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◆97 やはりヒナ様は、本物の聖女様だ!

 ワタシ、〈聖女ヒナ様〉の目の前で、奇蹟が起こった。


 魔族の特殊兵器である〈卵〉の中から、ピッケとロコの兄妹、そして龍に食われたはずのマオまでが無傷で発見された。

 でも、時間が経っても意識がなかったので、当然、死んだものとして(ひつぎ)(おさ)められ、今にも埋葬するばかりとなっていた。


 最後のお別れとして、ワタシは、子供たちの顔を涙ながらに見詰めていた。

 そんなときーー。

 なんと、ピッケとロコ、そしてマオが、みな、目を覚まして半身を起こしたのだ。

 死んだはずの子供たちが、いきなり生き返ったのである。


 自分が棺の中にいて、さらには大勢の大人たちに取り囲まれている状況を見てーーこれはおかしい、自分たちが死んだと思われて、(ほうむ)られようとしていたのではーーと、(さと)いピッケやマオは勘づいた。

 でも、いまだ幼いロコは、目の前で、大好きな〈ヒナ姉ちゃん〉が涙を(こぼ)していることに驚き、立ち上がって、しゃがんでいたワタシの頭を撫でた。


「泣いてる? だいじょうぶ?

 いたいの、いたいの、とんでけぇ」


 ワタシは涙を流すばかりで、驚きのあまり、硬直して動けなかった。

 代わりにパーカーさんやエマたちが、力いっぱい、子供たちに抱きついた。

 目を丸くする子供たちにお構いなく、大人たちは歓声を上げた。


「おお、まさに奇蹟だ!」


「死者が(よみがえ)るとは!」


「やはりヒナ様は、本物の聖女様だ!」


 龍に食べられたはずのマオが生きていた。


 おそらく、マオは聖魔法が込められた薬を飲み、クリームを塗っていてくれたからだろう。

 さらに、聖魔法が〈黄金の双頭龍〉の現象を無効化し、〈魔の霧〉の神経毒からも、子供たちを保護してくれたようだった。

 化粧と薬で聖魔法が子供たちの体内に宿っていたので、〈魔の霧〉を浄化したのだ。

 おかげで子供たちは発狂することはなかった。

 しかも、火傷の跡もすっかり消え失せていた。


 まさに奇蹟であった。


◇◇◇


 マオら、孤児たちが生き返ってから、三日後ーー。


 王都では、〈聖女ヒナ様〉の行なった奇蹟が喧伝され続けた。

 なにしろ、死者が生き返ったのだ。

 人々の話題にならぬはずがなかった。


 まさに、〈聖女ヒナ様〉は、歴代の聖女様の中でも、最大の秘蹟をなした〈大聖女様〉に祭り上げられた。


 と同時に、その〈大聖女様〉が、王家の度重なる無礼な振る舞いによって、すぐにも国から立ち去ることを、すべての王国民が知っていた。

 だからこそ、三日三晩、王国中で、飲めや歌えの大騒ぎとなった。


 そして、四日目の朝ーー。


 ワタシ、〈大聖女ヒナ様〉は、みなに別れを告げて、東京に帰ることにした。


 マオやピッケ、ロコたちまでもが、ワタシを崇拝して(おが)むばかりになってしまって、距離ができてしまったからだ。


 マオたちにしたら、当然の振る舞いであった。

 本来なら死んでいたところを、(よみがえ)らせていただいた。

 まさに神のみ技である。

 だから、本気で神様のように〈大聖女ヒナ様〉を崇拝した。


 ところが、それがワタシには残念で、納得がいかなかった。


「マジで、ヤバいから!

 ワタシはガチで〈大聖女様〉でも何でもないっつーの!

 実際、ワタシ、キセキなんか、狙って起こしちゃいないんだから。

 いいの? あなたたちは白い肌のままよ」


 何度か試みたが、マオたちには、緑化変容の魔法が出来なかった。

 もともと、そうした効果を意図して起こしたわけではなかったので、再現の仕方がわからなかったのだ。

 今度は下手したら、みなが白人や黒人、あるいは黄色人や他の肌の色になりかねないから、安易に魔法を試みる気にもなれなかった。


 ところが、ワタシの懸念をよそに、マオたちはサバサバとしていた。


「いえいえ、ぜんぜん構いませんよ。

 黒い肌の仲間も、みな、『この元の肌のままであることこそが、ヒナ様に(たす)けていただいた(あかし)だ』と喜んでいるくらいです」


 実際、白や黒の元の肌のままであることは、街中で目立った。

 同時に、奇蹟を起こしたヒナ様に〈選ばれた子供たち〉として、逆に、マオたちが、みなから(おが)まれるようになっていた。


 とにかく、〈大聖女ヒナ様〉の株は爆上がりになった。

 ワタシが作った化粧品や薬の価値も高騰し、今では天文学的値段になって、博物館などで収容されようとしている始末だ。


 このままでは、〈大聖女様〉であるワタシを担ぎ上げて、良からぬ企みをする勢力が出かねない。

〈大聖女ヒナ様〉が、政治的な思惑に巻き込まれる可能性が強くなる一方だった。

 結果、ワタシは迂闊(うかつ)に一歩も外に出られない状況になってしまった。


 そうしたワタシの様子を見て、マオは言ってくれた。


「ヒナ様のお力は、あまねく全世界で発揮されるべきです。

 ボクたちに()かれることなく、新たな世界へと旅立ってください。

 五十年前の聖女様のように」


 パーカーもエマさんも、ヒナにひざまずいている。

 見知った彼らすら、本気でヒナを神様に(まつ)りあげるつもりだ。


(ヤベェよ、ほんと。

 居づらいったら、ありゃしねー)


 ワタシは溜息をつくことが多くなった。


 そんなワタシを、マオは気遣(きづか)ってくれたのだ。

 相変わらず、優しい子だった。


 ワタシはみなとの別れを決心し、涙を()いた。


「わかったわ。

 みんな、元気でね。忘れない!」


 地面に魔法陣を描き、ワタシはその上に乗る。

 あとは魔力を込めたら、日本東京へと転移する。


 孤児たち、そしてパーカー、エマ兄妹が見守っていた。

〈大聖女ヒナ様〉が、もとの世界に戻ることは、みなもわかっていたので、子供たちもワタシ自身も、言葉少なになっていた。


 薬や化粧品などで売り上げた莫大な利益は、その大半を全国の孤児救済と、将来の聖魔術師育成のために使われるよう、パーカーさんたちに頼んである。

 思い残すことはない。

 

 だから最後に、ワタシは、わざと明るく、大きな声を出した。


「みんなー! きょうはありがとねー。

 またあえたら会おうね! バイバーイ」


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