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◆85 聖女同士の対決

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、本来、〈救世の聖女様〉として、異世界のパールン王国へ派遣された。

 ところが、現地での聖女召喚儀式において、可愛らしい金髪美少女のカレン・ホワイトとバッティングしてしまい、挙句、黄色い肌を気持ち悪がられ、ワタシは王宮外へと追い出されてしまった。

 さらに、孤児院から発生した〈魔の霧〉を放つ〈双頭の龍〉を討伐した功績で、晴れて王様から聖女認定を受けたにもかかわらず、今度は新たに王子と〈白い聖女様〉から〈魔女〉呼ばわりされてしまった。

 さらには、


「この〈黄色いオンナ〉が孤児院に執着(しゅうちゃく)していたのは、地下で〈魔の卵〉を育てていたからですわ!」


 と、濡れ衣すらかけられてしまった。

〈白い聖女様〉こと、カレン・ホワイトは、少女の見た目に相応(ふさわ)しく、たどたどしい口調ながらも、良く響く声で演説を続けた。


「じつは私、王様から聖女認定を受けましてから、生前のライリー神父様と懇意にさせていただきました。

 何度か、お茶を頂きました折に、神父様はよく嘆息しておられました。

『あのヒナなる黄色い女は、私共に迷惑ばかりかける。

 痩せ細った孤児を道端で拾って来ては、子供らと(たわむ)れるフリをして、地下に(もぐ)り込む』とーー」


「嘘よ!」


 間髪入(かんぱつい)れず、ワタシは叫んだ。


 完全なる濡れ衣だ。

 孤児院の地下に、あれほど広い空間が広がっていたとは、ワタシはまるで知らなかった。

 ライリー神父がピッケたちを〈卵〉の生贄(いけにえ)にしようとするのを、ナノマシンで観なければ、ワタシにはまったく(うかが)い知ることはできなかった。


 金髪の美少女は、明らかに虚偽の証言をしていた。

 だが、ワタシは真実を知っている。


「なに、それ? マジ、ウケるんですけど!?

 それ、真実と違うから!

 ライリー神父こそ、魔族の礼賛者だったんだかんね!」


 ワタシは胸を張って、王子派連中の圧を跳ね返す。


 だが、今度は別方向から、新たに怒声があがった。

 王子とは反対側、王の左隣に立っていた老人が突然、激昂(げっこう)したのだ。


世迷言(よまいごと)を。我がダレイモス教の聖職者を愚弄(ぐろう)するかッ!

 ライリー司教が、そのような背教者であるはずがない!」


 顔を真っ赤にして白い顎鬚を震わせたのは、教会の教皇だった。

 老人はワタシを睨み付け、宙に三角形を描き、喉を震わせる。


「王よ。改めて言わせていただきますぞ。

 教会としても、このような女を〈聖女様〉とは認められませんわい。

 ライリーから耳にしておりました。

 この黄色い変態女は、孤児院にいた、マオとかいう白人少年にいたく執心しておったとか。異常ではありますまいか!?」


 ざわざわーー。


 王子派のみならず、反王子派の騎士や貴族たちですら動揺して後退(あとずさ)り、互いに顔を見合わせる。


「孤児院少年というとーー白人のガキか?」


 ドビエス王子が怪訝(けげん)な表情で教皇に(たず)ね、次いでヒナの方に目を()った。

 ワタシは悪びれることなく、堂々と胸を張る。


「ええ。

 ガチで白い肌をした、イケメンの男の子ですが、それがなにか?

 彼はマオという名前でね、マジで可愛くーー立派な男の子でした。

 大人顔負けの、つよつよメンタルしてたんだから!

 ワタシが可愛がって当たり前じゃね!?

 それで、なにか、アンタたちに迷惑かけたわけ!?」


 そこまで口にすると、ワタシの目から涙がこぼれた。

 今日は、泣かないと決めたのに。

 決めたことが守れない。

 でも、マオのことを絶賛しないではいられなかった。


「彼こそ英雄ーーワタシの王子様でした。

 自ら犠牲になり、子供たちの生命を助けて、亡くなったんだから!

 見かけはおとなしくて、優しそうな子だったのに。

 マジで、どこから、そんな勇気が出てきたのか……」


 涙を溢れ出しながらも、ワタシは大声で訴えた。

 が、周囲に居並ぶ、緑の肌をした男どもは、誰一人、反応しない。

 ただ、カレンと呼ばれる白い金髪美少女だけが、足を踏み鳴らし、金切り声をあげた。


「だ・か・ら、その態度を改めなさい、と申し上げているのです!」


 ワタシも負けずに拳を握り締め、語気を(あらら)げた。


「勇敢なマオを侮辱するのは、誰であろうと、マジで許せない!」


 白い女の子と、黄色い肌をした女性が、互いに至近距離で睨み合う。

 二人とも表面的には笑顔を貼り付けていたが、こめかみにヒクヒクと血管が脈打っていた。


「そもそもだけどさぁ、マジで、アンタ、なんでマオを侮辱するわけ?

 アンタも同じ白人じゃね!?

 今までも、緑や黒いのに舐められてきたんじゃねえの?

 腹を立てる相手、間違ってね!?」


 ワタシの問いかけに、白い少女はつんのめる姿勢になった。


「私の肌の色が白いからって、人間と同じと思われたら心外だわ。

 カレン・ホワイトという名と同じく、仮初(かりそめ)のものよ!」


 奇妙な発言だった。

 カレンの後に立つドビエス王子も、キョトンとしている。

 居並ぶ王子派の貴族や騎士も同様だ。


〈白い聖女様〉である金髪の美少女は、王子相手にすら「カレン・ホワイト」と名乗っていた。

 誰もが当然、本名だと思っていた。

 ところが、その名前が『仮初のもの』だという。


 そもそも、なぜ王子相手に仮名を使っているのか。

 それに『人間と同じと思われたら心外だ』というのはーー。

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