治癒ポーションは、聖魔法が刻まれた特別製らしい。

 普通のポーションは、傷を負ったり体力を激しく消耗したりした後に飲んで、治癒・回復するもの。

 だが、このポーションには、特別な性能があった。

 事件が起きる前ーー深傷を負ったり、死に瀕したりする前に、あらかじめ飲んでおくと、治癒・回復の魔法効果が半日以上も継続する、という優れものなんだそうだ。


 ラッキー!

 これで安心して、危地に飛び込むこともできようってもんだ。


 俺は満面に笑みを(たた)えて、聖女様に念押しする。


「ほんとに(もら)っちゃっていいんだよな、このポーション。

 後で返せって言われても、あげないぞ」


「はい。勇者様のためです。私は勇者様を信じております」

 聖女リネットの顔は、明るく輝いていた。


 ありがたい。

 後ろで(ささや)き合ってるお仲間さんたちのように、俺様も聖女様を(おが)みたくなってきた。


 でも、今の俺は、勇者サマーー。

 誰が相手であろうと、両手を合わせて拝んだり、頭を下げるわけにはいかんのだ。


 俺は大きく息を吸い込んでから、言い放った。


「おう! まかせておけ。俺様は宇宙レベルで強い!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ