◆87 アンタのためになんか、シャンパン・コールはしてあげないんだから!
ようやく、ワタシ、〈黄色い聖女様〉こと白鳥雛のターンになった。
ワタシは、〈白い聖女様〉と称された金髪美少女を指さして指摘した。
この場にいた緑貴族たちですら、良識ある者は感じていた疑念を、ついに口にしたのだ。
「さすがに、わかったわ。
アンタ、じつは人間じゃなくね!?
その反応、おかしいよ!
アンタこそ、聖女どころか、魔女なんじゃねぇの、マジで!」
王様をはじめ、居並ぶ王国貴族たちが、身じろぎもせず息を呑む。
それでも金髪の女の子は、悠然と振る舞う。
ドビエス王子に視線を送り、顎をワタシの方へとしゃくった。
「このオンナ、今とっても、ひどいこと言ったわ。
私を侮辱した。
許せない。
今すぐ、この黄色いオンナを処刑して。
王子だったらできるでしょ。早く!」
ドビエス王子はヨロヨロとよろめきながらも、〈白い聖女様〉の許に身を寄せていた。
王子は、ワタシに魔力で壁まで吹っ飛ばされたが、力を振り絞って戻って来たのだ。
だが、もちろん、ワタシは王子が口を出す隙を与えるつもりはない。
王子と〈白い聖女様〉、二人を指さして糾弾を続けた。
「ヤベェよ、ホント。
マジでアンタ、可愛らしい天使のような顔して、心は悪魔じみてね!?
あの〈卵〉とか〈双頭の龍〉とか、みんなアンタのお仲間なんでしょ!?」
ついで、怒りを滾らせ、イッパツ、演説をぶちかましてやった。
「ーーハン、あの馬鹿な、頭が二つあるマヌケな龍?
マジで情けねーでやんの。
図体がでけーのに、ちっちゃい翼しかなくってさぁ。
なかなか飛べねーでやんの。
あっさりとワタシの聖魔法でやられちゃって、ざまあみろだ!
いいよ。何度でもいいからさぁ、復活させればぁ?
そのたんびに、ワタシが殺してやっから。
なぁにが〈魔の霧〉だよ、マジで。
ワタシが吸っても、どーってことなかったしぃ?
あんな程度で、ホンモノの聖女様であるワタシに立ち向かおうだなんて、魔族もよほどヤキが回ってね!?
やっぱ、魔族なんて、ホントは人間よりも弱っちいんじゃねーの?」
ワタシの演説が、功を奏したらしい。
可愛らしい少女の表情が醜く歪み、白い頬がサッと赤くなった。
「ば、馬鹿をいうな!
魔族は、か弱い人間どもとは違いーー」
「そうかしらぁ?
だったら、なんで〈魔の霧〉なんか撒いて、人間同士を争わせるわけ?
ホンネいっちゃえば、魔族本人が戦うんじゃ、返り討ちにあっちゃうからなんでしょ?
だいたい、戦争も人間同士でやってるだけで、魔族はちっとも表に出てこねーじゃん?
裏でコソコソしてるだけでさぁ。
ほんと、魔族ってヤツら、ガチの臆病者なんだから。
そのくせ、人間様を下等呼ばわりって、なに?
逆に、劣等感ありまくりってヤツじゃね!?
ふふふ……。ウケるーー!」
ワタシは甲高い声をあげて、笑い転げた。
手をたたき、お腹をよじらせて、〈白い聖女様〉を指差して笑った。
金髪の少女は顔を真っ赤にして、全身を震わせた。
「聖女だからって、図に乗るなよ、人間風情が!」
憎しみと怒りの形相で、少女はワタシを睨みつける。
「カレン、いったい、どうしたんだ。
いつもの貴女らしくないよ」
ドビエス王子が、慌てて〈白い聖女様〉に近寄った。
この流れはマズイ、と王子は感じていた。
いくら鈍すぎる彼ですら、さすがに察し始めていた。
カレン・ホワイトという、自分が〈聖女様〉と認定してしまった女性の正体に。
それは国王や教皇をはじめ、居並ぶ貴族連中の誰もが、気付かされつつあることだった。
「うるさい!
黙ってろ、下等生物が!」
カレンは、一喝した。
ドビエス王子は、瞬時におとなしくなる。
カレンを見詰めると、もう何も言えない。
息すらできなくなってしまう。
だから、王子は怒りの矛先を変えた。
カレン(カノジョ)が不機嫌になった元凶に、怒りを向ける。
王子は涙目になって、ワタシを睨みつけた。
「おまえのせいだ!
愛らしくて、天使のようなカレンを変えてしまった。
おまえが悪いんだ!
おまえさえいなければ、良かったのに。
〈聖女様〉は、ひとりで十分だったんだ!」
ドビエス王子は、床に膝をつき、頭を抱えて泣き崩れた。
彼は、〈愛しのカレン〉が壊れていくことが、耐えられなかった。
王宮の〈謁見の間〉は、今や混沌とした様相を呈していた。
その只中にあって、ワタシ、〈黄色い聖女様〉は笑う。
「どうよ、パッキンのお嬢さん。焦ってきた?
ワタシ、今回の派遣じゃあ〈魅了〉は使わないって決めてたの。マジで。
でも、他人が使う〈魅了〉を無効化することぐらい、簡単に出来るわよ」
全身から光を放つ。
あっという間に、〈謁見の間〉の全体が、青白く輝く。
聖魔法の魔力に満たされたのだ。
その瞬間、国王や教皇をはじめ、すべての人々の両眼が見開かれ、文字通り「目が覚めた思い」を感じていた。
「ま、まさかーーわれら全員が、魔法をかけられていたというのか?」
「名だたる王国の重鎮が、揃いも揃って……」
だが、ドビエス王子の眼は、まだ覚めていない。
〈白い聖女〉の傍らにあって、ヒナを睨みつける。
「やめろ、俺様の夢を壊すなーー!」
王子は手を広げて、自分の魔力を発動させた。
黒い魔法の波が、ワタシに向けて、押し寄せてくる。
さすがに王子。
かなりの魔力を秘めていた。
ワタシの身体が、ちょっと重くなったように感じた。
でも、怒りに身を任せた〈黄色い聖女様〉の敵ではなかった。
「ったく、ウザってーオトコね!
アンタは実際に王子のようだけど、悪いけど、ワタシにとっては〈王子様〉じゃない!」
ワタシは叫んだ。
「アンタのためになんか、シャンパン・コールはしてあげないんだから!」




