◆5 俺様を召喚した人、出てこーい! と叫んだら、思わぬ事態に遭遇!?
俺、東堂正宗は、今現在、異世界にいる。
そして、改めて衝撃の事実が明かされた。
この〈異世界〉は〈魔王〉が君臨する世界で(これは聞いてた)、魔物の脅威に晒されつつある人類社会は、滅亡の危機に直面している(これは聞いてなかった!)というのだ。
森の中でポツンとして、東京本部と交信してる今の俺には、にわかには信じられない。
マジで俺様が、コッチの世界の人類社会を救済しなきゃならんらしい。
いや、待ってくれ。
そんなの、国家とか軍隊とかの仕事じゃないの?
少なくとも、日給幾らのバイトが派遣されて、やっつけるような案件じゃないだろ!?
「もし、失敗したらどうなるんだよ!?」
俺がキツめに問いかけると、通信相手の星野ひかりが諭すように言った。
「だから、それは考えないで。そのための勇者様でしょ」
新一があとを引き取って、説明し始める。
「じつはこういった、魔王出現による危機ってのは、ソッチの世界の人間にとっては、何度か経験済みでね。
だから、その度に、〈勇者登場〉が待望されてるんだ。
それなのに、今回はなかなか勇者がやって来ないので、わが社に依頼が来たんだ」
なんともゲームっぽい世界設定だが、おかげでわかりやすくて結構なことだ。
俺は自身の腰に提がっていた剣を抜いてみた。
両刃の剣だった。
刀身は鏡のように綺麗で、自分の顔が映る。
角度を変えると、陽光に反射してキラリと輝いた。
いかにも良く斬れそうだ。
ロング・ソードというやつか。
「で、具体的には、俺様はなにをすれば良いんだ?」
なんだか、同じようなことばかりを問うている気がする。
話が一向に進んでいない証拠だ。
が、ようやく事態の進展が見られた。
ひかりが淡々とした口調で、具体的に答えてくれたからだ。
「これから君には〈漆黒の森〉を抜けて、魔王討伐に向かってもらいます」
ーーおお、いきなり魔王討伐イベントかよ!?
普通、もうちょっと細かいモンスターを狩ったりするレベルアップ作業や、仲間作りを経てからのラスボス退治だ、と思うんだけど……。
まあ、のっけからチート設定にしてもらってんだから、そういった冒険イベントは端折るってわけか。
さすがは「派遣のお仕事」ってところかな。
とりあえず、俺様は周囲をグルッと見回すが……。
当然、いるはずであろう、コッチの世界での依頼主たる〈召喚者〉が見当たらない。
またも東京本部に問いかける。
「たしか、コッチの世界で、俺様は魔法で〈召喚〉された形になってるんだよな?
だけど、誰もいないぞ」
東京から、兄妹の当惑したような声が返ってくる。
「ごめん。僕達にも事情がよくわからないんだ。
森を抜けて、人間の仲間と合流してから、魔王討伐に向かう、としか依頼されていない」
「魔王討伐のお膳立ては、派遣先の世界の〈召喚者〉がしてくれてるはずなのよ。
ーーそうね、まずは依頼主たる〈召喚者〉を見つけ出して、詳しい事情を聞き出してちょうだい」
「へいへい……。
勇者様の第一の仕事は、ヒト探しですか……」
俺は嫌味を口にしながら、アテもなく方々を彷徨き始める。
でも、この森、〈漆黒の森〉と名打つだけあって、ほんと暗くて視界が悪いぞ。
しかも、広大だーー。
俺は瞑目し、大きく息を吐く。
勇者設定のチート持ちだからこそ、空間把握が出来ている。
それゆえ、同じ所をグルグル巡るだけの遭難をする心配はない。
だが、森の規模は、東京都全域の半分くらいもある。
おまけに、獣か魔物か知らないが、夥しい数の生き物が生息していて、生命反応はやたらと数多く感知されていた。
〈召喚者〉であろう人物が、その生命反応のどれに当たるかがわからない。
ヒト探しとなると結構、厄介だ。
結局、人影を求めて、一、二時間も、俺は森の中を彷徨うことになってしまった。
歩いても、歩いても、樹木に覆われた、薄暗い森の中だ。
濃い深緑の香りが唯一の救いで、時々立ち止まっては深呼吸をした。
「こうしてると、森林浴になって、身体に良いのかも。
でも、とてもリラックスできねえ。
結構、緊張してるな、俺。
だって肩と首がこわばってるし、心臓がドキドキしてる」
俺はヤケクソになって
「俺様を召喚した人、出てこーい!」
と大声で叫んでみた。
だが、風が木々を揺らす音と、鳥の鳴き声が聞こえるだけであった。
そんな感じで、いささか退屈していたときのことであった。
いきなり事態が急転したのは。
森林地帯から抜けて、岩場にさしかかったところで、突然、俺様は凄惨な光景に出喰わしてしまったのだ。
「な、なんだよ、こりゃあ……。
死体の山ーーそれも人間の……!?」
目の前に、血塗れとなった大勢の人間の死体が、地面いっぱいに広がっていたのである。




