表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/290

◆54 あー、買物って楽しい。お金を気にせずに買えるのっていいわ!

 ワタシ、白鳥雛しらとりひなが聖魔法を込めた薬や化粧は、爆発的に売れるようになった。お金もたっぷり入った。

 なのに、国が営業禁止を命じて来た。

 露骨な嫌がらせだったが、今のワタシにやれることはなさそうだった。


 だから、パーカーさんの勧めもあって、ワタシは孤児たちと遊んで過ごすことにした。


「じゃあ、孤児院に行くね」


 パーカーとエマは、ワタシと、マオを見送り、手を振ってくれた。

 ワタシは、呑気に遊んで過ごすことにしたので、見送ってくれる彼らも、似たように時間を持て余すんじゃないかと思っていた。


 が、実はパーカー、エマの兄妹にはやるべきことが山積みだったことを、ワタシは知らなかった。

 

 パーカーは、貴族・平民の枠を超えた反王子派を集結させようとしていた。

 そして、マローン閣下を軟禁状態から解放し、王様を担ぎ出して、隣国との戦争に終止符を打つよう、政治工作を始めていた。


 もっとも、パーカー、エマの兄妹にとって、真の目的は「兄・ハリエットの釈放」だ。


 パーカーは丈夫になった左足で、地面を蹴り上げる。


「〈白い聖女〉ってのは、ちっこくて可愛らしい容姿とは裏腹に、異様にマセてるって話だ。

 王子と乳繰(ちちく)り合ってるうちに、一気に決めてやる!」


 王子と〈白い聖女〉身体の関係にあることは、すでに庶民でも知っている〈公然の秘密〉となっていた。

 そのことが反王子派を形成する上で役に立っていた。


 パーカー商会は持てるコネと財力を結集して、政治闘争に突入していたのである。


 一方、身近にいながら、ワタシ、白鳥雛は、パーカー商会の面々の裏事情をまるで察していなかった。

 せいぜい、世話になった騎士ハリエットが牢屋に入れられてると知って憤慨し、聖魔法を込めた薬や食物の差し入れをお願いする程度だった。


 でも、裏事情を知らなかろうと、爆発的に売れていた薬と化粧品の販売を禁止されて、突然、やることがなくなったのだ。

 気持ちが晴れないことに変わりはない。


「ああ、うっとーしいわね!」


 大きく伸びをする。


「せっかく稼いだんだから、これからはパーッと使うぞ!」


 ワタシは孤児院に向かう前に、王都の街へ買い物に繰り出すことにした。

 この頃には、すっかりマオはヒナ様付きの従者と化していた。

 もちろん、パーカー(旦那様)の公認である。


 大きなガラス窓が特徴の高級宝石店に、ヒナとマオはやってきた。

 ドアを開けると、


「いらっしゃいませ」


 と明るい声が響いた。


 ガラスのショーウインドの中には、キラキラと輝く大粒の宝石が並べられていた。

 マオに目を向けつつ、ワタシは自分自身に言い聞かせるように言う。


「これから買うのは、決してワタシが欲しいからって買うんじゃないの。

 仕方なくーーそう、仕方なく、聖女様として、舞踏会に招かれた時のために、必要なものとして選ばざるを得ないってわけ。わかる?」


「はい。聖女様としてのお勤めのためなんですね」


「そう! マジで、これ、お勤めなのよ!」


 ワタシは上機嫌になって、宝石店に突撃する。


 入店早々、ティアラとネックレス、イヤリングを選んだ。

 アメジストを中央に埋め込んだティアラ。

 真っ赤なサファイアが光るネックレス。

 緑に輝くエメラルドが入ったイヤリング。

 どれもが、大粒の色石(カラーストーン)が目立つデザインだった。


 宝石店を出たときには、大きな袋を三つもマオに持たせていた。


 これで室内の装飾品は十分だろう。


 頬に手を当て、思案する。


「あとは聖女として、どんな場所に招かれても恥ずかしくないように、ひととおりの物は(そろ)えたいわね……」


 マオが破顔する。


「お任せください。

 ボク、エマ様のお買い物に従うことが多いので、ご婦人の愛用する店は知ってます。

 お連れしますので、存分にお買い物をなさってください」


「マジ!? 助かるわ」


 美少年マオの先導に従って、ワタシは買い物をしまくった。

 洋装店でドレスを作り、靴店で靴、鞄店でバックも揃えた。


 ワタシは意気揚々と王都の街を練り歩いた。

 ワタシの後を、買い物袋を大量に抱えたマオがついて行く。

 二人とも笑顔で(あふ)れていた。


「あー、買物って楽しい。

 お金を気にせずに買えるのっていいわーーひゃっ!?」


 急に頭の中に連絡が入ってきた。

 東京本社からだ。


 今まで、気が向いたときに通信ボタンを押したのに反応がなかった。

 なのに、いきなり通信回線が(つな)がった。


(そうだ。

 今だったら、ステータス表もちゃんと表示されるんじゃね!?)


 そう思ったワタシの思念を読み取ったのか、星野新一が開口一番に言った。


「ステータス表なんて見てる暇はないよ、ヒナちゃん。

 今すぐ王都から逃げるんだ!」


「へ?」


 そこへ、東堂正宗(マサムネ)が割り込んできた。


「敵襲だ。戦争になってるんだよ、その国は!

 長い間、国境線での戦闘が膠着状態だったけど、そいつがフェイクだったんだ。

 お偉方の視線を国境線に向けているうちに、敵の特攻部隊が(ひそ)かに動いていた。

 今にも王都に侵入しようとしてるんだ!」


(戦争? この国が? 

 王都が攻められる?

 嘘だぁ……)


 信じられない。

 ザッと周りを見回す。

 いつも通りの光景だ。

 商売人が行き交い、買い物に来た奥様たちが幼い子供の手を引いて、いろんな店を(のぞ)き込んでいる。

 そんな街中の日常生活が展開していた。


 ーーだが、東京本部からの急報は正しかった。

 半刻もしないうちに、平穏な日常がいきなり破られたのである。


 ドーーン!


 突然、轟音が響く。


「きゃあ!」


 女、子供のみならず、道ゆく人々の誰もが、耳に手を当てうずくまる。

 地面が激しく揺れたので、身動きが取れなくなっていた。


 ガラガラ!


 盛大な音を立てて、屋根や看板が道端(みちばた)に落下する。


 周囲に喧騒(けんそう)が広がり、辺りは騒然としてきた。


 ゴーーン!


 さらに振動が伝わる。


「きゃあああ!」


「な、なんだ!?」


「石よ。大きな石が飛んできたのよ!」


「やっぱり、共和国のヤツら、攻めてきたんだ!」


 わああああ……。


 人々が逃げ惑う街中で、ワタシは呆然として立ちすくんだ。


(マジ? マジで戦争が始まっちゃったの!?

 ガチでヤバいんじゃねえの、コレ!?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ