◆11 俺、わざわざ異世界から、こっちに来てるんだよね。大事な身体なんだ。
みなを代表するかのごとく、白い鎧の騎士は、胸に手を当て、マサムネに向かって頭を下げた。
「感謝します。異世界よりおいでになった勇者よ。
召喚儀式の結果がどうであったか気がかりでありましたが、間に合って、ほんとうに助かりました」
(ふむーー)
俺、勇者マサムネは満足した。
初めは、みなが聖女ばかりに感謝の念を表していて、少々不快に感じたものだが、さすがに育ちが良いのかな。
この騎士ーーイケメンなのに、礼儀を知っている。
誠意に満ちた態度に、好感が持てる。
「なに、礼には及ばぬ。
魔物を滅ぼすことなど、俺様にはどうってことはない。
宇宙レベルの力を持っているからね」
「宇宙レベル……?
ウチュウとは何のことかよくわかりませんがーーなにはともあれ、強大な力をお持ちで、なんとも頼もしい」
騎士のレオンが目を見張った。
周りの者たちも騎士に同調して、口々に声を上げ始めた。
「ウチュウレベルなんて……。聞いたことはないぞ」
「強い勇者様が、召喚できた。これで安心できる」
「聖女様の尊い祈りが、神様に届いたのだ」
「勇者様に感謝を捧げよう!」
生き残った人間たちが、ワアーワアーと歓声をあげ始めた。
互いの無事を喜びあって、泣きながら手を取り合っている。
(なんとか、勇者っぽい仕事をやり遂げた。
本当に良かった……)
少し肩の荷がおりた気分になった俺は、改めてぐるりと周囲を眺める。
文字通りの死屍累々(ししるいるい)ーー。
猪を巨大にしたような魔物が、何十頭も横たわっている。
炎の魔法で血溜まりは乾いているが、周囲はすっかり血の海だ。
さらに、焼け焦げた魔物の屍を眺めてみると、何人もの人間が下敷きになってるさまが見受けられた。
聖女さんや騎士さんたちの仲間なのだろう。
俺様が登場するまで、彼らが全滅しかけてたのは間違いなさそうだ。
(仕方ない。殺らなきゃ殺られる世界なんだしな。
人間も魔物も、その意味じゃ平等だ)
コッチの世界は、現代日本よりよほどワイルドで、露骨に弱肉強食がまかり通っている。
俺は、ボス魔物の焼け焦げた死体に目を遣る。
なかなか機敏な動きだった。
配下の魔物に左側を襲わせると同時に、反対の右側から攻撃を仕掛けてくるとは。
かなりの頭脳プレイである。
まあ、魔物化してなくとも、狼や野犬でも、この程度の頭脳プレイはするのかもしれんが。
(それにしても危なかった……)
俺は冷や汗を流し、生唾を呑み込む。
戦闘の最中は、恐怖耐性が発動してたからか、なんなく動いて戦えた。
が、戦闘が終了した今では、ちょっと怖い。
たしかに純粋な格闘技をする場合なら、今の俺様は無敵だ。
物理攻撃を受けただけなら、その際に生命を取られさえしなければ、損傷のすべてはナノマシンで修復できる。
だが、腕が喰いちぎられた瞬間、一瞬ではあったが、痺れるような激痛が走った。
ーーということは、ナノマシンが起動するまで、少し時間がかかるってわけだ。
牙を剥いた箇所が右腕じゃなく、ちょっとズレて心臓一撃だったら、お陀仏だった。
それに、魔法で攻撃を喰らった場合、ナノマシンでは役に立たない。
魔法による防御力や治癒力でカバーするしかできないから、ステータス表示に顕わされた数値を超えた損傷を受けたらヤバイはず。
俺は、こんな訳の分からない世界で死にたくはない。
どうせなら、完璧を期したい。
俺はさらなる能力向上を企図して、彼らに話しかけた。
俺自身が救ってやった連中にーー。
「レオンくん、リネットちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど。
いいかな? 聞いてくれるよね。
だって、俺様はキミたちの命の恩人だもの」
「はい、なんでしょう?」
リネットが好奇に満ちた目をして、俺の方を見た。
あとの連中は、彼女の後ろへと回る。
うん。
ホントーーお姫様と忠実なる家臣たちってかんじだ。
「俺、わざわざ異世界から、こっちに来てるんだよね。
大事な身体なんだ」
「はい。承知しております。
突然、お呼び立てして、申し訳ありませんでした。
さぞ、あちらの世界でも、みなさまから必要とされておいででしょう」
「ーーうん。そうなんだけどね……。
そう、俺様はどこの世界にあっても、とても大切な重要人物なんだ。
俺様は宇宙レベルの男だからな」
俺はまたもや胸を張って、ことさら堂々とした態度を取った。
他に虚勢の張り方すら知らないのだから、仕方ない。
だけど、それはあくまで表向きってヤツなのも相変わらずで、やはり内心、戦々恐々としていた。
だって、これからずいぶんムシが良いことを、現地の人相手にお願いしようとしているわけだから。
実際、こういった後ろ暗いところがある頼み事をするときほど、強圧的に出たほうがうまくいく場合が多い。
そんなかんじが経験上するから、尊大な振る舞いをしてるわけでもある。
よし、一気に、それでいてさりげなく切り出すぞーーと俺は意気込んで、両拳を強く握り締めた。
「ーーだからさ、悪いんだけど、君たち、俺に力貸してくんないかなぁ。
これから魔物に襲われたりしても、俺様が無傷で済むようにさ」




