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◆52 〈黄色い聖女様〉が、街中に降臨された!?

 エマが教会の御ミサに授かってから、三日後ーー。


 化粧品はクリームだろうと化粧水だろうと、店頭に並べるだけで即、完売するようになってしまった。

 今までに作った、数百を超える化粧品がすべて売れてしまったのだ。


「ありがとう、エマ、マオ!」


 ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、エマとマオに抱きついた。

 エマもマオも、顔を赤くした。


「ヒナ様は聖女様なんですから、当然です」


「|パーカー(旦那)様も、商品を作るのにおっつかない、これから忙しくなるぞ、と張り切っておられました」


 二人の賞賛を耳にしながらも、ワタシは少し恥じ入っていた。


「聖女の力があると言っても、ただ、手のひらを材料にかざすだけだしぃ……。

 なんか、悪くね!?」


「気にする必要なんか、ございませんよ!」


「そうですよ。すべて、ヒナ様ご自身のお力なんですから」


 エマと同じように、孤児院で生活しているマオ少年も、ピッケたちと一緒になって、お風呂上がりには全身に化粧水やクリームを塗っているらしい。

 薬もしっかり飲んでいた。

 元気づけのために飲んでいて、完全にサプリの使用法になっている。

 副作用が心配だから使う量を少なめに設定していたけど、もとより薬や化粧品が高級品であることは自覚しているので、少しづつ使ってくれているようだった。


 マオ少年は深々と頭を下げた。


「おかげで、夜もぐっすり寝られています。

 孤児院のみんなを代表して、お礼を言わせてください。

 本当にありがとうございました。

 聖女ヒナ様に出会えて、ボクは幸せです」


 美少年に(なつ)かれ、ワタシは思わずガッツポーズをした。


「やった。これで聖女伝説の第一幕が上がったわ!」


「よかったですね」


 マオも笑顔だ。

 でも、ワタシには少し不満なことがあった。

 化粧品を作ってばっかで、薬を作る暇がなかったことだ。


(マジで、意外じゃね!?

 薬よりも、化粧品の方が評判になるだなんて。

 それだけ薬が信用されてない社会ってだけかもしんねーけど……)


 あれこれ思いながら、店先でワタシが一息ついていたらーー。


 かなり前に、薬をあげた子供が、店頭に姿を現した。


「あっ、あんときの。

 たしか、お母さんが病気だっていうーー。

 で、どうだったわけ、お母さん。

 お薬、効いた?」


 おずおずとする子供。

 その後ろに大人が立っていた。

 男女の夫婦だった。


(まさかーー)


 ゴクリ。

 ワタシは生唾を呑み込む。

 案の定、その若夫婦は自己紹介した。


「この子の親です」


 ワタシは口に手を(おお)って、身を震わせた。


(ヤベェ、マジかよ!?

 まさか、苦情を言いに……クレイマーか!?)


 ビビるワタシに、その夫婦は足早に近づいてきたかと思うと、いきなり手を差し出してきた。そして、そのまま握手し、ハグしたのである。


「ありがとうございます!

 長年、苦しんできた胸のつかえが取り払われて、全身から力が湧いてきたんです。

 医者に言われるまま、色んな薬を飲まされてきましたが、こんなことは初めてです!」


 男の子の家は、予想外に裕福だったようだ。

 薬を奥さんに何度も飲ませられるほどには。

 でも、効き目のある薬に出会ったことがなかったらしい。


「妻の様子を見て、私も試してみたんです。

 するとーーほんとうに効くんですよ、この薬は!」


 夫婦、親子揃って全身が薄っすらと緑色に輝く。


 すると、大勢の人々がわらわらと集まってきて、ワタシを取り囲む。

 大勢のオバサンたちだ。


(見た覚えのある顔ーーああ、お薬をタダで配った人たちだ)


 なんか、薬をあげたときと雰囲気が違う。

 みな、両手を握り締めて神妙な顔付きをしている。


 やがて彼女たちの後ろから、一人の年配の男が前に進み出た。

 彼はワタシに深くお辞儀をしながら言った。


「どうか、ヴェールをお取りになって、ご尊顔を拝見させてくださいませんか」


 マオにも勧められ、ヒナはヴェールを取り除く。

 化粧されて白味がかってはいるが、典型的な日本人の肌色が(あら)わとなった。

 このパールン王国では、誰もが忌避する、気色悪い色ーー。

 なのに、みな、いっせいに片膝立ちになって首を垂れた。


「な、なんなの? いったいーー」


「おおーー噂には聞いておりましたが、本当だったのですね。

 『〈黄色い聖女様〉が、街中に降臨された』と!」


 へ? なんなの?

 その噂ーー。


◇◇◇


 東京本社にてーー。

 星野兄妹と東堂正宗とうどうまさむねは、笑みを浮かべてモニター映像を見ていた。

 以前とは、打って変わって、全員の表情にゆとりが出てきていた。


「やっぱりヒナちゃん、目を白黒させてるよ」


「わかんないぞ。

 アイツ、『街中から聖女伝説を振り撒いてやる』って意気込んでたからな。

 案外、『想定通り!』って、ほくそ笑んでるかもよ」


「ちょっと、マサムネくん。ヒナさんのこと、悪く(とら)えすぎ」


 ヒナが〈街中の聖女様〉扱いになってきたのは、もちろん彼女が作った化粧品や薬が売れ始めたからだけではなかった。


 二つに割れたモニター映像を見続けてきた彼らは、現地に派遣されているヒナ自身よりも、よほどその異世界での状況が(つか)めていた。


 開戦より半月が過ぎ(ちなみに、東京では一週間ほどしか経ってない)、隣国カラキシ共和国との戦争は膠着(こうちゃく)状態になっていたのだ。

 それにつれ、パールン王国の王宮内では、反王子派が台頭していた。

 投獄されたハリエットとマーロン閣下に従う者たちが、積極的に動き始めたのだ。


 彼らはみな、強引に隣国との開戦に踏み切ったドビエス王子と〈白い聖女様〉カレン・ホワイトを嫌っていた。


『王宮で好き勝手に振る舞っている女の子ーー〈白い聖女〉はニセモノだ。

 本物の〈黄色い聖女様〉は今、街中で活動なさっているーー』


 パーカーとハリエットの働きかけもあって、そうした噂が王都全域に広がっていたのだ。


 ひかりはモニターに向けて、身を乗り出す。


「あとはナノマシンが、ヒナさんとの通信回路を(つな)げてくれればーー」


 いつも通り、通信ONにセットする。

 そして、電源を入れたり、切ったりし続ける。

 かえって良くないかもしれないけど、何かし続けたかった。


 男二人組は、手を合わせて祈っていた。


「頼む。ヒナのヤツを救けるためなんだ!」


(つな)がってくれーー!」


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