◆48 なんだか、バタバタしてます。
異世界に〈聖女様〉として派遣されながらも、ワタシ、白鳥雛は、お城から追い出され、身の寄せどころをなくしていた。
そんなワタシを王都の商会へと誘って、寝泊まりできるようにはからってくれたのが、鎧騎士ハリエットと、その弟パーカーさんだった。
それなのに、政変が起こって、ハリエットさんが投獄され、パーカーさんの身にも危険が迫りつつあった。
こうなれば、やむなし。
保護中のワタシを、自分たちの後見役である教会に差し出そうか、とまでパーカーさんは考え始めていた。
そこへ、パーカーさんの妹である、家政婦エマが参入する。
彼女は慎重に言葉を選びながら、話し始めた。
「お兄さんーーいえ、旦那様!
今の段階でヒナ様を教会に差し出すのは、上手くありませんよ。
ヒナ様は、大事なウチの切り札です。
〈もう一人の聖女様〉をパーカー商会で抱えているということ自体が、王家に対しても、教会に対しても、牽制になるんですから」
「でも、王子がヒナ様を追い出しているーー」
「とはいえ、王様は、いずれが聖女様であるかを決めかねておられます。
ですから、ハリエット様がヒナ様をパーカー商会にお招きくださることができたわけです」
「それはそうだがーーいきなりハリエットの兄貴みたいに俺が投獄されたんじゃ、お手上げだ。
とりあえずは教会には、後ろ盾になってもらわないと……」
教会の権威はかなりのもので、王国権力の及ぶ範囲を超えている面もあるらしい。
王家によって犯罪者認定されながらも、教会助けを求めて庇護された者は、数多くいるとのことだった。
エマがパーカーさんに詰め寄って、提案する。
「こうすれば、どうでしょう?
聖女様がお作りになったクリームとかの化粧品を、すべて教会への寄付という形で、お分けすることにしてはどうでしょうか。
そして教会の名の下で、販売するのです」
「なるほど。
利益を全部くれてやる代わりに、パーカー商会を王子の手から守ってもらおう、というわけか?」
「はい」
もとより、他店や組合から横槍を入れられないために、教会の権威を後ろ盾にするつもりだったから、その方針に変わりはない。
ただ、利益の分配率が大きく変わって、店の利益が薄くなるだけだ。
「あのうーー」
なんだか、話が緊迫してくるのが耐えられなかった。
こっそり逃げ出せないものかと思い、声をかける。
「ご迷惑でしたら、ワタシ、お暇させていただきますが……」
なんだったら、地球の日本東京までーー。
そう言いたいほどだった。
なんだか、大事に巻き込まれる雰囲気が、嫌でたまらなかった。
が、すでに遅かった。
パーカーさんが顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「それは困る。俺を殺すつもりか!?」
「こ、殺すって……そんな大袈裟な」
「大袈裟でもなんでもない。
俺は黒人の平民だ。
血が繋がってても、騎士で緑人のハリエット(兄貴)とは違う。
裁判も開かれずに、処刑されかねん」
「ええっ!?」
エマが、ワタシに近寄って来て懇願する。
「ケショウヒンを販売した収益のうち、ヒナ様の取り分は確保いたしますから、どうかウチに居残ってくださいませんか。
兄や私、そしてピッケやロコのためにもーー」
パーカーさんが捲し立てる。
「教会が三割、ウチがニ割、ヒナ様が五割でどうだ!?」
その提案を耳にするや、エマは兄の耳を強く引っ張る。
「バカ言わないで!
ウチの取り分なんて無いわよ。
ゼロ。利益ナシ!
生命あっての物種でしょうに」
「……」
パーカーさん、悔しそう。
仕方ない。
ワタシは覚悟を決めた。
「わーった。ワタシ、聖女様なんだもんね。
人々のためになることをするってのが、使命だかんね!」
「さすが、聖女様。立派なお心がけです」
エマが笑顔で応える。
その横で、パーカーさんは番頭とマオに指示を出す。
さっそく教会に取り継ぐためだ。
反対にエマはワタシの手を引っ張り、さらに奥の部屋へと誘う。
「聖女様。これをご覧ください」
テーブルには、化粧品のサンプルが並べられていた。
レモンイエローの容器に、白い蓋ーー。
すべてが、この色合いになっていた。
「いかがですか?
ケショウヒンは聖魔法が込められたものですので、このような色合いにいたしましたが」
「?」
「聖女様が作ってくださった物ですから、神々しくないと……」
どうやらコッチの世界では、レモンイエローが神々しい色らしい。
緑の肌ばかりを重視するから、てっきりグリーン系の色合いを尊ぶかと思ったら、それは人間の場合の高貴さであって、レモンイエローのように神に属する色ではないらしい。
ーーヤベェ。
マジで、よくわかんない。
レモンイエローって明るい、白っぽい黄色だと思うんだけど。
だったら、肌の色が白いのやワタシのように黄色くても良いんじゃ!?
ーーま、文化のこと、とやかく言っても始まんない。
えっと、とりま、ワタシが好きな色はーー。
「うーん。
ワタシは桃色と紫って、大好き!
あと、黒と白もね!」
ワタシの意見を聞いて、エマは目を丸くする。
「なんていうか……商品に付けるには、すごく斬新な色使いですね。
それでは、ヒナ様の意向を加味して、もう一度よく考えてみます」
なんだか、よくわかんないけど、戸惑われてしまった。
でも、文化的センスって擦り合わせようがないだろうから、押し切った。
「ええ。お願い。
マジ、化粧品って色合いや、見た目って大切なんだから。
だって、身近に置いて、毎日使うんだかんね!
綺麗な色合いや、キラキラ光るカッティングの容器の方が、テンションあげあげかも?」
「ーーわかりました。
大急ぎで職人に容器を作らせますから、楽しみにしておいてください」




