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◆84 ざけんな! 誰がアンタたちなんかのために、生命を張って戦うもんか!

 いきなりの弾劾(だんがい)であった。

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、聖女と認められずに王宮を追い出された身でありながら、〈魔の霧〉を発する〈双頭の龍〉を討伐した。

 ワタシの代わりに〈聖女様〉と認められた金髪の美少女が、王子様とイチャイチャしたり、隣国への戦争をけしかけたりと、ロクでもないことしかしていない(あいだ)に、である。

 だからこそ、王様も非礼を()びて、ワタシを今更ながら聖女認定したのだろう。

 だが、そうした王の路線変更が許せないようで、息子のドビエス王子は、〈白い聖女様〉の手を握ったまま、ワタシを魔族呼ばわりし始めた。


「父上、やはり、こやつは聖女とは思えません。

 黄色い肌の聖女なぞ、聞いたことがない。

 そればかりか、今までの行状を見るに、むしろ魔族の使いに違いありません!」と。


 でも、さすがに、息子の頑なな態度に閉口したのだろう。

 玉座に深くもたれかけたままで、王様は溜息をついた。


「なにを言う。

 そちらのカレンとやらは聖魔法が使えなかったではないか。

 それでも、聡明なことを良しとして婚姻を許すのだぞ」


 王にとって、王子と白人の女の子の婚約を許すこと自体、とんでもない決断だった。

 人種差別が濃厚なこの王国において、白人と緑人が結婚するのはよくよくのこと。

 しかも、それが次代の王位を継ぐ者となると、ほとんど革命的な事態といえた。


 もちろん、ダマラス王には算段があった。


 これから隣国との戦争が激化すれば、大勢の白人を兵士として戦場に投入することになるだろう。

 先陣に立つ白人兵の犠牲なくしては、戦いを維持できない。

 だったら、これからも白人たちの戦意を向上させる起爆剤が欲しいーー。

 そのための、〈白い聖女様〉と王子の婚約であった。

 当然、婚姻まで進めたら、門閥貴族である緑人たちの強い反発に遭うだろう。

 でも、構わない。

 白人の女の子を王族に迎え入れるというジェスチャーに意味があるのだ。

〈聖女様〉として遇した女の子ゆえ、白人といっても、王子と婚約するためのハードルは低い。

 あまりにも反発が強いようなら、カレンを第二夫人として、正室は門閥貴族家から迎えれば良い。


 ダマラス王は、なかなかに現実的な政治家だった。

〈白い聖女様〉と王子の働きかけによって、隣国との和平交渉をするにあたっての条件として、〈黄色い聖女様〉の処刑が取り沙汰されているのも承知していた。

 でも、王は龍退治の実績も鑑みて、せっかく異世界から呼び寄せた聖女を処刑する気など毛頭ない。

 本音を言えば、ダマラス王は隣国との講和を結ぶつもりはなかった。

 そもそも、現政権が続く限り、隣国と永続的な講和を結べるとはまったく思っていなかったのである。


 隣国の特攻部隊が王都に貼り付いたままの現状では、しばらく戦況は隣国に有利に展開しよう。

 それでも、いずれは聖女によって〈魔の霧〉が(はら)われ、さらには〈白い聖女〉カレンの提言に従って、〈魔の霧〉の軍事利用がかなえば、隣国を打ちまかし、併呑(へいどん)することすら可能だと、王は思っていた。

 あとは戦争を継続する国力ーー経済力と兵力の維持が課題だった。

 そのための白人の兵力活用であり、そうしやすい環境を整えるための、王子とカレンの婚約であった。

 将来的に〈初の白人王妃〉が誕生するに違いないと思わせられれば、白人層からの熱い支持が得られるに違いない、と王は踏んでいた。


 実際、王子派閥を取り込んだ、今現在の王宮内における〈白い聖女様〉を(した)う勢力を考えれば、カレンが正室となるのも夢ではない。

 そうなれば、おのずと臣民たちの間でも、差別意識が緩和するはず……。


 ーーそう、ダマラスは政治屋と呼べるほど、政治的な手練手管に長けた王様であった。

 だが、今回の策謀は、あまりに憶測に憶測を重ねた未来図を描いていた。

 ダマラス王は自分が考案した政治的〈名案〉に酔っていたのである。


「なに、それ!? ざけんな!」


 そう叫んだのは、ようやく〈真の聖女様〉と公的に認められたばかりの、ワタシ、〈黄色い聖女ヒナ様〉であった。

 ワタシは前に進み出て、王子と白い女の子の二人組(ペア)に向けて指を差す。


「そっちの聖女様が王子とよろしくやってるってのに、ワタシは最前線に出て、龍やら魔族なんかと戦い続けろっての!? 

 バッカじゃね!?

 ふざけんのも、たいがいにしな!」


 王や居並ぶ群臣たちは驚く。

 ダマラス王をはじめ、誰もが〈魔の霧〉を祓い、魔族を退散させるのは〈聖女様の使命〉と思っていた。

 だから、〈聖女様〉自身が、『自分ばかりが、龍や魔族と戦うのは不公平!』と訴え出したら、いきなり発狂したようにしかみえない。


 ざわざわ……。


〈謁見の間〉に、ざわめきが広がっていく。


 前に目を()ると、あの金髪美少女が、王子の傍らで、勝ち誇るように口許を(ほころ)ばせていた。

 ワタシはその表情を目敏(めざと)く見つけて、チッと舌打ちした。


(したら、〈聖女様〉をやるなんて、単なる罰ゲームじゃね!?)


 今までの冷遇を想い出し、はらわたが煮えくりかえってきた。

 だから、思わず大声で叫んでしまった。


「ざけんな!

 誰がアンタたちなんかのために、生命を張って戦うもんか!」


 王が認めた〈真の聖女様〉が、怒気を放つ。

 あまりの想定外の事態に、重い沈黙が〈謁見の間〉を支配する。


 しばしの静寂の後、甲高い声が響き渡る。

 発言の主は、〈白い聖女様〉こと、カレン・ホワイトであった。


「王様に申し上げます。

 いくら、聖女様だからといって、霧を(はら)うのがせいぜい。

 (ドラゴン)を追い払うことなど、人間には無理だと思います」


 王子も同調する。


「その通りです。

〈魔の霧〉が発生した孤児院に、その黄色い女は、足繁(あししげ)(かよ)っておったそうです。

 しかも、我が配下の騎士団長によれば、現地に到着した際、この女は怪しげな魔法を発動させていたそうです。

 そして、龍は消し去ったものの、ライリーなる神父が〈魔の卵〉に吸い込まれるのを見過ごした、とのこと」


「だとしたら、なんだというのじゃ?」


 王の問いかけに、王子は胸を張って答えた。


「はい。そこにいるヒナなる貧相な女は、聖女様などでは断じてございますまい。

 じつは、〈魔の霧〉を生み出す〈双頭の龍〉や〈魔の卵〉を自在に操る者ーーつまりは〈魔族の女〉ではないかと」


「なんじゃと!?

〈偽の聖女〉どころか、〈魔族の女〉であると、其方(そなた)は申すのか!」


 ダマラス王は、色をなして玉座から半身を浮かす。

 すでに王が「聖女認定」した女性を、否定するどころか、〈魔族〉呼ばわりをしたのだ。

 いくら、息子とはいえ、許される事態ではなかった。


 だが、玉座の隣にいる教皇も成り行きを見守るばかり。

 他の貴族たちも同様であった。


 周囲の様子を見渡して、ドビエス王子は調子づいた。

 ワタシに向けて指をさして叫んだ。


「王よ。今一度、そこにあるオンナをよくご覧ください。

 緑や黒ではなく、白ですらない、怪しい黄色い肌を。

 魔族ならではの、翼や尻尾が似合いそうな肌色を!」


 そうだ、そうだと、王子派の若い騎士や貴族たちが(はや)し立てる。

 王様を前にした〈謁見の間〉が、議会のように荒れた雰囲気となった。


 ハリエットら、反王子派の騎士や貴族たちは、


「いや、魔族だというのなら、肌の色はむしろ……」


 など反論を試みるが、王子派の野次で声が()き消されていく。


 多数派のお追唱(ついしょう)をバックにして、王子が宣言する。


「私、ドビエスは、むしろ、この〈黄色い女〉を断罪します。

〈魔の霧〉を発生させた犯人として!」


 白い肌をした可愛らしい女の子も、王子の意見に同調する。

 王子と同じようにワタシに指をさして弾劾を始めた。


「そうです。

 たしかに、このオンナは〈魔族〉ではないかもしれません。

 しかし、最低でも、魔族に使役される人間の女ーーつまりは〈魔女〉なのではないかと推察いたします。

 そのほうが辻褄(つじつま)があいます。

〈卵〉を潰さなかったのが、なによりの証拠ではありませんか!」


 それまで〈白い聖女様〉こと、カレン・ホワイトは、人目も(はばか)らず王子の身体に腕を(から)めてしなだれかかっていた。

 でも今では、ここぞとばかりに、ワタシの目の前に進み出て、断言した。


「この〈黄色いオンナ〉が孤児院に執着(しゅうちゃく)していたのは、地下で〈魔の卵〉を育てていたからですわ!」


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