表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/290

◆59 やった。〈聖女様のお薬〉を宣伝する絶好のチャンス!

 王都防衛の最前線で布陣する騎士団本部は、喜んでパーカーさんを迎え入れてくれた。

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなはパーカーさんのオマケとばかりに、ノコノコついていく。

 ところが、存外、ワタシは騎士さんたちの目を引いたようだった。


「貴女様がーー例の〈黄色い聖女様〉なのですね」


 大勢のイケメン騎士たちが、ワタシの前で片膝立ちになった。


「ハリエットから(うかが)っております。

 マローン閣下の釈放運動にも力をお貸しくださっておられるそうで。

 感謝いたします。

 我ら第二騎士団は、マーロン閣下のお世話になっているのです」


「???」


 ワタシが首を傾げていると、パーカーさんが苦笑いしていた。


(ははあ〜〜ん。

 ワタシの名前ーーというか、〈黄色い聖女様〉っていう言葉と噂話を、上手く使ったんだな……)


 ワタシは実際のところ、何もしていない(ハズ)。


 組合や王子派から薬や化粧品の販売を邪魔されて以降、ワタシ自身は、日々、マオと買物に出かけたり、ピッケとロコ、その他の孤児たちと遊んでばかりだった。


 でも、その間に、パーカーと反王子派の人たちは、精力的に宮廷工作を進めており、その際、積極的に〈街中の黄色い聖女様〉の存在と名前を利用していた。


〈白い聖女様〉は偽物で、王子が王宮から追放した〈黄色い聖女様〉こそ、本物の聖女様だ。

 その聖女様が、囚われの身となっているマローン閣下と騎士ハリエットの釈放に動き、〈滅びの予言〉たる〈魔の霧〉を(はら)おうと尽力なさっているーーと。


 もちろん、こうした政治活動をしていることを、パーカーやエマは、ワタシには内緒にしていた。


 この場でも、パーカーは笑って誤魔化す。


「ヒナ様はお疲れなんです。

 ご活躍も明日の朝から、ということで」


 パーカーさんは、わざとらしく空を見上げて、ため息を漏らす。

 騎士たちも、釣られるように夜空を見上げ、憂える。


「そうですね。このような月も星も、雲で覆われて見えない夜には、敵も攻めてはこないでしょう」


「まったく、〈魔の霧〉が発生する気配が、これほど濃厚だというのに。

 国内はゴタゴタ続き、挙句、隣国までが攻めて込んでくるとは……」


「まさにマローン閣下が憂えておられた状況、そのものになりました」


 騎士たちが仲間同士、色々と議論し始める。


 テントの外を見れば、たしかに星影もなく、月明かりもない。

 漆黒の闇に覆われていた。

 本来、煌々とした灯りで照らし出されるべき本営テント周辺も、今は戦時中ゆえ敵の砲丸の標的にならぬよう、篝火(かがりび)()いていなかった。


(マジで、なんも見えねー。

 こんなじゃ、やれることもないから、さっさと寝よっかぁ)


 殴り込みをかけんばかりであった意気込みも、すでにない。

 ワタシ、白鳥雛は若い騎士の先導に従って、特別に設営されたテントに至る。

 そして、毛布にくるまって、倒れるようにして眠り込んだ。


 そして、翌朝ーー。


 朝日に照らされ、戦場のありさまがくっきり見渡すことができた。


 味方陣営の背後に(そび)える壁は、所々、砕けていた。

 

 王都の壁の割れ目から外を(のぞ)く。

 まっすぐ敵軍の様子をうかがう。


 甲冑をまとった騎士や歩兵などのほか、様々な兵が動き回っていた。

 弓や石弓、棍棒、鎚、魔法杖などを携えた兵のほかに、スコップや(くわ)を抱えた軽装の雑兵たちもいる。

 彼らが駆り出された原因は、すぐにわかった。

 塹壕を掘ったり、投石機を組み立てたりする必要があったからだ。


 王国の騎士たちは冷や汗を流しながら、ささやき合った。


「見ろよ」


「ああ。投石機がズラッと並んでる」


「見たこともない数だ。

 一〇〇台はあるんじゃないか? 凄いな!」


 投石機とは、石の重さを利用して巨石を飛ばす木製機械である。

 この異世界の投石機は、ローマ軍が完成させたとされるトレビュシェットに似ていた。

 他にも、綱を(ねじ)る力を利用して石を飛ばす、マンゴネル型の投石機も見られた。

 ーーそうしたことを、東堂正宗とうどうまさむねなら、つぶやいただろう。


 しかし、ワタシ、白鳥雛は、もとより戦争や軍隊なんぞに興味はない。

 地球での、どういった兵器に相当するかなんて、マジで、わかんねー。

 だけど、投石機の破壊力が()められないことぐらいはわかっていた。


 王都内を逃げ回っていたときに、よく見ていた。

 飛んできた砲丸は、石玉や鉄球など、さまざまだった。

 単なる大石や荒削りの岩だったりもする。

 でも、城壁を砕くことはできる。

 負傷する者もいるーー。


 実際、最前線で戦う王国騎士や将兵にも、大勢の負傷者が出ていた。

 テントを張っただけの〈病院〉が、幾つも(もう)けられていた。


 満足な包帯もなく、鮮血ほとばしる傷口もあらわに、うめき声をあげる人たちが、大勢、あちらこちらで寝かせられていた。


 だけど、そうした凄惨なありさまを目にして、ワタシが思ったことは、じつに不謹慎なことであった。


(やった。〈聖女様のお薬〉を宣伝する絶好のチャンス!)


 ワタシはヴェールを脱ぎ捨て、腕まくりする。

 そして、特に負傷者から目につく場所に、真っ白なシーツを敷いてもらった。

 そこに、大量の灰や小麦粉、さらには現場で散らばる瓦礫(ガレキ)をさらに細かく砕いたモノを、ズラッと並べた。


「おい、なんだ、アレ?」


「〈黄色い聖女様〉が、何かなさるみたいだぞ」


「み、見ろ! 手が青く光ってる!?」


 騎士たちの視線が集まったタイミングで、ワタシは両手を輝かせ、目前に散らばった灰、小麦粉、砂利などに、ひたすら聖魔法を込めた。


 その結果、緑や黄色に光る、大量の粉が出来た。


 ワタシは両目を閉じた状態で、厳かに宣言する。


「神様から授かった〈聖魔法〉を込めました。

 これを水に溶かして飲みなさい。

 痛みが治り、傷も癒やされることでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ