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◆3 派遣バイト君は、チート気分を満喫中!

 今は異世界で、〈勇者マサムネ〉となった、派遣バイトの東堂正宗ーー。

 彼は、五十頭を超える魔物の群れを前にして、剣を構えた。


(ふん、獣のくせに、一丁前に集団行動しやがって。

 テメエらはモブらしく、おとなしく、勇者たる俺様に狩られまくってろよ、ったく!)


 魔物集団の動向をうかがえば、行く手を(さえぎ)られたばかりではない。

 気付けば、幌馬車隊はすっかり取り囲まれていた。


〈魔の森〉の魔物は、凶暴なだけではない。

 豊かな知性を有するのだ。

 魔物たちにとって、幌馬車隊ごと、〈人間〉は狩るべき獲物であった。


 当然、人間たちは息を飲み、身構える。

 幌馬車隊は進行を止め、護衛たちは身を震わせて(おび)えはじめた。

 自分たちの生命が、風前の灯だと感じて……。


 でも、今の俺様は人間ではない。

 ヒトを超えた存在ーー〈異世界から来た伝説の勇者〉なのだ!


 俺は真紅のマントをバサッと(ひるがえ)し、周囲を見渡した。


「ハアー。

 かなりの数を斬り捨てたつもりだったけど、これはまたずいぶんと多勢来たな……」


 周囲に集まる魔物集団に目を()ってから、俺は盛大に舌打ちする。

 これまで、〈魔の森〉に入って以来、無数の魔物を狩ってきた。

 それなのにーー。

 あれほど斬り続けたのに、いまだに懲りずに魔物たちが、俺様を付け狙ってくる。

 それが気に入らない。全く気に入らない。

 付け加えれば、後ろで身構える冒険者や商人たちが、泣きながら、おびえている。

 それも気に入らない。

 宇宙レベルの俺様の活躍を理解できないのかよ。

 もっと、俺様を信頼しろよ!


(なんだよ、魔物も人間どもも、生意気な。

 今までの俺様の活躍を見てなかったのか!?

 魔物のヤツら、知性があるんだったら、俺様に刃向かえば命取りだってことぐらい悟れよ。

 そして、人間どもーーなんだよ、その怯えた表情は。

 みんなして、魔物どもばかりに目を向けやがって。

 おまえらが目を向けるべき相手は、俺様ーー勇者マサムネ様一択だろうが!

 俺様相手に、尊敬の眼差しを向けるだけで充分だろうに。

 ちっ、俺様を信じろよ。

 無知蒙昧な貴様らが、本気で神様を信じるみたいにさ!)


 勇者マサムネは苛立ち、地面を何度も蹴りつけるのだった。


◇◇◇


 日本の東京本社にいながら、異世界を映し出すモニターを前にして、星野ひかりも、勇者マサムネ同様、何度も床を蹴りつけ、苛立(いらだ)ちを隠し切れないでいた。


 彼ーーバイト君の感情や思っていることが、ガンガンこちらに伝わってくる。

 本来、こちらに意図的に伝えようとする意思があってはじめて交信できるはずなのに、彼ーー東堂正宗くんの場合は、ほとんど思考がダダ漏れである。

 それだけ開けっぴろげな性格をしているわけで、おかげで監視しやすいとはいえる。

 でも、だからといって、彼が都合良く動いてくれるとは限らない。

 派遣バイト君自身が感じている感情や感覚が、ある程度、監視者に伝わる設定なのだが、監視者が彼を言いなりに操れるわけではない。

 あくまで現場で仕事に当たっているのは、バイト君本人なのだ。


(もう! 面倒くさい性格よね。

 もっと落ち着いたヒトなら良かったのに……)


 東堂正宗くんは、異世界派遣バイトをし始めたばかりでありながら、かなり自惚屋うぬぼれやで短気だった。

 だから、上司たる星野ひかりが、本社からモニターで監視しなければならなかったのだ。


「手のかかる人ね。自重させないと。

 今の彼を暴走させたら、あっちの世界が大変なことに……!」

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