表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!  作者: 大濠泉
閑話② 白鳥雛の体験:〈推しの王子様〉を捜す〈歌舞伎町の姫〉編
289/290

◆2 雛、歌舞伎町にハマる

 白鳥雛しらとりひなは、勤め先のガールズバーで、運命的な出逢いをした。

 イケメンでスタイリッシュなだけでなく、会話だけで自分を気持ち良くさせてくれて、おまけに金払いまで良い(なにせ、金塊払いだ!)、まさに〈理想的なオトコ〉であった。


 ところが、「またの再会を楽しみにしてるよ」という言葉を最後に、雛の「王子様」は突然、来店しなくなった。

 翌日、その翌日ーーさらには数週間、数ヶ月も経った。

 が、あの「王子様」は、二度と雛の前に姿を現さなかった。


 名前も知らない、自称「王子」は、雛にとって、忘れられない「お客様」となった。

 いや、「お客様」を超えた存在ーーまさに「片思いの相手」となっていた。


 それから、白鳥雛の「王子様捜し」が始まった。

 逢わなくなったからこそ、逆に雛の「王子様」への想いがつのっていった。

 あの「太客ふときゃく」である「王子様」との出逢いこそが運命だーー自分が博多から新宿歌舞伎町へとやって来たのも、すべて神様のお導きだったんだ! と固く信じ込んでしまった。


(ガチの運命なんだから、ぜってーまた「王子様」に会えるはず!

 したら、告白し(コクッ)てもらって、マジで結婚する!

 あの王子様ヒトと、この歌舞伎町で出逢ったってのにも、ぜってー意味があるに決まってる!

 再会を約束してくれたんだしぃ、ワタシ、マジでこの歌舞伎町でズッと待ってる。

 ヤバッ、ワタシ、マジで健気けなげじゃね!?

 大勢のオトコをあしらって大金を稼いで、つよつよな「姫」になってみせる!)


 巧くオトコをあしらえることが、どうして「王子様」に相応ふさわしい「姫」の条件になっているのか?

 それは、雛が身をひたした世界のゆがみから来ることだった。

 博多弁が抜け、変則的でちょっと古いギャル言葉(?)を多用するようになった頃には、すっかり雛は歌舞伎町に馴染なじんでいた。


 さらに、環境が、持ち前の夢見がちな性分を強化した。

 雛は、当然のようにスピリチャル系の思想にはまった。

「引き寄せの法則」「輪廻転生」「思いは実現する!」等々。


 さらにーー。


「〈王子〉といえば、ホストでしょ!」


 と唯一気が合ったバー仲間から、ホスト・クラブを紹介された。


「え〜〜。でも、ワタシ、〈王子様〉一筋だしぃ。

 マジで他のオトコなんか、らねぇし……」


 と抵抗したが、友達から、


「だからさ、ホスクラ遊びは彼氏カレシとは違うんだって。

 アンタもオトコに慣れとかないと、〈王子様〉と再会できても、無視シカトされるよ」


 と言われ、渋々、初回しょかいに付き合った。


 そしたらーー。


 雛はホスクラに、一発でハマッた。

 それも、ズブズブに。


 実際、雛は行く先々で、「王子様」について問うていた。

 シュッとしたイケメンで、スタイリッシュな着こなしをしていて、金塊ゴールドで決済する「王子様」を知らないか、と。


 すると、ホストや店長たちはみな、「知ってる」とか、「話に聞いたことがある」などと言って引っ張る。

 目撃談を詳しく聞こうとして、そのヒトを指名して足繁あししげく通っていたら、ホストからは決まって「俺をオトコにしてくれ!」と言われてしまう。

 彼女も同じ水商売で生きている者として、営業をきそわされるつらさはわかっている。

 ついついホストに同情してしまい、金を払い続けた。


 複数の店で「推しの王子ホスト」を作ってしまい、店長から、


「コイツをオトコにしてやってくれ。

〈狙い撃ち童貞〉を破らせてくれ」


 と懇願され、シャンパン・タワーを何度も建てた。


 でも、雛はめげない。


(ワタシ、ガチの〈ホスト狂い(ホス狂)〉)なんかじゃねーし。

 今度、あの「王子様」に会ったとき、恥ずかしくねーように、オンナみがきしてるだけ。

 王子に相応ふさわしい姫になれるよう、練習してるだけだしぃ……)


 と、雛自身は思っていた。


 でも、こんな日々を過ごしていたら、当然、お金はなくなる。

 資金繰りが厳しくなって、ガールズバーよりもキャバクラが本業になっていった。

 それでも、お金の自転車操業が無理になり、歌舞伎町から逃げなければヤバイほどになってしまった。


(この部屋にいるのも限界ね……)


 そう思っていたとき、またもスマホに父親の声がこだました。


「ホストにだまされてるんだ。いい加減、あんなクズどもの……」


「キショ!?

 マジで、なんで、ワタシのこと、知ってるわけぇ!?」


 電話番号も変えた。

 住まいも引っ越した。

 それなのに、雛の近況も、借金の額も、親に知り尽くされていた。


 雛は血の気が退いた。


「パパは、いつもおまえのことが心配で……」


 父親の声を無視して、雛はスマホを切った。

 再び、かかって来た電話番号を着信拒否にした。

 そして、考えた。


(ひょっとして、いつも愚痴を言ったりして話しかけている、このぬいぐるみ……)


 いつも一緒に寝ている、クマのぬいぐるみがあった。

 高校時代から愛用しているぬいぐるみだ。

 雛は意を決して、これをナイフで引き裂いた。

 そしたら、案の定、綿の中に盗聴器が見つかった。


(ガチで、ヤベェよ、コレ!?

 でも、盗聴器って、近くからじゃねーと声がひろえねーって、ドラマかなんかで……)


 雛は慌てて窓辺に立ち、外を見る。

 電柱の陰に見慣れぬ男の人がたたずんで、こちらを見ていた。

 京王線沿いの某駅間近の、こんなボロいアパートにまで貼り付いているのだ。


(マジかよ!?

 探偵かなにか、雇ってんの!?)


 引っ越さなきゃ。

 そう思った。

 そして、パパが心配だって言うんなら、もっと困らせてやれ、と決心した。


(そうだ、ワタシってば、天才じゃね!?

 ショウ君(最近、みついでるホスト)の所に転がり込めば良くね!?

 ふふふ……押しかけ女房ってのも悪くねーし。

 昭和テイストで、ショウ君、お気に入りだしぃ。

 こう見えてワタシ、まだ誰にも身体を許してないけど、ショウ君、ワタシのこと、「誰よりも愛してる」って言ってたしぃーー)


 当然、お客相手にホストは住所を隠している。

 だけど、雛は「ショウ君」がスマホを席に置き忘れたのを拾っていた。

 誕生日絡みの番号を打ち込んだら、開くことができて、住所と本名を見てしまった。

 まったく悪気なく、「スマホを返しに来た」という体裁で、お宅訪問ができる、と雛は無邪気に喜んだ。


 雛は、ルンルン気分(死語)で、ショウ君の住所のアパートに行った。

 そしたら、見知らぬ女が出て来た。

 雛よりも年嵩としかさがいった、雛には似ても似つかない容姿のデブなオンナだった。


「あんた、だれ?」


 彼女の後ろーー奥の部屋から、のっそりとショウ君が顔をのぞかせていた。

 彼に向かって、雛はうつむき加減ながらも、叫び声をあげた。


「……嘘ついてんじゃねーぞ、コラ!」


 雛はショウ君のスマホをオンナに向けて投げつけると、そのまま走り去った。

 雛のスマホに何度も電話が鳴ったが、無視シカトした。

 そして、思った。


(やっぱ、ワタシには〈運命の王子様〉しかいないんだーー!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ