表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
243/290

◆55 生命は一度でも落としたら、もう拾えないのよ!

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、美少年のマオを引き連れ、パールン王国の王都で楽しく買い物をしていた。

 だが、突然、外国の軍隊からの襲撃を受けてしまった。

 あっという間に、平和な街が戦場と化したのである。


 買い物袋を抱えたまま離そうとしないマオに、ワタシは叫んだ。


「マオ、ヤバいよ!

 さっさと捨てな!」


「でも、せっかくのお買い物を……」


「んなの、マジで、いつでも買える!

 でも、生命(いのち)は一度でも落としたら、もう拾えないのよ!」


「わ、わかりました」


 ワタシは頭を抱えながら、マオと一緒に街中を走り回る。

 空中から落下してくる巨石と、それによって崩れ落ちる瓦礫(がれき)から身を避けなければならない。

 ほんのついさっきまでご機嫌に買い物していた街が、あっという間に大混乱の(うず)と化していた。


(もう、なんなのよ。

 いきなり戦争だなんて!)


 本社からの連絡によると、じつは(コッチの世界の)三カ月も前から戦争になってたらしい。

 けれど、ワタシにとっては、実感が()いたのは、今現在が初めてだった。


 王都の一般民衆にとっては、まさに青天の霹靂(へきれき)ともいえる敵襲だ。


 街中では、老若男女の別なく、人々が右往左往していた。

 必死の形相で逃げると同時に、それぞれのやるべきことに邁進(まいしん)する。

 一般町民は家具や貴重品を(かか)え、商人たちは商品を荷物にまとめて馬車に乗り込む。

 誰も彼もが、持てるだけの荷物を抱えて、王都の内壁部分ーー王城の城壁内へと移動を始めた。


 王都の民衆にとって、非常事態に際してのセオリーだった。

 王都の北、王城の城壁内に逃げ込んで、敵襲を避けるのだ。

 もっとも、城壁内とはいっても、王城にとっては最も外部ーー外壁のすぐ裏側ではあった。

 が、とりあえずは、敵の砲丸から身を避けることはできる。


 王国の第三騎士団が、町民を避難場所へ誘導していく。


「へえ。街の住民は無視ってんじゃなくて、一応、助けてくれるんだ」


 ワタシは少し、王国のお偉方を見直した。

 ひどい身分差別社会だから、平民の命なんか無視すると思ってた。


 でも、さすがに騎士さんは「戦う人」であると同時に「守る人」でもあった。

 街の人々も互いに励まし合い、助け合いながら逃げていた。


 街中で逃げ惑う人々が、ワタシとマオに注意してくれた。


「あんたも逃げな。危ないよ」


「すぐに王城に逃げるんだ!」


「命あってのモノダネだよ!」


 どうしたら良いか当惑するワタシを尻目に、マオは決然と言い放つ。


「ボクだけ助かろうとは思いません。

 ボクには〈家族〉がいるんです!」


 マオにとってに〈家族〉とは、もちろん、ピッケとロコを含めた、二十人を超える孤児たちだ。

 ワタシはマオの頭をクシャクシャ撫でながらうなずいた。


「ええ、そうね。いっしょに逃げましょう!」


 さっそく孤児院に急行だ。

 それからピッケ、ロコ、その他大勢の孤児たちと一緒に、安全な所へ避難しなきゃ。


 王都にあって、戦中に〈安全な所〉はただ一つ。

 向かうは堅牢な城壁で囲まれた王城へーー。


 ところがーー。


 銀色の鎧をまとった門番騎士が()(とが)めた。


「まさか、おまえたちのようなものが、そのまま城の中に入れると思っているのか?」


 マオと走るワタシに、侮蔑ともいえる言葉が投げかけられた。


「えぇ? マジで、どーゆうこと?」


 街を守り、町民たちを王城へと誘導している騎士も、吐き捨てる。


「おまえのような黄色いのは当然だが、白いのも国民じゃない。

 我が王国は準国民を保護する義務はない」


 緑と黒の人種しか、壁の中に入れてくれないという。

 彼ら騎士から見れば、ワタシは〈黄色い肌をした気持ちの悪い女〉、マオは〈薄汚い白人の子供〉にすぎなかった。


「そんな! ボクはともかく、ヒナ様は聖女様なんですよ。

 知らないんですか!?」


「聖女様!? 知ってるよ。

 王子と乳繰(ちちく)り合って戦争をおっ始めた張本人だろ。

 アレは白い女だって聞いてるぜ。

 アンタのような黄色じゃない」


 城壁の門番から、キツく言い渡された。


「そもそも孤児は住民登録されていない。

 市民扱いにはできん。

 悪いが、規約に違反する。

 保護するわけにはいかん」


(マジかよ? ヤベェな。

 ガチで、この国の〈住民〉ですらないんだ、ワタシ……)


〈追い払われた聖女様〉だから?


 でも、納得いかない。

 そもそもワタシは異世界人なんだから、住民登録されてないのは、まだわかる。

 でも、どうして孤児に市民権がないの?

 親がいないってだけで……!?


(でも、慌てる必要はないかも。

 さすがに敵も教会や孤児院を襲うことはないっしょ!?)


 敵軍が狙うのは当然、砦とか城なんだろう。

 だから、そういう意味では、王城に逃げ込まないで、教会や孤児院で身を(ひそ)めていたほうが助かるかも。


 実際、空から飛んでくる巨石が落下する方角は、街の中心地や王城がある所だった。


(でも、孤児院が安全かどうか、わかんない。

 子供たちのことも心配だし……。

 あ、そうだ。試してみようかしら)


 ワタシは、ナノマシンに命じてみた。


「孤児院の様子を観に行って。お願い!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ