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◆50 東京にて、会議は躍る

 今回、白鳥雛しらとりひなの異世界派遣は異例づくしだった。

〈救世の聖女様〉として召喚されたはずなのに、金髪の白い美少女とバッティングして〈聖女様〉の役を奪われ、城外へと追い出された。

 おまけに、ナノマシンの働きが悪く、転移先に合わせた〈肉体変容〉をしてくれなくて、黄色い肌のままなせいで、いまだに現地人から気持ち悪がられている。

 最初は、現地の言葉がうまく聴き取れなかったし、今でも、東京本部(コチラ)との通信状況も良くない。

 ただでさえ、ヒナは場当たり的な振る舞いが多い派遣員だというのに、作業環境自体に問題が多すぎる。


 星野ひかりは、ペン先で手帳をトントン叩いた。


「だって、ステータス表だって文字化けしてたんでしょ?

 ナノマシンが勝手にやりすぎてるのよ。

 モニターの画面だって割れてるし」


 たしかに、今回は異常なことが多すぎる。

 それもこれも、ナノマシンが勝手な働きをしているからだ。

 それは三人の共通した見解だった。


 星野新一はパンと手を叩く。


「じゃあ、憶測だろうとなんだろうと、状況の把握に努めてみよう」


 ナノマシンが働かなかった理由を、三人で考えることにしたのだ。


 結果、それぞれが思うことを口にして、議論が始まった。


「ナノマシンの調子が悪かったのだろうか?

 本来なら〈変容〉機能で、現地仕様に身体を組み直してくれるはずなのに」


「そうなのよね。

 ナノマシンが現地に合わせた変容をしてくれなかった。

 おかげで、ヒナさん、日本人の容姿のままだった。

 だから、現地で聖女様扱いにならなかった……。

 ーーでも、どうしてなのかしら?」


「ひょっとして、ナノマシンたち、〈ありのままの|ヒナちゃん(ご主人様)が素敵!〉と思っていたから、身体を変容しなかった、とか?」


「なに、それ。日本のオタじゃあるまいし」


「つまり、ナノマシンたちが〈変容〉させるべき指示を拒否して、ヒナの姿を元通りに再現したいと思ったーー。

 だから、ヒナは異世界に行っても日本人仕様だった、と?」


「ーーなるほど。それは、ありうるな。

 でも、そういうことだとしても、別の疑問がある。

 そもそも、なぜナノマシンに、前回の派遣の際にかけられた魔法効果が残っているのかってことだ。

 だって、考えてみりゃ、変だろ?

 ヒナのナノマシンどもには魅了魔法がかかったままだ、と当たり前に思ってたけど、通常は、新たに派遣される前に、前回の設定はリセットされるんだろ?」


「そうだね。

 それに、転送時、分解・再構成をされるのは、ナノマシンも一緒だ。

 ーーとしたら、よけいに魅了魔法効果が継続している理由が謎だ。

 前回の派遣から帰ってきたとき、今回、新たに派遣されたときーー二度も分解・再構成されているはずだ」


「そうかしら?

 帰ってきたときは、新たな設定をナノマシンに付与してないんでしょ?

 だったら、ヒナさんの魅了効果がナノマシンに継続していても、不思議はないわ」


「でも、今回の派遣に際して、新たに〈聖女様〉として、〈聖魔法〉を中心とした能力に組み直している。

 その設定の変更は、ナノマシンにも及んでいるはず」


「いや、ナノマシンの中に、分解・再構成が中途半端だった個体も存在したかもしれない。

 なにせ、ナノマシンは何兆個もいるんだから……」


「つまり、前回の派遣時の状態から、多数のナノマシンが分解・再構成され切らなかったからしいーーと?

 でも、どうしてだ?

 なにかアクシデントがあったっけ……あ!」


 三人が同時に目を見開いて、互いに顔を合わせる。

 今回、ヒナを派遣する際に、あったではないか。

 重要なアクシデントが!


 二人の聖女召喚ーー!


「そうだ! 初めっから怪しかったんだよ、あの金髪の女の子!

 ほら、アイツがヒナのヤツと同時に召喚されてきただろう?

 あの白くて、ちっこい聖女様、誰かがコッチの世界から〈聖女様〉として召喚されてくるってのを、事前に知ったんじゃないのか?」


「要は、あの白い金髪の女の子は、ヒナちゃんが地球から派遣されて来るのを知って、初めから横入りして〈聖女様〉の役割をぶん取る気でいた。

 それだから、召喚の際、ヒナさん向けて魔力をぶつけたーーと?」


「かもしれないわね。たしかにーー」


「いや、いや、それは変だろ?

 だったら、ヒナのヤツを殺すほどに、魔力をぶつけりゃあ良いじゃねえか?

 そしたら初めから、自分がたった一人の〈聖女様〉になれたのに」


「おいおい、そんな怖いこと言わないでくれよ、正宗くん。

 それじゃ、ほんとにあの金髪の美少女さん、テロリストか何かってことに……」


「あら、兄さん。

 ほんとにテロをしかけられたのかもしれないじゃない?

 そして、意外とナノマシンたちが、ヒナさんを守ってくれたのかもよ。

 だって、ヒナさんLOVEなんでしょ、ナノマシン(あの子)たち」


「だから、邪魔な魔力干渉を(はじ)いた、と?」


「うん。可能性としては、あると思うの。

 その代償として、ナノマシンたちは新仕様に〈変容〉し損ねて、同時に前回の魅了魔法効果がそのまま残った、というわけ。

 ね。結構、筋が通ってるでしょ?」


「う〜〜ん。どうかな」


「たしかに、そうかもしれないけど……」


「ーーで、どうするの?」


「どうするって?」


「どうしてナノマシンたちに魅了魔法効果が残ってるか、といった考察はほどほどにして、問題はこれからのことよ。

 どうやって、ナノマシンたちに、私たちの都合が良いように働いてもらうわけ?

 だって、今現在も、勝手にヒナさんとの通信回路を絶ってるかもしれないんでしょ?」


「う〜〜ん」


「そうなんだよなぁ」


 男どもは、腕を組んで難しい顔をする。

 しかし、それだけだった。

 ナノマシンを正常に働かせる方途が、まったく思い浮かばない。


 それを見て、ひかりは呆れ声をあげた。

 

「もう、役立たずね!」


 彼女の声を耳にして、男二人は思った。


((ひかり(アンタ)もね!))


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