◆7 勇者マサムネ、いきなり大ピンチ!?
俺、東堂正宗は、魔王を倒すべく、日本東京から、この異世界に派遣されてきた。
そして、〈勇者マサムネ〉として、初めて魔法を使うことにした。
〈雷撃〉という、カミナリ系の攻撃魔法であった。
「出でよ、雷撃ッ!」
俺様の掛け声に応じるがごとく、手の平が金色に輝く。
すると、シュシュシュシュという、空気を裂くような炸裂音がしたかと思うとーー。
いきなり、雷状にジグザグとした光線が、両方の手の平から発せられた。
まぶしい光に、反射的に目をつぶる。
と同時に、ゴオオオ! と轟音が響き渡った。
その瞬間ーー。
五、六頭もの化け物が、凄まじい勢いで吹っ飛んでいた。
「やべえ、なんて力だ!」
焼け焦げた化け物どもを目にして、思わず、声が出てしまった。
近くで固まっていた人間様一行に、危うく被害が出るところであった。
幸い、神官らしき格好をした綺麗な女の子は、間一髪で避けてくれたようだ。
正直、危なかった。
俺は人間たちに向かって、大声で叫んだ。
「こら、おまえら。
危ないぞ、距離を取れ!」
俺様に怒鳴られて、人々がようやく俺の姿を目に止めたようだ。
次いで、仲間同士でささやき合う。
幸い、俺の言葉がわかるみたいだ。
さすが、万能設定。
言葉が通じなかったらどうしよう、と思っていたところだ。
でも、彼ら現地人たちの反応は、芳しいものではなかった。
洩れ聞こえてきた言葉が伝わってくる。
「そんな……」
「距離を取れっていっても……」
みな、青い顔をして、戸惑っているばかりだった。
たしかに。
よく見たら、そうだよな。
魔物に周囲を取り囲まれてる最中だもんな。
距離の取りようがない……。
と思ってたら、いっせいに魔物たちが、俺の方に駆け寄ってきた。
人間様一行の向こう側にいた連中までが、ついさっきまで狙っていた獲物を無視して、一目散に俺の方に駆け寄せてきたのだ。
地鳴りが響きわたる。
魔物どもの迫力が凄い。
(おお、兵力分散の愚を犯さぬとは。
結構、統率が執れてんな、魔物ら!)
魔物の能力に、感心しきりである。
ヤツらの角が、青やら黄色やらに光りながら、明滅している。
アレで指示を出し合ってるんだろうか。
知性があるんだな。魔物ってのは。
だから、人間が追い込まれているわけか。
だが……。
俺は全速力で走った。
そして、魔物の間を摺り抜けていく。
魔物にしてみれば、いっせいに襲いかかってきたつもりなんだろう。
だが、いかんせん、俺、〈勇者マサムネ〉の動きの方が速い。
魔物どもが集まってくるのを逆手に取って、彼らの隙間を縫うようにして動き回った。
そして、ヤツらの急所であるはずの首筋に、雷撃を発射し続けた。
至近距離だ。
おかげで、わずかなエネルギーだけで、仕留めることができる。
雷撃だからといって、無理にエネルギーを強くして、焼き焦げにする必要もない。
光線を塊にするような感覚で、俺は手の平から弾丸を撃ち込むようにして、一頭、一頭、攻撃していく。
俺が魔物とすれ違うたびに、血飛沫があがる。
緑の血だ。
(なんだか、汚いかんじだな。やっぱ、血は赤くないと……)
ーーなどと、マントの汚れなんぞを気にしたことが、油断だった。
ガッ!
鈍い音がしたと思ったら、赤い血飛沫があがる。
(なんだ!? いきなり、人間の血みたいじゃないか?)
ふと左手を見たら、なんと、俺の右腕がもげていた。
肘のあたりからザックリと、肉が食いちぎられ、骨が露出していたのである。




