◆6 勇者マサムネ、初戦闘!
俺、東堂正宗が、周囲をザッと見渡せばーー。
三、四十を数える人間の身体が、地面に散乱していた。
しかも、腕や脚、胴、首がちぎれた状態でーー。
辺り一面に嫌な匂いが充満し、小さな羽虫が飛び回っていた。
(うわあ…こりゃ、ひでえな……)
一面、血の海ーー。
その赤い海の向こうに、いまだ立っている人間たちの姿があった。
武装した三十人ほどの男女が、円形陣を組んでいた。
みな、銀色に輝く鎧や、青色のー胴衣をまとった、立派な姿をしている。
だが、すでに剣は折れ、弓矢の弦はちぎれ、革製の脛当ては傷だらけ。
今にも、血溜まりに沈む死体の仲間入りをしかねない有様であった。
誰もが肩で息をして、憔悴している。
唇を震わせ、悲鳴をあげている者もいた。
なぜ、人々が怯えて固まっているのか?
それは、猪型の魔物によって、彼らが完全に取り囲まれていたからであった。
化け物は、全部で五十頭はいるようだ。
さすがは魔物である。
猪というにはあまりに巨大で、筋骨隆々だ。
それぞれの額に一本、角が生えている。
眼は血走っていて、鋭く尖った牙は、唾液と血液とで濡れていた。
ヤツらが、いままで散々、人間を食い散らかしてきたことが一目瞭然だ。
風がサーッと吹くたびに、血の匂いが混じった空気が拡散する。
そんな殺人動物が群れとなって集まっている、超危険な場所ーー。
そのすぐ外側で、単体でポツンと顔を出したのが〈勇者〉役の俺様ーー東堂正宗ってわけだ。
つまり、〈勇者マサムネ〉が、鬱蒼とした茂みを抜けたら、いきなり魔物に包囲された人間パーティーに出喰わしたのである。
彼らーー生き残った人間たちは、すっかり取り乱していた。
恐怖のあまり、大声をあげている。
「くそぅ、なんて数だ!」
「かなり危険だぞ!」
「大丈夫だ、みんな冷静になれ!」
「こんなところで死にたくない……」
人間たちは気力を振り絞り、絶体絶命の危機を脱しようとしている。
だが、身体は防具ごとボロボロ、手にする武器もワナワナと震えている。
その一方で、取り囲んでいる化け物たちは威勢が良い。
総出で唸り声を発して、威嚇してくる。
化け物どもが咆哮したり、蠢くだけで、土埃が舞い上がる。
(さすがに〈魔物〉というだけあって、迫力あるな……)
じかに〈魔物〉を見るのは初めてだ。
好奇心が湧き起こる。
凄惨な場面に出喰わしたのに、妙に落ち着いていた。
味方であるはずの人間たちよりも、敵勢の観察が優先していた。
(令和の東京暮らしの俺様にとっちゃあ、こんな図体のデカい動物は動物園でしかお目にかかったことはない。
しかも、動物園の奴らは、ライオンだろうとトラだろうと、すっかり人間に飼い慣らされたヤツらで、寝そべってばかりいた。
それがどうだ。
今、目の前にいるコイツらは、牙を剥き出しにして、涎なんか垂れ流して、さすがは魔物ーーん?)
猪だか熊だかわかんないが、何十頭もの魔物の眼が、赤く光ってる。
しかも、取り分け図体のデカイやつの角が、青く輝き始めた……。
悪い予感がした。
(なんだよ、カミナリでも繰り出すのかよ、もしかして!?
だとしたら、いかんなーーここは先手必勝!)
俺は両手を前に突き出し、力一杯、念じて叫んだ。
「出でよ、雷撃ッ!」




