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◆71 やっぱり聖女様にしか、〈魔の霧〉は祓えないんだ!

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは怒り心頭に発し、我を忘れるほどになっていた。


 可愛くて賢い白人の美少年マオが、孤軍奮闘の末、後輩の孤児たちを助け、自らは龍の化け物に丸呑みされてしまった。

 マオの仇を討たないでどうするのか!


 ワタシは〈黄金の双頭龍〉に立ち向かわんとする。

 が、そんなワタシを、マオの保護者たちであった神父や助修士、修道女たちが、身体を張って押し留めた。


(おかしくね!?

 本来なら、アンタらこそ、怒り狂うべきなんじゃねーの!?)


 頭が沸騰する思いだったが、機先を制されたこともあって、ワタシは少し落ち着いた。


 たしかに、彼ら神父さんたちは、ワタシと違い、ナノマシンからの映像を観ていない。

 だから、マオが死んだことをーー龍に喰われたことを知らないんだ。

 おかげで、いまだマオが生きてるのかもしれない、だからヒナ様はマオを助けようと龍に立ち向かおうとしているのだーーと誤解しているに違いない。


 さらに、彼らは〈魔の霧〉が人を狂わせ、容姿をも酷く変えてしまうことを知っていた。

 だから、たとえマオが生きていたとしても、あのマオにまとわりついた助修士や修道女のように、目を血走らせ、皮膚が(ただ)れたゾンビ仕様になっていると思っているのかも。

 だから、マオについては、せめて美しい思い出だけを、子供たちには残しておいてもらいたいーーそう思ったからこその行動かもしれない……。

 そう思い直して、神父たちがワタシを押し留めようとするのを許すことにした。


 かといって、ワタシがマオの仇討ちを諦める(いわ)れはない。


 大柄なライリー神父が、修道女らを押し除けて、姿を現す。

 そして、孤児院に居座っている黄金龍を指差して、低い声で諭した。


「ヒナ様。今は非常時。

 生き残った我々ですら、安全とは言えないのです。

 これ以上、死んだかもしれない白い孤児(マオ)に構うのは……。

 差別のないお心には、感服いたしますが……」


 ライリー神父の指先に釣られ、ヒナは改めて龍を(にら)みつけた。


 ドラゴンは二つの口から、炎と真っ黒な霧の二つを吐いていた。

 どうやら右の首は炎を吐き、左の首が〈魔の霧〉を吐き出すようだ。

 さらに、龍の黄金色の身体全体からも〈魔の霧〉が(にじ)み出ていた。


 孤児院の周囲は、以前にも増して、真っ黒になっていた。

 その暗中で、霧を吸い込んだ何十人もの騎士たちが口から泡を吹きながら、互いに掴み合っては、殴り合っている。

 両眼とも血走っており、(ひとみ)の焦点は合っていない。

 明らかに正気を失っていた。

 厳しい訓練を経た騎士団の面々が、あのように変わり果てた姿になって暴れ回るさまを目にしたら、〈魔の霧〉には誰も近づけないこともよくわかる。


(たしかに、あれはヤベェ。

 ワタシも、あの黒い霧に触れたら、おかしくなっちゃう?

 ーーいや、でもでも、マジで退治しなきゃ、ワタシの気分はおさまらない。

 ワタシは、ガチの聖女様なんだから!)


 ワタシが聖なる魔力を全身から発しているのを感知したのだろう。

 ドラゴンの左の頭が、教会ーーつまりはワタシがいる方角に振り向けられた。

 そして、真っ黒な霧を盛大に吐き出す。


(ヤバッ!

 コイツを吸わせちゃいけない!)


 ワタシは子供たちを背にして、大きく両腕を広げる。


 その途端、空中に青白く輝く魔法陣が浮かび上がる。

 無意識のうちに、聖魔法が盛大に展開した。


 わあああ!


 子供たちが歓声をあげる。

 ワタシが広げた魔法陣が、黒い霧を一気に吸い込んだのだ。


 そして、白く輝く光が光線となり、〈双頭の龍〉に直撃した。


 キイイイイ!


 龍の身体が大きくのけ()る。

 ワタシが発した〈聖なる光〉に圧迫されていた。


 ワタシはガッツポーズをする。


(やりィ!

 さすがはワタシの聖魔法!

 やっぱ、〈聖女様〉にしか、双頭の龍(コイツ)は倒せない。

〈魔の霧〉は(はら)えないんだ!)


 子供たちだけでなく、助修士や修道女もいっせいに空中に三角形を描き、お祈りを始める。

 少しでも〈黄色い聖女様〉の聖魔法に加担するために。

 聖魔法が祈る力によって勢いが増すことは、コッチの世界では周知の事実のようだった。


 さらに、加勢があった。

 はるか後方から、ワタシを守ろうとする、騎士の一団が登場したのだ。

 最前線からやって来た、〈黄色い聖女様〉に助けてもらった騎士たちであった。


 何人も走り込んできて、ワタシの前に立ち、青白く輝く剣を掲げる。

 彼らが手にしていたのは聖魔法が込められた〈聖剣〉であった。

 ワタシが展開した魔法陣ほどの輝きはないようだけど、〈聖剣〉は何代もの聖女様によって代々聖魔法が込められてきた国宝であった。


「当代の聖女様をお守りしろ!」


「滅びを喰い止めるのだ!」


 おおおおお!!


 彼らはワタシを聖女様と信じていた。

 ワタシの聖魔法で(いや)してもらい、生き延びたからだ。


 だが、聖剣を掲げる騎士団の後ろで、肝心のワタシは力を失いつつあった。

 ヘナヘナと、地面にうずくまる。

 先程、展開した聖魔法の魔法陣に、思いっきり魔力を奪われていたのだ。


 慌てて駆け寄る若い騎士に、ワタシは命じた。


「ワタシのことは、マジでダイジョウブだから!

 はやく子供たちを安全な場所へ!」


〈聖女ヒナ様〉から、いきなりのご命令である。

 だが、若い騎士は当惑するばかりであった。

 今現在、教会の近くで固まっているが、マジで、どこが安全な場所か、わからない。

 周囲には、人を狂わす〈魔の霧〉がいまだに(ただよ)っているのだ。

 正直いって、〈聖女ヒナ様〉の近くが一番安全かもしれないぐらいだった。


 でも、今からワタシは、マジでマオの仇を討とうとしている。

 巨大な〈黄金の双頭龍〉を討ち果たそうとしているのだ。

 激しい闘いになるのは、わかりきっていた。

 龍は炎や霧を吹きつけてくるだろうし、ワタシも魔力を激しく放出することになるはず。

 身の安全を第一に考えなければいけない子供たちは、邪魔になるーー。


「わかりました、ヒナ様。

 ここはお任せを!」


 そう言って、積極的に子供たち手を差し伸べて誘導を始めたのは、ライリー神父であった。


 ワタシはちょっとムッとする。

 ライリー神父がもっと果敢にマオの活躍を援助してくれたら、マオは助かったかもしれないーーそう思ってしまうからだ。


 とはいえ、これは「タラレバ」の話だとは、ワタシにもわかっている。

 実際にライリー神父がマオとともにピッケやロコたちを助けに出向いたところで、〈魔の霧〉を吸い込んで、あの狂ってしまった助修士や修道女のようになってもおかしくなかったのだ。


 ワタシは唇を()んで、うなずいた。


「それでは、お願いします、神父様。

 マオが命を賭けて助けた子供たちなんだかんね!?

 マジで、安全なところへーー」

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