表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/290

◆48 なんだか、バタバタしてます。

 異世界に〈聖女様〉として派遣されながらも、ワタシ、白鳥雛しらとりひなは、お城から追い出され、身の寄せどころをなくしていた。

 そんなワタシを王都の商会へと(さそ)って、寝泊まりできるようにはからってくれたのが、鎧騎士ハリエットと、その弟パーカーさんだった。

 それなのに、政変が起こって、ハリエットさんが投獄され、パーカーさんの身にも危険が迫りつつあった。

 こうなれば、やむなし。

 保護中のワタシを、自分たちの後見役である教会に差し出そうか、とまでパーカーさんは考え始めていた。


 そこへ、パーカーさんの妹である、家政婦エマが参入する。

 彼女は慎重に言葉を選びながら、話し始めた。


「お兄さんーーいえ、旦那様!

 今の段階でヒナ様を教会に差し出すのは、上手くありませんよ。

 ヒナ様は、大事なウチの切り(カード)です。

〈もう一人の聖女様〉をパーカー商会(ウチ)で抱えているということ自体が、王家に対しても、教会に対しても、牽制(けんせい)になるんですから」


「でも、王子がヒナ様を追い出しているーー」


「とはいえ、王様は、いずれが聖女様であるかを決めかねておられます。

 ですから、ハリエット様(おにいさま)がヒナ様をパーカー商会(ウチ)にお招きくださることができたわけです」


「それはそうだがーーいきなりハリエットの兄貴みたいに俺が投獄されたんじゃ、お手上げだ。

 とりあえずは教会には、後ろ盾になってもらわないと……」


 教会の権威はかなりのもので、王国権力の及ぶ範囲を超えている面もあるらしい。

 王家によって犯罪者認定されながらも、教会助けを求めて庇護(ひご)された者は、数多くいるとのことだった。


 エマがパーカーさんに詰め寄って、提案する。


「こうすれば、どうでしょう?

 聖女様がお作りになったクリームとかの化粧品(ケショウヒン)を、すべて教会への寄付という形で、お分けすることにしてはどうでしょうか。

 そして教会の名の下で、販売するのです」


「なるほど。

 利益を全部くれてやる代わりに、パーカー商会を王子の手から守ってもらおう、というわけか?」


「はい」


 もとより、他店や組合(ギルド)から横槍を入れられないために、教会の権威を後ろ盾にするつもりだったから、その方針に変わりはない。

 ただ、利益の分配率が大きく変わって、店の利益が薄くなるだけだ。


「あのうーー」


 なんだか、話が緊迫してくるのが耐えられなかった。

 こっそり逃げ出せないものかと思い、声をかける。


「ご迷惑でしたら、ワタシ、お(いとま)させていただきますが……」


 なんだったら、地球の日本東京までーー。

 そう言いたいほどだった。


 なんだか、大事に巻き込まれる雰囲気が、嫌でたまらなかった。


 が、すでに遅かった。

 パーカーさんが顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。


「それは困る。俺を殺すつもりか!?」


「こ、殺すって……そんな大袈裟な」


「大袈裟でもなんでもない。

 俺は黒人の平民だ。

 血が(つな)がってても、騎士で緑人のハリエット(兄貴)とは違う。

 裁判も開かれずに、処刑されかねん」


「ええっ!?」


 エマが、ワタシに近寄って来て懇願する。


「ケショウヒンを販売した収益のうち、ヒナ様の取り分は確保いたしますから、どうかウチに居残ってくださいませんか。

 兄や私、そしてピッケやロコのためにもーー」


 パーカーさんが(まく)し立てる。


「教会が三割、ウチがニ割、ヒナ様が五割でどうだ!?」


 その提案を耳にするや、エマは兄の耳を強く引っ張る。


「バカ言わないで!

 ウチの取り分なんて無いわよ。

 ゼロ。利益ナシ!

 生命あっての物種でしょうに」


「……」


 パーカーさん、悔しそう。


 仕方ない。

 ワタシは覚悟を決めた。


「わーった。ワタシ、聖女様なんだもんね。

 人々のためになることをするってのが、使命だかんね!」


「さすが、聖女様。立派なお心がけです」


 エマが笑顔で応える。

 その横で、パーカーさんは番頭とマオに指示を出す。

 さっそく教会に取り継ぐためだ。


 反対にエマはワタシの手を引っ張り、さらに奥の部屋へと(いざな)う。


「聖女様。これをご覧ください」


 テーブルには、化粧品のサンプルが並べられていた。

 レモンイエローの容器に、白い(フタ)ーー。

 すべてが、この色合いになっていた。


「いかがですか?

 ケショウヒンは聖魔法が込められたものですので、このような色合いにいたしましたが」


「?」


「聖女様が作ってくださった物ですから、神々しくないと……」


 どうやらコッチの世界では、レモンイエローが神々しい色らしい。

 緑の肌ばかりを重視するから、てっきりグリーン系の色合いを尊ぶかと思ったら、それは人間の場合の高貴さであって、レモンイエローのように神に属する色ではないらしい。


 ーーヤベェ。

 マジで、よくわかんない。

 レモンイエローって明るい、白っぽい黄色だと思うんだけど。

 だったら、肌の色が白いのやワタシのように黄色くても良いんじゃ!?


 ーーま、文化のこと、とやかく言っても始まんない。

 えっと、とりま、ワタシが好きな色はーー。


「うーん。

 ワタシは桃色(ピンク)(パープル)って、大好き!

 あと、(ブラック)(ホワイト)もね!」


 ワタシの意見を聞いて、エマは目を丸くする。


「なんていうか……商品に付けるには、すごく斬新な色使いですね。

 それでは、ヒナ様の意向を加味して、もう一度よく考えてみます」


 なんだか、よくわかんないけど、戸惑われてしまった。

 でも、文化的センスって擦り合わせようがないだろうから、押し切った。


「ええ。お願い。

 マジ、化粧品って色合いや、見た目って大切なんだから。

 だって、身近に置いて、毎日使うんだかんね!

 綺麗な色合いや、キラキラ光るカッティングの容器の方が、テンションあげあげかも?」


「ーーわかりました。

 大急ぎで職人に容器を作らせますから、楽しみにしておいてください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ