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◆78 マジで、なんなのよ!? 戦争なんか、軍人さん同士で勝手にさせとけばいいじゃなかと!?

 ワタシ、〈黄色い聖女ヒナ様〉は、自分を(した)う大勢の人々の存在を、重荷に感じていた。


 ハッキリいって、〈真なる聖女様〉のお役目は、〈歌舞伎町の姫〉である白鳥雛しらとりひなには重すぎたのだ。


「死者を呪いから解放してくれ」「神に祈りを捧げて、奇蹟を起こしてくれ」と願われても、何をどうしたら良いのかわからない。

 だから、みなが信仰する宗教の司祭であるライリー神父に、戦災者である信徒の求めを丸投げしようと決めた。


〈真なる聖女様〉としては、なんとも都合の良い、身勝手な考え方なのはわかってる。

 でも、ワタシには他に打つ手はなさそうだった。


 そう思い切ると、いくぶん、機嫌は持ち直した。


〈真なる聖女様〉を信奉する人々の列をゾロゾロと引き連れて、しばらくすると、小さな森を抜けて、教会に辿(たど)り着いた。


 さっそく、ワタシはライリー神父の姿を探し求めて、方々を探す。

 が、見つからない。


 やはり、どこかへ行ったままで、まだ教会には戻っていないらしい。

 仕方ない。

 みなが待ってる。

 トボトボと庭へと歩く。


 教会の庭は、ピッケとロコと遊んだ、想い出の場所だった。

 今では、何人もの老若男女の死体が並べられていた。


 無惨にみな、傷だらけで、血塗(ちまみ)れだった。

 黒い霧を吸い込んだため、家族や恋人、友人同士で殺し合った結果の(むくろ)だった。

 

 狂って加害者となった者も、いきなり知人に襲われただけの被害者も、おしなべて怒りや驚愕の表情を浮かべたまま、遺体となっていた。


〈聖女ヒナ様〉がここで何か(おお)せになると期待して、人々はひざまずき、待ち構えている。

 が、ワタシには口に出来る言葉がなかった。


 やがて、南方の壁の向こうから、ヒュオオオオオオと風を切る音が、聴こえてきた。

 そして、大きな影が、黒雲の合間に(のぞ)く陽光を(さえぎ)る。


 またもや、大量の砲丸ーー大石や大岩が、敵軍の投石機によって投げつけられたのだ。

 ビリビリと地響きがする。

 死体を前に、厳粛な顔つきをしていた人々にも、焦りが見られた。

 それも当然だ。

 何発もの砲丸が、またもや壁や建物を砕いているのだから。


 ワタシは視線を上げ、上空を飛来する石や矢に向かって叫んだ。

 我慢できなかった。

 死を(いた)む時間もないだなんて!


「もう!

 マジで、なんなのよ!?

 戦争なんか、軍人さん同士で勝手にさせとけばいいじゃなかと!?

 いえーーそうじゃない。

 そもそも〈魔の霧〉が出るって、予言で知ってたんでしょ?

 だったら人間同士で争ってる場合じゃないっしょ?

 そーよ。

 敵も、どーして孤児院なんか襲ったわけ!?」


 まるでワタシの叫びを合図にしたかのように、砲撃が止む。

 みなが驚きとともに両手を合わせ、首を垂れる。

 しばらく、沈黙が支配する。

 

 そのとき、ワタシの頭に映像が送られてきた。

 自分で疑問を叫んだら、それに答えるかのような映像だった。


 それは録画映像であった。

 自分が寝ていた間、ナノマシンが撮ってきた敵陣の映像だった。


 ワタシは見た。

 そして、知った。

 敵が必死になって、〈魔の霧〉の発生源を叩こうとしていたことを。


 笠みたいな兜を被った、古代中華風なデザインをした軍服をまとった黒人ばかりの将兵ーー。

 彼らは必死に塹壕(ざんごう)を掘ったり、投石機を移動させていた。

 彼らは〈魔の霧〉を防ごうと、このパールン王国の首都にまで特攻してきた部隊であった。


 将帥(しょうすい)らしい中年黒人も、


「なんとか〈魔の霧〉の発生を防ぐのだ!」


 と大声で叫んでいた。


 敵の砲撃が狙う先はーー王城ではなかった。

〈魔の霧〉が発生する場所だった。

 そして、彼らが砲丸の雨を降らせたのは孤児院だったーー。


 どうしてかは、わからない。

 でも、隣国軍は予測していたらしい。

 孤児院の地下から龍が出て来て、〈魔の霧〉をぶちまけることを。


(だから、孤児院に攻撃を仕掛けてきたと!?)


 ワタシは驚いて、両目を見開く。


 とはいえ、疑問は尽きない。


 (そもそも、どーして孤児院の地下から、あんな化け物がーー?)


 そうワタシが思ったとたんーー。

 新たな映像が、ワタシの脳内に送られてきた。

 今度は録画ではない。

 今現在のライブ映像だ。


(こーなったら、信じるしかない。

 ワタシの思いに、ナノマシンたちが(こた)えてくれてるんだわ!)


 興奮するワタシの脳裡(のうり)に、映像が浮かぶ。


 映像に映っているのは、いまや廃墟となった孤児院だ。

 皮肉なことに、ワタシたちがもともと居た場所のすぐ近くだった。

 教会への道の反対側に進めば、すぐに着いた場所ーー。


 その瓦礫(ガレキ)の中にたたずむ、意外な人物の姿があった。


(え? 神父様ーー?)


 映像には、ライリー神父の不審(ふしん)な動きが映し出されていた。


 ライリー神父は、嫌がる子供たちの腕を力づくで引っ張っていた。

 向かう先は、今は瓦礫となった孤児院の地下……。

 龍が発生した場所ーー。


 その地下から、新たに黒い霧が濃厚に立ち込めているさまが見えた。


(マジで、なんなのよ、いったいーー?)


 嫌な予感がする。

 ワタシは拳を握り締めて立ち上がった。


「ハリエットさん。行くわよ。子供を助けに!」


「どこへ!?」


「もちろん、孤児院よ!」


「もちろんってーー」


 聖女ヒナ様にかしずく群衆は、みな目を丸くする。

 修道士や修道女、その他の人々にも、ナノマシンからの映像は見えない。

 だから、聖女様がいきなり『神様からの啓示』を受けたようにしか見えなかった。

 だから、みな、ますます身を入れて祈り始める。


 一方で、ハリエットらは、聖女様を助けて動かなければならない。

 そう思ってはいたが、騎士団の面々にも、聖女様がいかなる啓示をお受けになられたか、わからない。

 でも、あまりの迫力に気圧(けお)された。

 騎士たちは信じた。

〈聖女ヒナ様〉が、何か、聖女様ならではの幻視(ヴィジョン)を観たに違いないーーと。


「行くぞ! 我々はどこまでも聖女様をお守りするのだ」


 おおおおおおッ!


 ハリエットが号令を下すと、騎士団連中は一斉に拳を振り上げた。


 すでに〈聖女ヒナ様〉は、孤児院跡へと駆け走っていた。

 ハリエットはそれを追いかけ、騎士たちはさらにそれを追いかけるしかなかった。

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