◆57 ざけんなよ? ワタシがこれからザマァすんのを、勝手に奪うな!
戦禍に巻き込まれる中、パーカーさんは、ワタシ、白鳥雛を抱え上げて、王城へ避難しようとする。
ワタシは慌てて訴えた。
「ちょっと、待ってよ! ワタシ、お城に入れないんだってば。マジで!」
王城入口で、騎士さんに「黄色い肌だから」と保護を拒否された、と説明した。
だが、パーカーさんは聞く耳を持たなかった。
「下っ端の門番兵は、何もわかっちゃいねえ。
それだけだ。
お偉方だって、ヒナ様を必要とするはずなんだ」
エマもすぐ後ろから、荷物を抱えながら声をかけてくる。
「そうですよ、ヒナ様。
聖女様のお力を、こんな騒動で失うわけにはまいりません。
聖女様のお力は〈魔の霧〉を祓うためにあるのですから」
そう。それ。
みんな、〈魔の霧〉を祓うとか言ってるけど、今だに〈魔の霧〉ってのが何なのか、わかんない。
当たり前すぎるからか、みんな説明してくんないんだもん。
こっちも聖女様のフリをしてるせいで、訊ねるのが恥ずかしーし……。
結局、パーカーもエマも、一緒に王城の内壁に逃げようと訴える。
「いいの? お兄さんのハリエットさんが獄中なんでしょ?
弟のパーカーさんも、牢屋に放り込まれるんじゃ……」
「ふん。今、王城がどれだけの市民を抱え込んでると思うんだ?
何千人もの人間が逃げ込んできてるんだぞ。
そいつらの食糧や水、衣服の替えといった日常生活品はどうやって調達する?
ーーつまり、だ。
俺サマが動かなきゃ、緑の貴族どもだって、何も出来やしねえ。
俺たち商会の者が、物資の供給を維持するんだ。
皮肉な言い方になっちまうが、戦時中である限りは、バカ王子どもも俺サマを牢屋には入れられねえんだよ」
「マジ!?
ヤバいよね、それ」
納得である。
でも、ワタシ自身はどう扱われるか、わかったもんじゃない。
なにせ、〈怪しい偽聖女〉ってことにされてるんだから。
困った。
困ったときは、仕方がない。
故郷日本から、指示を仰ぐしかない。
そのために上司たちは、乙女のプライバシーを無視して、ワタシの行動を観察し続けてるはず。
強く念を飛ばした。
(ちょっと、東京本社! なんとかできないの!?)
◇◇◇
反応が即座にあった。
ワタシの頭の中で大声が響く。
「だから、通信を切るなって言ってるだろ!」
東堂正宗の声だった。
相変わらず失礼な物言いで、ウザいったらない。
「切ってなんか、いないわよ!」
ワタシが言い返すと、申し訳なさそうな口調で、女性の声が響く。
ひかりちゃんだ。
「ごめんね、マサムネが勝手に出て……。
でも、東京から連絡しようにも、ちっとも繋がらなかったのよ」
どうやらワタシが連絡したいと思わないと、回線が開かれないらしい。
「つまり、ナノマシンたちは、本社の意向を無視して、ワタシの願いを最優先にしてくれてるってこと?」
「そうみたい」
なに、それ。
ナノマシンったら、良い子じゃない!?
ちょっと得意になって、ニマニマしちゃう。
そんなワタシの思いを察したのか、上司二人と同僚が仕事をせかす。
口々に、今までモニターで見てきた、王国の現状を説明し始めた。
「王宮ではここのところ反王子派が台頭してきて、ヒナちゃんを〈真の聖女様〉と信じて、押し上げようとする動きが出ていたんだ。
だけど、この王都襲撃で、パーになっちゃったんだ」
「好戦派の王子や〈白い聖女様〉の勢力が、主導権を握り続けてんだ」
「そうなのよ。
今、ヒナちゃんが王宮に行ったら、捕らえられるか、見せしめに処刑されるかも……!」
つまり、ワタシがこれから王宮に駆け込んでも、お偉いさんを動かすことはできないってことね。
念の為に、本社に連絡入れといてよかったわ。
でも、どうしようーー。
悩んでいると、マサムネが口を出してきた。
「とにかく、オマエは一刻も早く日本に帰るべきだ。
〈聖女様〉の役も奪われちまったわけだし、そうなった責任はソッチの国の王子にあるんだから、契約不履行になったって、それはーー」
ああ、マジ、うるせえ!
なによ、ワタシがホンモノの〈聖女様〉だって、みんなが認めるのはこれからなんだから。
ワタシは大声を出した。
「ざけんなよ?
ワタシがこれからザマァすんのを、勝手に奪うな!」
ワタシが、そう強く念じた途端、東京本社からの声は聞こえなくなった。




